第63話
呼んだタクシーが来たので、俺たちはそのタクシーに乗り込む。すると、長井さんが地図を見せながら、行き先を告げてくれた。
この間にも、俺は美保とのトーク画面を開いているが、既読が全くつかない。試しに電話もかけてみたが、繋がらずに切れてしまう。
「くそっ……!繋がらない……!」
タクシーは走り出したが、未だ美保の状況が分からない。だからこそ、俺は不安になってしまう。
「姉ちゃん……!無事でいてくれ……!」
純也君がそう、手を握って願っていた。そんな純也君の行動を見て、俺はこぶしを握り締める。
俺が美保に、妃奈子ちゃんのことをもっと聞いていれば。妃奈子ちゃんの事情を知っていればと、後悔せずにはいられない。
だが今、その後悔をしていてはいけないのだ。今はなりよりも、父親がいるであろう所へ向かうしかないのだから。
「……ここで大丈夫です!降ります!」
すると長井さんが、タクシーを止めさせた。そして素早く料金を払い、タクシーから出ていく。
俺たちも長井さんに続いて、すぐにタクシーから降りた。長井さんはすぐそばにあった狭い道へと走り出す。
「ここを真っすぐなの!ここを抜けたら、その目の前よ!」
俺たちは長井さんに続いて、その狭い道へと入っていく。その道は確かに狭く、車一台すら通れない程であった。
通れて人2人が限度なその道を、俺たちは突き進んでいく。すると、ある家が見えた。
「……ここよ」
長井さんはその家の前で立ち止まり、俺たちにそう告げる。俺は周りを見渡すが、美保の姿も妃奈子ちゃんの姿もない。
だが、家のドアの前に、何かが落ちているのが見えた。それに見覚えがあった俺は、門扉を開いてドアの前まで歩いて行く。
「ちょ、ちょっと!?小田君!?」
長井さんにそう声をかけられるが、俺は止まらずにそれの傍まで行く。それの正体は、壊れたスマートフォンだった。
俺はこのスマートフォンを、知っている。美保が、同じスマートフォンを使っていたはずだ。
「……やっぱり――!」
「きゃああああああああ……!」
俺が家の方へと視線を向けたのと同時に、家の中から悲鳴が聞こえてきた。この悲鳴は、妃奈子ちゃんのものだ。一度聞いているので、よく分かる。
「っ――!」
それに気づいた俺は、すぐにドアに手をかける。鍵がかかっているのもだと思っていたが、なぜかかかっていなかった。
だが、その理由を考える余裕など、ありはしない。俺は走り出して、家の中へと入っていく。
「お、小田君!?ちょっ!?もう!お母さん!警察に連絡を――!」
そんな長井さんの声を聞き流しながら、俺はリビングへと突入していく。するとそこには、床に倒れている美保と、泣いている妃奈子ちゃんがいて、その前に、小太りな男がいた。
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