第71話
「お兄ちゃん!大丈夫!?」
入ってきたのは、俺の妹である市菜だった。市菜はすごい勢いで病室に入ってきて、俺の元までやってきてくれる。
そんな市菜の後ろには、俺の母さんもいた。俺の母さんも市菜ほどではないが、慌てた様子で入ってくる。
「あ、ああ。大丈夫だよ。そこまで深刻じゃないみたいだし」
「そう……。よかった……」
俺の返答を聞いた母さんは、ほっと息をついてからそう言ってくれた。市菜もまた、一度安心した表情になったが、すぐに涙目になって俺を見てくる。
「心配したよ……!お兄ちゃん……!救急車で病院に運ばれたって、聞いて……!」
「……ああ。心配かけてごめんな。市菜、母さん」
市菜が泣きながら告げてきたその言葉に、俺は手を伸ばして頭を撫でながら、そう返した。すると美保が、俺の家族に話しかける。
「……本当に、すいませんでした。私が不甲斐なかったせいで、信護君がこんな怪我を……」
「……謝らないでください」
「え……?」
美保が俺の家族に謝ると、市菜がそう美保に返した。そんな返答を聞いた美保は、呆けた顔を見せる。
「お兄ちゃんが皆さんを守ったことは、聞いてます。だから、謝らないでほしいんです。お兄ちゃんが、自分で決めたことだから」
市菜はそう、美保に言ってくれた。市菜の言ってくれたことは、俺が思っていた通りの事だったので、俺も市菜に続く。
「そうだぞ、美保。俺は俺がした行動に、後悔はない。だって皆を、美保を、守れたんだから」
「信護、君……」
俺が美保にそう言うと、美保は目に涙をためて頬を少し赤く染めながら、俺の名前を呟いた。そんな俺たちの様子を見ていた市菜は、なぜかため息を吐いている。
「はぁ……。また、かなぁ……」
「な、なんだよ市菜」
「ううん。……でも、心配するのはするんだからね。本当はそんな怪我、してほしくないんだから……」
市菜は顔を下に向けながら、俺にそう言ってきた。俺はそんな市菜の言葉に、深く頷く。
「……ああ。ありがとう、市菜」
俺が改めて市菜にそう言うと、市菜は眉を下げながらも笑みを浮かべてくれた。すると、母さんが市菜に声をかける。
「……市菜。そろそろ、一旦帰りましょうか。無事でよかったわ、信護」
「……うん。お大事にね、お兄ちゃん」
「ああ。ありがとう。市菜、母さん」
母さんと市菜はそう話し終えると、この病室から出て行った。それに続いて、父さんも俺に話しかけてくる。
「……私も仕事に戻ることにする。安静にな、信護」
「ありがとう父さん。助かったよ」
「ああ。信護をよろしく頼む」
「は、はい……」
父さんは俺と美保にそう言い残すと、母さんと市菜に続いてここから去っていく。そしてこの病室には、俺と美保だけが残されることになった。
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