9話目
9話目
「なぜだ? 黎明の効力はご存じのはずだ。今回の戦いが困難になるのだとすれば、使わない手は無いはず」
「駄目だ」
普段強く言わない吉村が明確に拒否した。
転落はその事に驚きながらも、同時にそこまで拒否する黎明という秘宝に興味がわいてきた。
「如来さん。前回、黎明を使った時の惨事を繰り返す訳にはいかない。それは分かるだろう」
「いえ、あれは惨事ではない。なるべくしてなった出来事の一つです」
「でも、黎明を使わなければああはならなかったよね」
黎明という物を知らないため何を話し合っているのかまったくわからない。しかし、黎明を使用したら、何か悲惨な事が起きるということだけは分かる。
その時であった。アルべノートが話しかけてきたのは。
「なんで喧嘩してるか気になる?」
「アルべノートだったか? なんだ」
「アルべノートですよ。何を話しているかまったくわからないみたいみたいだったんで教えてあげようと思って」
アルべノートはこちらへ歩いてきて隣に座った。手には巾着を持っていた、秘宝である【ボックス】だろう。
「よっと!」
ボックスのなかに手を突っ込み、真っ黒な正方形の物体を取り出す。光が反射しているのか疑問に思うほど黒く、大きさが頭程度なので空間自体に穴が開いているかのような錯覚を起こす。
「何だこれは?」
「黎明ですよ。いま討論のさなかにある秘宝の【うるうの夜明け】通称 黎明です」
その説明を受けた瞬間、吉村の死線がこちらへむいた。眼光で痛いと思うほどのまなざしだ。
「アルべノートくん、なんで黎明を出しているのかな?」
「いやー、教えといた方が良いんじゃないかなって」
「勝手な事はしないでね。秘宝を管理して貰っているのはそんな事をしてもらうためじゃないから……信頼しているからねアルべノートくん」
「は、はい!」
イライラしているのだろう。吉村の威圧感はこちらにもひしひしと感じる。アルべノートはそうだが、それ以外の人たちすらも体がガッチガチに固まっている。
「如来さんも常識的な範囲で物事を考えようか」
「黎明を使う事が一番効率がいいはずでは」
「たしかに効率を考えれば黎明を使うのが一番だろうね。でも、私は教祖なんだ。効率だけでものごとを考えるわけにはいかない」
「しかし」
「私に、」
食い入るように如来の発現を遮る。そして一歩近寄り、先ほどよりも厚い声でこう言った。
「仲間殺しをさせるのかい」
「……」
反論することが出来ないような表情で下を向き、如来はだまってしまった。
「なぜ私達が戦争を起こしているのか忘れないでくれよ」
如来の言葉は利益を効率的に出すために犠牲を伴わせていた。
これでは憎んでいるはずの相手である資本主義と同じことをしている。まるで労働力としてしか見られていなかった俺たちと同じことをさせようとしているのではないか。
その事が分かったのか如来は膝を降ろし土下座をした。
「申し訳ございません。考えが及んでおりませんでした」
「うん分かったなら良かったよ」
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