第62話
「長井さん。妃奈子ちゃんは、見つかったんですか?」
「まだ、そんな連絡はないわね……。純也君を療心学園に送ったら、また探しに行こうと思ってるの」
俺が長井さんに問いかけると、そんな答えが返ってきた。どうやら長井さんも、妃奈子ちゃんについては何も知らないようだ。
だが、それは不可解だ。なぜ長井さんが心当たりがなくて、美保に心当たりがあるのか。
「でも、美保が心当たりがあるって言ってましたよ?そろそろ、見つけてるんじゃないですか?」
「え?み、美保ちゃんがそんなことを?」
美保が妃奈子ちゃんの行き先に心当たりがあると言っていたことを長井さんに告げると、長井さんは目を見開いて驚いてみせた。長井さんには、心当たりすらないらしい。
「心、当たり……」
俺と長井さんの話を聞いていた純也君がそう呟いて、何かを考え始める。すると、純也君の顔がどんどん青くなっていった。
「い、いや、そんな……。でも、まさか……」
「な、何か心当たりがあるのか!?」
そんな純也君に、俺はその内容を問いかけた。何か少しでも、情報がほしかったからだ。
「あ……。妃奈子は、もしかしたら、連れ去れた、のかも……」
「……なん、だって?」
純也君が告げたのは、考え得る限り最悪なものだった。なぜそんな、連れ去られたというような考えが出てきたのか。
「つ、連れ去られたって、いったい誰に……」
「妃奈子の、父親に……」
「なっ!?ま、まさか、そんなこと……!?」
俺が妃奈子ちゃんが誰に連れ去られたのかを純也君に問うと、妃奈子ちゃんの父親という答えが返ってくる。その答えに驚いたのは俺だけではなく、長井さんもそうだった。
「な、なんで妃奈子ちゃんの、父親が……」
「妃奈子の父親は、最低な奴だ……!あいつなら、ありえる……!多分、姉ちゃんもそう思って……!」
「っ……!すぐに向かいましょう!小田君!タクシーを呼んでもらえる!?」
「は、はいっ!」
俺はすぐにスマートフォンを出して、タクシー会社に電話をかける。幸い俺が乗ってきたタクシーがまだこの近くにいるらしく、すぐに向かわせてくれるらしい。
「それほど時間はかからないみたいです!」
「そう!なら、それに乗っていくわよ!行き先は私が知ってるから!」
妃奈子ちゃんの父親がどういって人なのか、俺は全く知らない。だが、先程の純也君の口ぶりからして、妃奈子ちゃんに虐待をしていたのは父親で間違いないのだろう。
そうなら、妃奈子ちゃんが危ない。……いや、妃奈子ちゃんだけじゃない。先に向かっているであろう美保にも、危険が迫っている可能性がある。
取り合えず、向かわなければ。間違いだったのなら、別の場所を探せばいいのだから。
だがもし、本当にそうだったのなら、助けなければいけない。妃奈子ちゃんと、美保を。
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