第58話
「なんでっ……!お前がっ……!」
純也君はそう言ってから、俺から離れようとした。そんな純也君を、純也君のお母さんが肩を掴んで止める。
「ちょ、ちょっと純也!」
「離せよ母さん!」
「は、離さないわよ!皆、心配してるんだから……!」
純也君のお母さんがそう伝えると、純也君の抵抗が止む。分かってくれたのだろうか。
「心配……」
「そ、そうよ!小田君だって、心配して探してくれたんだから!」
「……そんなの、頼んでねえ」
「……俺じゃ嫌だったかもしれないけど、心配してるのは本当だ。美保だって、心配してたぞ」
俺が美保の名前を出すと、純也君の体がピクリと揺れる。それから、体を震わせ始めた。
「でも、姉ちゃんは来てないじゃないか……!全部、お前のせいだ……!」
「……え?」
純也君が俺の方に振り返って、睨みながらそう告げてきた。俺は意味が分からず、そんな声を出すことしかできない。
「お前が来てから、姉ちゃんは変わった……!最近は、まるちゃんとお前の事ばっかりだ……!」
「あ……」
純也君が放った言葉に、俺は言葉を詰まらせてしまう。この言葉で、なぜ純也君が俺にこんな対応をするのかが、なんとなく分かった。
俺は今まで、純也君が美保の事を好いているからだろうと思っていた。だがそれよりも、ただ美保が俺に取られたと思ったのかもしれない。
「妃奈子だってそうだ……!最近は、お前の事ばっかりで……!」
美保だけじゃなくて、妃奈子ちゃんのこともそう思っていたのか。やはり、部外者の俺が療心学園の人たちと仲良くしているのが、気に入らないのだろう。
「……純也君は、療心学園が好きなんだな」
「当たり前だろ!俺を、受け入れてくれたところなんだから!」
「っ……!」
純也君の叫びを聞いた純也君のお母さんが、顔を歪ませる。そこまで追い詰めてしまったのは、自分のせいだと思っているのだろうか。
「でも、俺の居場所なんて、もうないんだ……!妃奈子にだって、酷いことをした……!俺は、知ってたのに……!」
家出の理由は、それだったのだろう。俺が疎ましかったこと。そして、妃奈子ちゃんに酷いことをしたこと。
それらが積み重なって、自分の居場所がなくなったと思ってしまったのだ。そんなこと、絶対にないのに。
「ごめんね……!ごめんね、純也……!」
「なんで、母さんが、泣いてるんだよ。関係ないだろ……」
「本来なら私が、その居場所に、ならなきゃいけないのに……!ごめんね……!」
「何を、今更……!」
純也君のお母さんが泣きながら純也君に謝り始めると、純也君もまた涙目になる。そんな純也君に、純也君のお母さんはただ謝り続けた。
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