第15話
「あれ?信護君、妃奈子ちゃんと話したことあったの?」
「ああ。ちょっとな」
美保はそう、俺に問いかけてきた。俺はそんな美保の問いに、別に隠すようなことではないので頷く。
話したとは言ってもあの時だけだ。その女の子の名前が妃奈子ちゃんというのも、今美保から知ったぐらいである。
「ここに来てるのは、知ってたよ?話せるタイミングがなかっただけで……」
妃奈子ちゃんはモジモジとしながら、俺にそう言ってきた。この反応、もしかすると……。
「まあ……。基本は美保にまるちゃんと一緒にいるからな」
「そ、そうだよね……。私は、お兄さんと話したかったけど……」
やはりそうだ。自分で言うのもなんだが、俺は妃奈子ちゃんに懐かれているようだ。
療心学園に住む女の子にこんなふうに懐かれるのは、とても嬉しく思う。俺もこの療心学園という家に、馴染めているように思えたから。
「そう言ってもらえると、俺も嬉しいよ。じゃあ、今日は話そうか」
「え……!?い、いいの……!?」
「ああ。もちろん。まるちゃんと美保が一緒で良ければ、だけど」
「う、うん!嬉しい……!」
妃奈子ちゃんは嬉しそうな顔をしながら、俺のすぐそばまで近づいてきた。ここまで懐かれているとは、流石に予想外だ。
だが、そんな妃奈子ちゃんを見ていると、俺からも笑顔がもれる。やはり、懐かれるというのは嬉しいものだ。
「それでいいか?まるちゃん、美保」
「うん!パパとママが一緒なら、いいよ!」
「……うん。もちろんだよ」
俺がそう2人に問うと、まるちゃんは笑顔を浮かべながらすぐに頷いてくれた。だが、美保からはすぐに返事がこず、少し時間が空いた。
その間が少し気になった俺であったが、美保も了承してくれているし気にしないことにした。俺はまるちゃんと美保に頷きを返してから、妃奈子ちゃんの方へと振り返る。
「と、いうわけだから、皆で話そう。取り合えず俺たちは、手を洗いに行ってくる」
「わ、私も行きたい!い、一緒に……!」
「え?洗面所に?」
「う、うん!」
妃奈子ちゃんはそう、力強く頷いてきた。俺としては何の問題もないので、了承の返事をしようとする。
「ああ。じゃあ――」
「だ、駄目だよ」
だが、俺の返答は美保に遮られた。しかも美保から出たのは、否定の言葉である。
「え……。な、なんで……?」
「ほ、ほら。私たちは外から来たから手を洗うの。妃奈子ちゃんは違うでしょ?」
美保は妃奈子ちゃんにそう伝えたが、別に妃奈子ちゃんと手を繋がなければ問題ないのではないだろうか。付いてくるぐらい、大丈夫だろう。
「う、うう……。でも……」
「付いてくるぐらい、いいんじゃねえの?」
俺がそう言うと、妃奈子ちゃんの顔がパッと明るくなった。逆に美保は、眉をひそめる。
「……そう、だね。じゃあ、早く行こ」
結果的には了承してくれた美保だったが、俺と目を合わせようとしなかった。美保が歩き出そうとしたので、まるちゃんを通じて繋がっている俺も歩き出さざるを得ない。
「ね、ねえお兄さん。私も、手、繋いで、いい……?」
「ん?ああ。ちゃんと手を洗うならな」
「っ!う、うん!」
妃奈子ちゃんの問いに俺がそう答えると、妃奈子ちゃんはまた顔を明るくさせて俺の手を握る。俺がそれを微笑みながら受け入れると、まるちゃんと繋いだ方の手が引っ張られた。
見ると、美保がまたスピードを上げていた。なぜそんなに早く行きたいのか分からないが、俺はそれに付いて行くために歩くスピードを上げる。
そうすると、妃奈子ちゃんもそのスピードにきちんと付いて来てくれる。俺たちは4人並んで、洗面所に向かって歩いて行った。
読んでくださりありがとうございます!




