表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/170

第34話


「私が純也を生んだのは、25歳の時でした。当時の私は、無事に生まれた純也を見て、当時の夫と一緒に喜びました」


「当時、ですか……?」


 俺が引っかかったのは、当時という言葉だった。それではまるで、今はそうではない、というような言い方ではないだろうか。


「ええ……。純也が生まれてからしばらくは、仲のいい家族で暮らしていくことができました。……ですがある時、夫の不倫が発覚したんです」


「っ……!」


 純也君のお母さんが放った言葉に、俺は何も言えなくなる。ということは、もうすでに旦那さんとは……。


「夫とはその後、離婚しました。そして私の手元には、純也だけが残りました。この時から少しづつ、私はおかしくなっていってしまったのだと思います……」


「おかしく、なった?」


 俺は純也君のお母さんが言った言葉を、オウム返ししてしまう。そして恐らく、ここらかが純也君のお母さんに何かしらの問題があったのだろう。


「はい……。夫がいなくなり、私は純也を一人で育てていかなければいけなくなりました。仕事をして、お金を稼いで、家に帰ってくるのが遅くなっていきました」


「それが、何か原因に?」


「……次第に、純也の事を気にする余裕が、なくなっていったんです。それは、年を重ねるごとにひどくなってしまいました。今思えば間違いなくネグレクトをしていたのだと思います……」


「ネグレクト、ですか……?」


 ネグレクトについて、言葉を聞いたことがあるぐらいで詳しく知らなかった俺は、思わず問いかけてしまう。児童虐待であることは分かるが、どのようなことがネグレクトに当たるのだろうか。


「はい……。部屋の掃除もおろそかでしたし、食事も満足に与えれていなかったかもしれません……」


「あ……」


 ネグレクトとは、そういうことをいうらしい。確かにそれは、間違いなく虐待ということになるだろう。


「仕事のストレスの上に、子育て。私は、耐え切れませんでした。その時に子育ての相談をして、自分の愚かさに気付いたんです」


「……それで、純也君を、児童養護施設に?」


「……そうです。今でも、思います。純也を気にかけていたら、ちゃんと育てていたら、と……。これが、私の罪と後悔です」


 純也のお母さんの話を聞き終えた俺は、しばらく言葉を出すことができない。純也君のお母さんに何と告げればいいか、分からなかったからだ。


 確かに、純也君のお母さんが犯した罪は変わらない。それはすでに起こってしまった、過去の事だからだ。


 だが、俺自身は思えないのだ。こうやって話してくれている女性が、悪い人であるとは。


 それはきっと、過去の事を反省して、後悔して、悩みながら生きているからなのだろう。なら、俺のするべきことは、決まっている。


 ……純也君のお母さんを助けなければ。目の前にいるこの人が、困っているのだから。


読んでくださりありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ