第42話
帰ってきた美保と共に、俺とまるちゃんは座る。三人全員が座ってから、俺は美保に妃奈子ちゃんの事について問い始めた。
「……妃奈子ちゃんは、どうなったんだ?」
「妃奈子ちゃんは、妃奈子ちゃんの部屋のベッドまで運んだよ。まだ、寝てると思う。部屋には長井さんを残してきたから、大丈夫だよ」
「そうか……」
その事実を聞いて、俺はまずはホッと息を吐く。妃奈子ちゃんがあれ以上ひどい状態には、なっていないようだったからだ。
「ママ……!お姉ちゃん、大丈夫なんだよね……?」
「うん。大丈夫だよ、まるちゃん。すぐによくなると思う」
「そうなの?よかったぁ……!」
まるちゃんの質問に対して、美保は微笑みを浮かべたまま返事をする。するとまるちゃんも安心したようで、まるちゃんの顔もほころんだ。
「……じゃあ、聞いてもいいか?なんで妃奈子ちゃんが、あんな状態になったのかを……」
俺がそう質問すると、美保の微笑みが消えて真剣な表情になる。そしてまるちゃんを一度チラリと見てから、話し始めた。
「……うん。でも、想像はついてるんじゃないかな?」
「やっぱり、虐待、なのか?」
俺がそう聞くと、美保はゆっくりとした頷きを返してくる。俺はその事実を知り、また拳を作った。
「……でも多分、信護君が想像しているよな虐待だけじゃないと思う」
「え?ど、どういうことだ……?」
「それは……」
美保は説明しようとしたが、まるちゃんをチラリと見て口をつぐんだ。まるちゃんの前では、言えないような内容なのだろうか。
俺が思った妃奈子ちゃんが受けてきた虐待は、暴力による虐待だ。あのシーンで泣き始めたことから見ても、そうだと思った。
だが、美保の口ぶりからだと、まるでそれ以上のことがあったように聞こえる。俺はそのことについて知るために、美保に問いかける。
「……暴力、だけじゃないのか?」
「……うん。ごめん。これ以上は、言えない」
暴力を受けていただけではないことは答えてくれたが、それ以上は言ってくれなかった。恐らく、まるちゃんの前では言えないことなのだろう。
俺も美保から、それ以上の事は聞こうとしなかった。美保がそう判断したのなら、俺から言えることはもうない。
「そうか。分かった。取り合えず、妃奈子ちゃんには暴力的なところを見せなければいいんだろ?」
「そうだね。お願い」
「ああ。妃奈子ちゃんをあんな状態にしたくないのは、俺も同じだしな」
俺はそう言いながら、拳を更に強く握りしめる。すると、まるちゃんが俺と美保に問いかけてきた。
「ねえねえパパ、ママ。まるが、お姉ちゃんのために出来ることって、ある?」
まるちゃんがしてきたそんな質問に、俺は感動してしまう。まるちゃんが妃奈子ちゃんの心配をして、行動しようとしている事実に。
「……優しいな、まるちゃんは」
俺はそう言って、まるちゃんの頭を撫でる。すると美保も、まるちゃんの頭を撫で始めた。
「そうだね……。まるちゃんができることは、また妃奈子ちゃんと遊んであげることかな?」
「それだけでいいの?」
「うーん……。後は、おかえりって、言ってあげよっか」
美保は微笑みを浮かべながら、まるちゃんにそう告げた。美保の言葉を聞いたまるちゃんは、笑顔になって頷く。
「うん!おかえりって、言う!」
まるちゃんがそう言うと、美保も微笑んだまま頷いた。そんな2人を見て、俺にも笑みがこぼれる。
そしてそのまま、俺と美保はしばらくまるちゃんを撫で続けた。妃奈子ちゃんがここに戻ってくるのを、家族で待ちながら。
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