第59話
「ごめんね純也……!ごめんね……!」
純也君に抱き着きながら謝り続ける純也君のお母さんは、なおも涙を流し続けている。そんな純也君のお母さんに続いて、純也君もついに、涙を流し始めた。
「1人が、嫌だった……!」
「純也……」
「母さんが忙しかったのは、分かってる……!でも、それでも……!話したかった……!遊びたかった……!それで、なりよりもただ、一緒にいて、ほしかった……!」
純也君は泣きながら、そう訴えかけた。そんな純也君の訴えを聞いた純也君のお母さんは、純也君を思いっきり抱きしめる。
「ごめんね……!もう、そんなことしないから……!私も純也と、一緒にいたい……!」
「あ……。母、さん」
お母さんに抱きしめられそう言われた純也君は、自らのお母さんを抱きしめ返そうとする。だが、そうすんなりと手が動いているわけではなかった。
療心学園のことが、頭にあるのだろうか。純也君にとって、療心学園はもう居場所になっていたのだ。
それならば、その居場所に帰りたいという思いがあってもおかしくない。そこで、迷っているのかもしれない。
こんな時、俺はどう声をかけたらいいのだろうか。俺がそう迷っていると、俺の背後から走ってくる音が聞こえた。
「い、いた!純也君!」
「な、長井さん!?」
「お、小田君!?なんでここに!?」
走ってきたのは、療心学園の職員である長井さんだった。俺が長井さんが来たことに驚くと、長井さんも俺がいることに驚く。
「お、俺も純也君を探してまして……。それより、純也君を……!」
「そ、そうね。純也君!」
「な、長井、さん……?」
長井さんが純也君に声をかけたことで、純也君が長井さんの存在に気付いた。そんな純也君に、長井さんが語りかける。
「もう!今までどこに行ってたの!どれだけ心配したことか……!」
「心配、してくれたのか……?」
「当たり前でしょう!」
純也君の質問に対して、長井さんが当然のようにそう頷いた。やはり、療心学園に居場所がないなんてことは、なかったのだ。
そう思わせてしまったのは、俺のせいなのだろう。俺が療心学園に来たからだと、純也君は言っていたのだから。
「あなたは……?」
純也君のお母さんが、長井さんにそう聞いた。長井さんは少し驚きながらも、その質問に答える。
「療心学園の、長井といいます。……純也君のお母さん、ですか?」
「……はい。純也が、お世話になっております……」
「いえ……。それより、なぜあなたが?」
長井さんは少し目を鋭くして、純也君のお母さんにそう質問した。まさか長井さんは、純也君のお母さんを疑っているのだろうか。
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