第70話
俺が開かれた扉の方に視線を向けると、そこには白衣を着た病院の先生らしき人が立っていた。その隣には、俺の様子を見に来てくれた看護師さんもいる。
「……先生」
その2人の存在に気付いた父さんは、俺の頭から手を離してその方を向く。すると、先生と看護師さんが俺の元まで歩いてきた。
「目が覚めてよかった。早速で悪いが、怪我の状態を伝えるけど、いいかい?」
「あ、は、はい。お願いします」
そういえば、自分の怪我の状態がどういう感じなのか、一切聞いていなかった。守れたかどうかが気になりすぎて、考えていなかったのだ。
「まず、打撲はいうまでもないよね。それより、鼻だ。骨折してしまっている」
「骨折、ですか……」
「何度も殴られたから、骨折してしまったのだろうね。幸いと言っていいのか、軟骨骨折だから、1週間ほど安静にしていれば治るよ。一応、精密検査は受けてもらうけど、特に曲がってるわけでも呼吸困難でもなさそうだから、大丈夫だとは思う」
どうやら、そこまで深刻な怪我には至っていないようだ。体が痛むのは、打撲のせいなのだろう。
「そうですか。この後、自分はどうすれば?」
「検査を受けてもらって、その結果次第かな。準備が出来たら、こちらから呼ばせてもらうよ」
「分かりました。ありがとうございます」
俺はベッドに横たわったままではあるが、しっかりと先生に礼を告げた。先生と看護師さんはそう言い終えると、またこの病室から去っていく。
「よし。じゃあ、お大事にね」
「お大事に~」
先生と看護師さんは俺にそう言ってくれて、病室からでていった。それに続いて、長井さんも俺に話しかけてくる。
「じゃあ、私とまるちゃんは帰るわ。お大事にね?小田君」
「うう~……!まだパパといたいよぉ~……!」
「いつまでもはだめだから、ね?また会えるから」
「……うん。バイバイ、パパ」
長井さんにそう言われたまるちゃんは、寂しそうな顔をしながら俺に別れを告げてきた。俺は微笑みを浮かべながら、まるちゃんの別れに応じる。
「ああ。またな。まるちゃん。長井さんも、また」
俺がまるちゃんと長井さんに別れを告げると、長井さんとまるちゃんは病室から出て行った。この部屋には、美保と父さんが残る。
すると父さんが、スマートフォンを取り出した。そして少し操作してから、俺に話しかけてくる。
「……市菜と母さんが、病院に着いたそうだ」
「……そっか。2人にも、心配させてしまったし、謝らないとな……」
「そうしろ」
「あ、あの……」
俺と父さんがそんな会話をしていると、美保が声をかけてきた。そんな美保の方に、俺と父さんが顔を向ける。
「どうしたんだ?美保?」
「そ、その、ご家族が、いらっしゃるんだよね?私、いないほうが……」
俺が美保に問いかけると、美保はそんなことを言ってきた。俺としては美保がいてくれても問題ないので、そのことを伝える。
「い、いや。別にいいんじゃないか?なあ、父さん?」
「ああ。それに、もう無理だろう」
「……え?」
父さんが言った言葉に、美保は驚きの声をあげる。するとその瞬間、この病室の扉がまたも開いた。
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