第72話
残された俺と美保の間には、静寂が流れていた。俺からも美保からも、喋ろうとはしない。
俺は少し、睡魔がきていた。あれだけ寝たにも関わらず睡魔がくるということは、それだけ俺が疲れているのだろう。
俺が少し眠くなってきていることを美保に告げようとすると、またも病室の扉が誰かによって開かれた。今日、何度目の訪問者だろうか。
「……あ、姉ちゃん」
「無事で、良かったわ」
入ってきたのは、純也君とそのお母さんだった。どうやら、俺のお見舞いに来てくれたようだ。
「純也君……」
「2人とも、怪我は?」
俺は純也君とそのお母さんに、怪我がないかどうかを問う。この2人もあの場にいたので、気になったのだ。
「ええ。大丈夫。小田君のおかげで、ね」
「……ありがとな」
純也君は頬をかきながら、俺にそう言ってくれた。俺はそんな純也君を見て微笑みをこぼしながら、純也君に語りかける。
「……お礼を言うのは、俺の方だよ。純也君」
「……え?」
「純也君があの男の前に立ちふさがってなければ、俺は足をつかめなかったかもしれない」
俺が純也君にそう告げると、純也君は目を見開いて俺を見てくる。そんな純也君に、俺は更に語りかけた。
「純也君が頑張ってくれたから、皆を守れたんだ。だから、ありがとう」
「っ――!」
俺がそう言い終えると、純也君は涙目になった。純也君はその涙を袖で拭ってから、何度も頷く。
「うん……!うん……!ありがとう……!」
純也君はまた、俺に礼を言ってくれた。俺もまた、そんな純也君を見て微笑みを浮かべる。
「……私からも、ありがとう。本当に小田君は、カッコいいのね」
「え?い、いや、別に、そんなことは……」
純也君のお母さんからそう言われた俺は、少し照れてしまう。俺がそんな反応を返すと、急に美保が立ち上がった。
「うおっ!ど、どうしたんだ?美保?」
「う、ううん。ちょっと、お手洗いに……」
「そ、そうか」
美保はそう言うと、速足で病室から出て行った。もしかすると、我慢でもしていたのだろうか。
「……小田君。さっきの子と、付き合ってるの?」
美保が病室から出て行った後、純也君のお母さんがそう問いかけてきた。俺はそんな純也君のお母さんの問いに対して、すぐに返事をする。
「付き合っては、ないですね。でも、大切な人です」
「……そう。小田君が、もう少し年齢を重ねていれば、ね……」
純也君のお母さんは微笑みを浮かべながら、そう呟いた。俺はその意味が分からなかったので、どういう意味なのかを問う。
「え?どういうことですか?」
「……ううん。なんでもないわ」
「か、母さん……!まさか……!……はっ!」
純也君はそう呟くと、何かに気付いたような表情になった。すると純也君は、お母さんに話しかける。
「お、俺はいいと思うよ!母さん!だってこいつ、カッコいいし!」
「ちょっと!?純也!?何言って!?」
純也君とそのお母さんは、俺の目の前で言い合いを始めた。なぜ言い合いが起こっているのか分からない俺は、ただそれを見ていることしかできなかった。
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