第53話
すぐにカラオケルームに辿り着いた俺は、勢いそのままにドアを開いた。俺が急に入ってきたことに、カラオケルームにいた面々は驚く。
「うおっ!ど、どうした信護!?」
「悪い!先に帰らせてもらう!」
「はあ!?」
俺が端的に事実を告げると、秀明が信じられないというような声をあげる。だが、俺はその間にも、自分の荷物を素早くまとめていた。
「ど、どうした?何か、用事を思い出したのか?」
「そ、それとも、さっきの電話で何かあった、とか?」
勝と照花が戸惑いながらも、俺に問いかけてくる。だが、詳しく話している時間はないし、話すことはできない。
「……どっちもだ。とにかく、俺は行くよ」
迅速に自らの荷物をまとめ終えた俺は、その荷物を持って部屋を出るためにドアに手をかける。今は1分1秒が、本当に惜しいのだ。
「ま、待ってよ信護!そんな、急に……」
「……悪い」
心南の制止に対して、俺は謝罪をしてから扉を開けた。申し訳ないとは思っているが、純也君と妃奈子ちゃんの方が心配なのだ。
純也君も妃奈子ちゃんも共に、まだまだ小学生の子供である。危険が付きまとうことは、間違いないのだから。
俺がカラオケルームから出ようとすると、俺の手が誰かに掴まれた。振り返ると、その先には桜蘭がいた。
「し、信護君……。なんで、そんなに焦ってるの?」
「……焦ってる?」
……確かに、俺は焦っていたのだろう。純也君と妃奈子ちゃんのことを心配するあまり、焦って何も見えなくなっていた。
それは、いけないことだ。心配して焦るのは仕方がないにしても、冷静に考えることは忘れてはいけない。
俺はふぅ、と一息吐いて、一旦心を落ち着かせる。そうしてから、桜蘭に礼を言った。
「……ありがとな、桜蘭」
「え?う、うん……?い、行くん、だよね?」
なぜ礼を言われたのか分かっていなさそうな桜蘭であったが、俺から焦りが薄くなったことで一応頷いてくれたようだ。桜蘭は続けて、行くのかどうかを問いかけてきた。
「ああ。行かなきゃいけないんだ」
俺は力強く、そう返す。これは桜蘭だけではなく、このカラオケルームの中にいる全員に向けた言葉だ。
「……そっか」
「本当に悪い。できればまた、遊んでくれ」
「そんなの、当たり前だろうが」
「急いでんだろ?はよ行ってこい!」
「またね~!信護君!」
桜蘭の反応を聞いてから、俺は頭を下げて謝る。すると、勝に秀明、照花がそう言ってくれた。
俺はそんな言葉に頷きを返して、今度こそカラオケルームから出ていく。その時に、皆が俺に手を振ってくれた。
俺も皆に手を振り返してから、その場を去った。最後に心南が手を伸ばしてきたように見えたが、きっと俺から見て、そう見えてしまっただけだろう。
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