第76話
テスト返しの次の日。前日の遊びは楽しかったので、また皆で遊べたらと思う。
俺は今、療心学園へと向かっている。その理由は、妃奈子ちゃんに会うためだ。
俺の傷は、もう目立たない程まで治っており、もう痛みもほとんどない。だからこそ、妃奈子ちゃんと会うことにしたのである。
今の俺の状態ならば、妃奈子ちゃんのトラウマが出ることはないはずだからだ。妃奈子ちゃんも俺と話したがっているらしいので、こうして療心学園に向かっている。
療心学園の前に着いた俺は、いつも通りインターフォンを鳴らす。長井さんの声が聞こえてくると思っていた俺であったが、聞こえてきた声は違った。
『はい。児童養護施設療心学園です』
「み、美保?」
『あ、信護君?』
その声の主は、長井さんではなく美保であった。いつもだったら長井さんなので、俺は少し、驚いてしまう。
「あ、ああ。そうだけど……」
『待ってて。すぐ行くから』
美保がそう言うと、インターフォンが切れた。俺が少し待っていると、療心学園の中から美保が出てくる。
「お待たせ、信護君。どうぞ、入って」
俺は美保に案内されるがまま、療心学園の中へと入った。そして玄関で靴を脱ぐ際、美保に長井さんのことを尋ねてみる。
「今日は、長井さんはいないのか?」
「え、確かにいないけど……。なんで?」
「いや、いつもインターフォンから出てくれるの、長井さんだったからさ……」
「ああ。なるほどね。長井さんは用事があるらしくて、今はいないの」
「そ、そうなのか。それで、美保が出てくれたんだな」
「う、うん。まあ、ね……」
俺が美保にそう問うと、美保は俺から少し視線を逸らしながらも頷いてくれた。靴を脱ぎ終えた俺と美保は、手を洗うために洗面所へと向かって行く。
するとその道中で、純也君と鉢合わせた。俺たちに気付いた純也君は、声をかけてくれる。
「お、父さん。来たんだな」
「ああ。純也君。妃奈子ちゃんの様子はどうだ?」
俺が純也君に妃奈子ちゃんの事を問うと、純也君は眉をひそめる。そして、きちんと俺に答えを返してくれた。
「……そこまで、落ち込んでるようには見えない。表向きは、だけど……」
「そう、か……。取り合えず、会ってみないとな……」
「ああ。父さんが妃奈子に会えば、分かると思う。取り合えず、俺は先に行っとくから。また後でな、父さん。姉ちゃん」
「……信護君は父さんなのに、私は姉ちゃんのままだね」
純也君はそのまま去ろうとしたが、美保がそう呟いたことで純也君は足を止めた。そして俺と美保の方を振り返り、美保の呟きに返事をする。
「姉ちゃんは、俺の中で姉ちゃんのままだから。ただ、それだけだよ」
そう言い終えた純也君は、今度こそ俺たちの前から去っていく。俺がチラリと美保の顔を見ると、眉が少し下がっていた。
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