第30話
「あの、大丈夫ですか?」
「え……?」
俺がその女性に問うと、その女性が顔を上げる。その顔色は、相当ひどいものだった。
その顔色を見て一瞬驚いた俺であったが、俺は臆せずにその女性へと話しかける。その顔を見て、更に助けなければと思ったからだ。
「荷物、持ちましょうか?しんどそうですし……」
「い、いえ……。大丈夫、です」
女性はそう言って礼をして、フラフラと歩き続けた。そんな女性を放っておけなかった俺はその女性を追うが、その女性はすぐにつまずいてこけてしまう。
「ちょっ!だ、大丈夫じゃないじゃないですか!」
「う、うう……。す、すいません……」
俺はその女性に手を貸して、その女性を立ち上がらせる。女性はお礼を言いながら、フラフラながらも立ち上がってみせた。
「……やっぱり、持ちますよ。放っておけません」
「ほ、本当にすいません……。お願いします……」
俺がそう言うと、女性は頷いてくれた。女性は買い物袋を俺に渡してきて、自分はビジネスバックを持つ。
俺が持った買い物袋は、中に食品などが入っており結構重さがあった。スーツを着ていることからも、会社帰りに買い物によって帰る途中だったのだろう。
それにしては、疲弊しすぎている気もするが……。社会人というのは、そこまで大変なものなのだろうか。
「じゃあ、行きましょうか。どっちに進んだらいいですか?」
「あ、そのまま真っすぐに……」
俺がそう問うと、女性は前を指差しながら歩き始めた。俺もそんな女性に続いて、前へと歩き始める。
女性の足取りは少し軽くなったものの、依然重いのは変わりない。俺は女性の歩幅に合わせて、前へと歩いて行く。
このまま行くと、また療心学園に戻ることになる。この女性の家がどこにあるのかは知らないが、療心学園はもうすぐそこなので、通り過ぎることだろう。
そう思っていた俺であったが、その女性は療心学園の前で足を止めた。まさか、療心学園の関係者なのだろうか。
「……少し、いいですか?」
「え、ええ。いいですけど……」
女性の言葉に頷いた俺は、その場で立ち止まる。だが女性は、一向に入ろうとしない。
「え、えっと、療心学園に、入らないんですか?」
「……はい。入れません。私は、あの子に会う資格はありませんから……」
女性はそう言って、視線を下に向けた。その様子は、涙を我慢しているように見える。
……誰かの親御さん、なのだろうか。美保が以前、療心学園には家庭内虐待を受けた子供たちが多いと言っていた。
もしかしてこの女性も、そうなのだろうか。だが、俺にはこの人がそんな人には見えない。少なくとも、今は。
「そうなんですか……?」
「はい……。私があの子を、純也を、もっと――」
「……え?じゅ、純也、君?」
読んでくださりありがとうございます!
 




