第54話
カラオケ店を出た俺は、あてもなく走っていた。純也君に妃奈子ちゃんがそれぞれどこにいるのか、俺には見当もつかないからだ。
幸い妃奈子ちゃんの行き先は、美保が心当たりがあるという。だから俺は、純也君の行きそうな場所へ向かうのが一番いいのだろう。
だが、その肝心な純也君の行き先が分からないのだ。俺は、一体どこに向かえば……。
「あっ……!そうだ……!」
1人だけ、純也君の行き先を予想できそうな人がいた。俺はその人を思い出し、走りながらポケットからスマートフォンを取り出す。
そして俺は、その人に電話をかけた。数回コールが鳴ってから、相手が電話に出てくれる。
『も、もしもし!?じゅ、純也になにか!?』
俺が電話をかけたのは、純也君のお母さんだった。連絡先を交換しておいて、本当によかった。
「も、もしもし!純也君が、療心学園からいなくなったそうで……!」
『えっ!?そ、そんな……!じゅ、純也は!純也は無事なんですか!?』
俺が事実を告げると、純也君のお母さんが慌てて聞いてきた。純也君のお母さんがこのような状態では質問もできないので、俺は一旦落ち着いてもらえるように声をかける。
「お、落ち着いてください!そうならないために、こうして電話をかけました!」
『そ、そう、ですね。わ、私、探しに行きます!』
「俺も、探しに出てます。それで、純也君が行きそうな場所とか、どこか心当たりはありませんか?」
俺がそう純也君のお母さんに問うと、純也君のお母さんは黙ってしまった。恐らく、悩んでいるのだろう。
『……私が知っているのは、私と暮らしていたころの純也です。療心学園に行ってからの純也が、行きそうな場所は分かりませんが……。心当たり、なら……』
「なんでもいいです!少しでも、手がかりになれば……!」
『公園、です。候補は、2つあるんですけど……。2つとも、家から歩いて行ける公園ではあるんですけど、位置が真逆で……』
「その公園は、それぞれどこに!?」
今のところ、手がかりはこれしかない。それなら、もうそこに向かうしかないだろう。
『……1つは、療心学園方向の公園で、もう1つが、岐阜公園です』
どちらの公園も、俺は知っている。療心学園方向の公園は、比較的小さい公園だ。
岐阜公園は、療心学園の遠足で行ったところである。カラオケに来ていた俺の位置からすれば、どちらも似たような距離だ。
「……じゃあ、俺は岐阜公園に向かいます。だから……」
『私は、逆の公園に行けばいいのね!?』
「は、はい!よろしくお願いします!」
俺がそう言うと、純也君のお母さんが電話を切った。俺もスマートフォンを閉じて、ポケットに戻す。
俺が岐阜公園を選んだ理由は、岐阜公園の方が広いからだ。探すのに苦労するなら、若い俺の方がいいと判断した。
岐阜公園に純也君がいなければ、逆の公園まで走ればいいだけのことだ。取り合えずは、岐阜公園に向かうのが最善だろう。
こうしている間にも、純也君に危険が迫っているかもしれないのだ。できる限り、早く向かわなければ。
俺は信号のない裏路地を駆使しながら、岐阜公園へと急ぐ。そして徐々に、スピードを上げていった。
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