第44話
「えっ?た、ただい、ま……?」
妃奈子ちゃんは困惑しながらも、そう返してくれる。俺たちは笑いながら、妃奈子ちゃんと長井さんを部屋に招きいれた。
「もう、大丈夫なんだな。よかった……」
「うん……。本当にごめんねお兄さん……。急に叫んじゃって……」
「いや、全然大丈夫だ。戻ってきてくれてよかった」
俺は微笑んだまま、妃奈子ちゃんの頭を撫でる。元気さはなかった妃奈子ちゃんだったが、俺に撫でられて少し顔をほころばせてくれた。
「う、うん……」
「お姉ちゃん!また、遊んでくれる?」
「え?も、もちろんいいけど……」
「ほんと!?わーい!じゃあ、遊ぼー!パパ、もう帰っちゃうらしいの!」
妃奈子ちゃんがまるちゃんの言葉に頷くと、まるちゃんは喜んだ。まるちゃんが最後に言った言葉に、妃奈子ちゃんが反応する。
「えっ……。お兄さん、帰るの?」
「……ああ。テストが近くてな。勉強があるから、長くはいられないんだ」
「そっか……」
俺がそう告げると、妃奈子ちゃんは目に見えたように落ち込んだ。俺はそんな妃奈子ちゃんの頭を、再度撫でる。
「だから美保と一緒に、まるちゃんを頼むよ。俺もテストが終わったらまた来るから」
「……うん。任せて」
妃奈子ちゃんは微笑みを浮かべて、俺の言葉に頷いてくれた。その返事が聞けた俺はこの部屋から出るために歩き出す。
「私、見送ってくるね。長井さん。まるちゃんと妃奈子ちゃんをお願いします」
「え、ええ」
美保も俺を見送るために来てくれるらしく、俺たちは一緒に部屋を出た。部屋を出る時に、まるちゃんと妃奈子ちゃんに手を振ることを忘れない。
部屋を出た俺と美保はすぐに玄関へとたどり着き、俺は自らの靴を履いた。それから美保の方に振り返り、美保のまるちゃんと妃奈子ちゃんの事を頼む。
「まるちゃんとも妃奈子ちゃんとも、テストが終わるまで俺は会いに来れない。だからその間、2人を見ていてやってくれ」
「……もちろんだよ。何かあったら、連絡するね」
「ああ、頼む。……じゃあ、帰るよ。またな、美保」
「うん。またね……。ううん。いってらっしゃい、の方が、いいかな?」
美保が微笑みながら言った一言に、俺は驚いてしまう。だが、俺はすぐに笑って、こう返した。
「ああ。いってきます」
俺は美保にそう言ってから、療心学園の扉を開いて、外に出る。その扉が閉まるまで、美保は手を振ってくれた。
俺も美保に手を振り返して、扉が完全に閉まってから歩き始める。するとすぐに、俺のスマートフォンに通知がきた。
こんなにすぐ、美保が連絡してきたのだろうか。そう思ってスマートフォンを開くと、差出人は美保ではなかった。
文芸部のグループに、連絡がきていたのだ。そしてその差出人は、その部長である生駒先輩であった。
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