第43話
あれからしばらくの間、この部屋で待っていたが、結局未だ妃奈子ちゃんは戻ってきていない。俺はいつまでもこの療心学園にいるわけにはいかないので、そろそろ帰る準備をし始める。
「よし。じゃあ、そろそろ帰るよ」
「え?もう、帰っちゃうの……?」
俺が帰ることを告げると、まるちゃんが悲しそうにそう言ってきた。俺としてももう少し居たい気持ちもあるのだが、テスト勉強もしなければいけない。
「ああ。ごめんなまるちゃん。それと、来週と再来週は会えないんだ」
「え、な、なんで……!?なんで会えないの!?」
俺が言った事実に、まるちゃんは困惑を隠せないようだ。まるちゃんにとっては、二週間続けて俺と会えないのは耐え難いと思ってくれているのかもしれない。
だが、テスト勉強をしなければいけないのは変わらないのだ。その代わり、夏休みになればいくらでも会える。
「テストがあるんだ。でも、それが終われば学校も休みになって、会いに来れるから」
「で、でも、そんなに会えないなんて……」
「うっ……!」
まるちゃんが悲しそうにそう言うので、俺に罪悪感がのしかかる。でも、これは仕方のないことなのだ。
「……本当にごめんな、まるちゃん。でも必ず、また会いに来る」
「約束、だよ?」
「ああ。約束だ」
俺がそう言うと、まるちゃんはしぶしぶではあろうが頷いてくれた。俺は美保に、まるちゃんを頼むという意味を込めて視線を向ける。
すると美保も、それに気づいてくれたのか頷きを返してくれた。俺もそれに応じるように、俺も頷きを返す。
「……待ってるから、絶対来てね?」
「ああ、もちろんだ。ありがとう。まるちゃん」
俺はまるちゃんが言ってきた言葉にも頷いて、まるちゃんに微笑みを向ける。そして俺が立ち上がると、まるちゃんと美保もその場から立ち上がった。
俺たちはそのまま、玄関に向かうためにこの部屋から出ようとした。だが、俺たちが扉に手をかける前に、この部屋の扉が開く。
その扉を開いた人物は、妃奈子ちゃんの部屋にいるはずの長井さんだった。俺はその事実に驚いて、長井さんに問いかける。
「長井さん!?ど、どうしてここに……!妃奈子ちゃんの部屋にいるはずじゃ……!?」
「あ、ああ。それは……」
俺が長井さんに問いかけると、長井さんは後ろの方に視線を向ける。すると、長井さんの後ろから、妃奈子ちゃんが現れた。
「ひ、妃奈子ちゃん……!?」
「う、うん……。ごめんね、お兄さん……。迷惑かけて……」
「迷惑なんかじゃ……。いや、それよりも先に……」
現れた妃奈子ちゃんは元気そうではなかったが、会話ができるぐらいには回復しているようだ。俺は迷惑なんかじゃなかったことを告げようとしたが、それよりも先に告げたいことがあることを思い出し、美保とまるちゃんに視線を向ける。
美保とまるちゃんも分かったらしく、それぞれ頷きを返してくれる。そして俺たちは、声をそろえてこう言った。
「「「おかえり」」」
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