第39話
「……純也君」
「純也。どうしたの?」
「……別に、なんだっていいだろ」
俺と妃奈子ちゃんが純也君の名前を言って、妃奈子ちゃんは純也君にそう問いかけた。そんな問いに対して純也君は、視線を逸らしながら答える。
「そんな言い方しなくても……」
「ふんっ……」
妃奈子ちゃんは眉を顰めながら純也君に告げるが、純也君は全く気にせずに美保の方へと視線を向ける。美保がまるちゃんとおもちゃの料理で遊んでいるのを見たのか、純也君は軽く笑った。
「はっ……。おままごとでもしてたのか?」
「そうだけど?」
「お前もやってるのかよ。その年で?」
視線を妃奈子ちゃんの方に戻した純也君は、妃奈子ちゃんを嘲笑うかのようにそう言った。それに対して妃奈子ちゃんは、露骨に顔を顰めながら純也君に言葉を返す。
「別にいいでしょ?まるちゃんが喜んでくれるんだし。それに、楽しいしね」
「ふんっ……。まあいい」
妃奈子ちゃんの言葉を聞いた純也君はそう言ってから、机にあったリモコンを取った。するとその時、美保とまるちゃんが帰ってくる。
「お待たせ。信護君、妃奈子ちゃん」
「パパ~!お姉ちゃーん!できたよ~!」
「お、ありがとな」
「ありがと」
美保とまるちゃんがおもちゃを持ってきたので、俺と妃奈子ちゃんは微笑みながら礼を言う。純也君はそんな様子を見ながら、舌打ちをしていた。
「あれ?純也君、テレビ使うの?」
「……うん。見たいやつがあるから」
美保の問いに頷いた純也君は、テレビのリモコンを操作して録画画面を開く。どうやら、見たいものを取っていたようだ。
「そっか。でも、気を付けてね」
「……分かってるよ。バトルものは選ばないから」
「ママ~!早く食べようよ~!」
まるちゃんがそう言ったことで、美保が純也君からおままごとの方に戻る。美保は微笑みを浮かべながら、まるちゃんの頭を撫でた。
「そうだね。そうしよっか。じゃあ皆、手を合わせて」
俺たちは美保に言われた通り、各々が手を合わせる。そして、声を合わせてこう言った。
「「「「いただきます」」」」
本当に食べるわけではないが、おままごとなのでなり切ってそう言う。すると、笑顔のまるちゃんが俺に問いかけてきた。
「どう!?パパ!美味しい!?」
「ああ。美味しいぞ。ママを手伝ってくれてありがとな。まるちゃん」
「えへへっ!やったー!」
俺がまるちゃんを褒めると、まるちゃんは嬉しがってくれた。そんなまるちゃんに俺も笑みがこぼれるが、俺はチラリと純也君の方を確認した。
どうやら、恋愛系のドラマを見ているようだ。純也君は、そんなものも見るのかと、少し驚いてしまう。
「どうしたの?」
「ああ、いや。恋愛系のドラマが流れてるから、少し驚いたんだ」
「そっか。純也は結構、色んな作品見るよ」
俺が驚いていたことを告げると、妃奈子ちゃんがそう返してくれる。俺はその言葉に納得しながら、そのドラマに視線を移す。
するとその瞬間、そのドラマの中で男性が女性の頬を叩いた。まあ、頬を叩くぐらい、ドラマではよくあることだろう。
「……き、きゃああああああああ!」
だが、そんななんでもないであろうシーンで、なぜか大きな悲鳴が聞こえてきた。その悲鳴の主は、俺のすぐそばにいる妃奈子ちゃんだった。
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