第73話
「こいつなら、母さんを悲しませねえよ!絶対!」
「そ、それはそうだと思うけど……。年齢差が……」
純也君とそのお母さんがそう言い合いをしていると、急に病室の扉が開く。そこから入ってきたのは、お手洗いにいっていた美保だった。
「あ、ね、姉ちゃん……」
美保は何も言わずに、お手洗いに行く前に座っていた椅子に座りなおした。すると、2人の言い合いはその瞬間に終わってしまう。
「み、美保?どうしたんだ?」
「……別に、どうもしてないよ?」
美保は俺から視線を外しながら、不機嫌そうにそう言った。なにか、美保の機嫌を損ねるものがあったのだろうか。
「そ、その、私たち、もうすぐ帰るわね?純也が1度家を見たいって、言ってくれたから……」
「そうなんですか?それはよかった」
純也君のお母さんが告げた言葉に、俺は心から安堵した。どうやら、2人の関係は無事に修復されたようだ。
「ええ……。これも、小田君のおかげよ」
「いえ、そんな……。俺は、少ししか協力できていませんから……」
「全然、少しなんかじゃないわ。……本当に、ありがとう」
純也君のお母さんはそう言って、満面の笑みを浮かべてくれた。その笑みを見た俺は、少し目を奪われてしまう。
「……じゃあ、私と純也は帰るわ。行きましょう、純也」
「うん。……じゃあ、またな。姉ちゃんに、父さん」
「「「とっ!?」」」
純也君が去り際に放った言葉に、俺と美保と純也君のお母さんが衝撃を受けた。まさか、俺が純也君に父さんと呼ばれるとは、思ってもいなかったからだ。
「ちょ、ちょっと純也!もう!」
「なんだよ母さん。別にいいだろ?なあ、父さん?」
純也君はそう言ってから、俺に問いかけてきた。俺としては全く問題ないので、すぐに肯定の言葉を返す。
「ああ。そう呼んでくれて、嬉しいよ」
「ほら、父さんもこう言ってる」
「で、でも……」
純也君がお母さんに告げると、純也君のお母さんはうろたえてしまう。すると、美保が急に俺に声をかけてきた。
「妃奈子ちゃんに続いて純也君も、だね」
「……そうだな。父さんって呼ばれて、悪い気はしないよ」
「うん。私も、嬉しいよ」
俺と美保が笑い合っていると、純也君のお母さんもクスリと笑った。それから純也君のお母さんは、純也君と手を繋いで話しかけてきた。
「……じゃあ、私と純也は帰るわね。本当にありがとう、小田君」
「……またな。父さん」
「ああ。また。……純也君!」
純也君とお母さんに別れを告げた俺だったが、純也君にまだ伝えたいことがあったので呼び止める。すると、純也君は俺がいる方に振り向いてくれた。
「妃奈子ちゃんとまるちゃんを、よろしくな」
「……言われなくても」
俺が言った言葉に力強く返してくれた純也君は、今度こそお母さんと一緒に病室から出て行った。こうしてまたも、俺と美保がこの病室に残された。
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