第31話
俺は予想外の名前が出てきたので、純也君の名前を口に出してしまった。すると、女性がバッと俺の方を向いてくる。
「じゅ、純也を知ってるんですか!?」
「え、あ、ま、まあ……」
女性のあまりの剣幕に、俺は思わず肯定してしまう。俺が肯定すると、その女性はもっと俺との距離を詰めてきた。
「そ、そうなんですね!じゅ、純也はどんな様子ですか!?」
「あー……。それは、その……」
純也君の様子を聞かれた俺は、言葉に困ってしまう。正直純也君には、嫌われてしまっていると思うからだ。
流石にそんな事情を、今ここでこの女性に告げることはできない。そもそも俺は、この療心学園に住んでいるわけではないのだ。
なので俺は、純也君が療心学園で普段どういう風に暮らしているのか、全く知らない。この女性に説明しようにも、説明しようがないのだ。
「す、すいません。俺も、療心学園に住んでるわけではないので、ちょっと分からないです……」
「そ、そうですか……」
俺がそんな答えを返すと、その女性は明らかに肩を落とした。ここまでになるという事は、やはり純也君とは深い関係なのだろう。
この女性は恐らく、純也君の母親ではないだろうかと思う。そう考えれば、後悔もこの反応も納得がいくのだ。
「あの……。純也君のお母さん、なんですか?」
「……はい。母親らしいことは、何もしてあげられてないですけど……」
俺の問いを聞いた女性は、視線を下に向けながらそう答えてくれた。そして言い終えた後、チラリと療心学園の方を見る。
その目からは、反省と後悔がにじみ出ており、本当に悔いているのが伝わってきた。きっと、今すぐにでも純也君に会いたいのだろう。
息子の純也君に会って、謝りたい。だけど、自分は会えないという感情のせめぎあいなのかもしれない。
「そう、ですか……」
「……できるのならで、いいんですけど、純也の様子を、少しでもいいから教えていただけませんか?」
その女性のお願いに対して、俺は迷ってしまう。もちろん、純也君の事について話したい気持ちは強い。
だが、俺が話せることは本当に少しだけだ。これだと、この女性をがっかりさせてしまうかもしれない。
「ほんの、少しのことでもいいんです……!あの子のことを、純也の事を、ちょっとでもいいから、教えてください……!」
「っ……!」
そこまで言われてしまったら、教えないわけにはいかない。俺が話せるのは本当に微々たるものだが、話せることは話そうと思う。
「……分かりました。俺の知ってることだけなら、話します」
「あ、ありがとうございます!じゃあ、早速……!」
「取り合えず、この荷物を運んでからにしませんか?」
「そ、そうですね……!すいません……!行きましょう」
俺の提案に頷いてくれた女性は、療心学園の前から歩き始めた。恐らく、自宅へと向かっているのだろう。
俺としても、あんな状態の女性を放っておくことは出来ないので、女性の自宅まで荷物を運ぼうと思っていたところだ。俺は離されないように、その女性の後ろを追った。
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