第38話
手を洗い終えた俺は、長井さんと共に美保たちが待つ部屋と向かって歩いている。長井さんの後に続いて歩いていた俺は、長井さんが立ち止まったのに合わせて立ち止まった。
「この部屋にいるはずよ」
「ありがとうございます。長井さん」
「いいのよ。じゃあ、よろしくね?」
「はい」
俺が頷きを返すと、長井さんは微笑んでからその場を去っていった。俺はそんな長井さんを見送ってから、その扉に手をかける。
「あ!パパ!お帰り~!」
「お、お帰りなさい。お父、さん」
俺が扉を開けると、まるちゃんと妃奈子ちゃんからそんなことを言われた。俺は妃奈子ちゃんにお父さんと呼ばれたことに驚きながら、まるちゃんと妃奈子ちゃんの方を見る。
見るとそこには、おままごとに使うおもちゃがあった。妃奈子ちゃんの呼び方は、その延長線上なのだろう。
「お、おう……。た、ただいま?」
「ふふっ。おかえりなさい。信護君」
美保は俺のそんな反応を見て、少し笑いながらそう言ってきた。俺はそんな美保に、この現状を問う。
「これ、おままごとをしてたのか?」
「うん。そうだよ。パパが仕事中って設定でね」
「パパ!お仕事、お疲れ様~!」
「つ、疲れてるでしょ?座って」
妃奈子ちゃんの指示に従って、俺はまるちゃんと妃奈子ちゃんの間に腰かける。どうやら、このままおままごとを続行するようだ。
まるちゃんたちが楽しんでくれるなら、俺としては何の問題もない。俺はまるちゃんたちの設定に合わせて、おままごとに加わった。
「あ、ああ。ありがとな。いい子にしてたか?」
俺は父親として、まるちゃんと妃奈子ちゃんの頭を撫でる。すると二人とも、それを嬉しそうに受け入れてくれた。
「うん!」
「う、うん。お父さんの手って、こんなに気持ちいいものなんだね……」
「ふふっ。よかったね二人とも。パパに撫でてもらえて」
「うん!あ、ママ!そろそろご飯作ろうよ!」
美保がまるちゃんと妃奈子ちゃんに微笑みながら告げると、まるちゃんが美保にそう提案した。美保は微笑んだまま、すぐに頷きを返す。
「そうだね。パパも帰ってきたことだし、作ろっか」
「まるも手伝う~!」
「ふふっ。じゃあ、お願いしようかな?信護君たちは、テレビでも見ながらのんびりしておいて」
美保とまるちゃんはそう言って、おもちゃを使って料理をする真似をし始めた。俺は美保に言われた通り、テレビをつける。
そのテレビでは、ニュース番組がやっていた。それを垂れ流しながら、俺は妃奈子ちゃんに話しかける。
「その、ありがとうな。まるちゃんと遊んでくれて」
「う、ううん。楽しいし嬉しいから、大丈夫」
「……そっか。これからも、よろしく頼むよ」
「う、うん!」
俺が微笑みながら妃奈子ちゃんにそう言うと、妃奈子ちゃんも頬を少し赤く染めながら頷いてくれる。俺がそんな妃奈子ちゃんを見てまた微笑んでから、視線をテレビの方に戻した。
そのニュース番組では、愛知県で起こった強盗事件だった。最近、愛知県で割りと多く起こっているらしい。
そしてそれが起こっているのは、愛知県の中でも岐阜に近い側なのだ。不審者らしき人を見たのもあり、少し怖くなってくる。
「……また、お前かよ」
すると、そんな声が扉の方から聞こえてきた。その声の方を見ると、そこには俺が様子を見たいと思っていた純也君がいた。
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