第32話
しばらくその女性の後ろについて歩いていると、あるアパートの前で立ち止まった。どうやら、このアパートの中にある一室が、この女性の家のようだ。
「ここ、ですか……?」
「は、はい。そうです」
そのアパートは、お世辞にも綺麗とは言えないようなところだった。女性はその場から歩き出し、俺を案内してくれる。
「ここの2階です」
「分かりました。そこまで運びますね」
女性の案内に従って、そのアパートの2階まで歩く。するとその女性が、ある一つのドアのカギ穴に鍵を差し込む。
この部屋が、女性の部屋なのだろう。女性は鍵を引き抜いて、そのドアを開けた。
「どうぞ、上がってください。かなり、散らかってしまってますけど……」
「いえ、荷物を置きに来ただけなので……」
俺はそう言ってその女性の部屋の中に入ったが、その部屋は確かに散らかっていた。想定よりもかなり、だ。
玄関にはごみ袋が多くあり、行く道を阻んでいる。通れるには通れるが、確実に行く道の大部分を占領しているだろう。
「す、すいません……。取り合えず、奥まで……」
「は、はい……」
俺は買い物袋を持ちながら、ごみ袋の道を歩いて行く。奥にあるリビングに着くと、お酒の匂いが充満していた。
「うっ……!」
「す、すいません……!お酒臭い、ですよね……」
毎日多くのお酒を飲んでいないと、ここまでにはならないだろう。何か理由があって、ここまでのお酒を飲んでいるのだろうか。
「い、いえ……。それで、この買い物袋はどこに置けば……」
「あ、それは冷蔵庫に入れるので、私に。すぐに入れてくるので、適当なところに座って待っていてください」
「は、はい。分かりました」
俺はその女性の言う通りに、買い物袋を女性へと渡した。すると女性はその買い物袋を持って、冷蔵庫の方へと向かっていく。
俺はその場に座ろうとしたが、物が多くてうかつに座れない。机の近くに座れるスペースがあったので、そこに座った。
俺は座ってから、スマホを開いた。母さんか市菜に、少し遅くなるという連絡をするためだ。
【どうしたの?何かあった?】
俺が市菜に連絡を送ると、すぐに返信がきた。俺はある女性の荷物を持って届けるから遅くなる、と送る。
すると、市菜から了解、というスタンプが返ってきた。そしてそのすぐ後に、お母さんにも伝えておく、とくる。
俺は頼むというスタンプを送り返して、スマートフォンを閉じる。前を向くと丁度、純也君のお母さんが戻ってきていた。
「お待たせしました。どうぞ」
「あ、いえいえ。そんな、お構いなく……」
「これから話を聞かせてもらうんですから、これぐらいさせてください」
純也君のお母さんであるその女性は、お茶を出してくれた。俺は断り切れずに、それを受け取る。
「じゃあその、話してもらえますか?純也に、ついて……」
俺の向かい側に座った純也君のお母さんは、そう話を切り出してくる。俺はいただいたお茶を飲んでから、その言葉に頷いた。
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