第67話
俺が拳を受け続けていると、サイレンの音が聞こえてきた。警察が来てくれたのだ。
「なっ……!?クソがぁ……!もうかよぉ……!」
男もその音に気付いたようで、一度俺を殴る手を止めた。そしてその音をした方を見た後、また俺に拳を一発入れてきた。
「てめぇのせえで、時間が無くなっちまったじゃねえか……!どうしてくれんだ?あ?」
男が俺に向かって言ってきたことは、俺の目的が果たされたことを示していた。俺は鼻血と口が切れたことによって血だらけになった口を上げて、ニヤリと笑みを浮かべる。
「チィ!」
男は家の中へと戻ろうとするが、俺が男の足から手を離していないので、男は戻ることができない。その事実に、男は信じられないようなものを見るような目で俺を見てきた。
「なっ!?いい加減離せよぉ!あいつらの方とは逆だろうが!」
「いかせ、ない……!警察が、来るまで、ここにいろ……!」
「こ、こいつはぁ……!」
男はそんな俺の言葉を聞いて、俺から体を引いた。だが、それも一瞬の事で、すぐに俺を殴ってくる。
「離せ!離せっつってんだろ!」
俺がその拳を受けていると、その拳が急に止められた。止めてくれたのは、警察官の人だった。
「なっ……!」
「暴行罪で現行犯だ!」
「無駄な抵抗は止めなさい!」
2人の警察官によって、俺からその男が離れていく。それでやっと、俺への暴行が終わった。
「信護!」
すると、もう1人の警察官が俺の名前を呼んできた。視界がぼやけていた俺には、はっきりとその姿は見えなかったが、声でその正体が分かる。
「父、さん……?」
「ああ!そうだ!無事か!?信護!?」
「俺、守れた……?皆を、守れた……?」
「っ――!」
俺はそう父さんに問うたが、父さんからすぐに答えが返ってこない。父さんに抱えられた感覚がした俺は、父さんの体があるであろう方向へと頭を倒す。
「ああ……!お前以外は、軽傷で済んでる……!」
「そ、っか……。よか、った……」
「信護君……!」
俺が安心していると、美保の声が聞こえてきた。俺は朦朧とする意識の中、なんとか美保の名前を返す。
「美、保……?大、丈夫、か……?」
「それは、信護君の方だよ……!ごめんなさい……!何にも、できなくて……!」
「い、や……。美保が、家族が、無事なら、よか、った……」
美保が泣きながらそう謝ってくるので、俺は端的にそれだけを伝える。それ以上は、口が動くことを許さなかった。
「信護、君……」
美保が俺の名前を呼んだのを最後に、俺の意識はどんどんと遠のいていく。最後に俺の耳に入ってきたのは、俺を心配して叫んでくれる皆の声だった。
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