21話目
21話目
「ここまで心配してくれるとは思わなかったよ。麻薬にハマっちゃったって聞いたから人間関係なんてどうでもよくなったのかと思ってたけど」
「……」
脇腹を持たれ米俵のように運ばれている。両手が使えない事を心配してくれているのだろうけど、もう歩くくらいは出来るんだけどな。
「俺の事を助けてくれたのはお前くらいしかいないからな」
「デレた?」
「殺すぞ」
吉村が天落くんの考え方に共感したように、天落は吉村に助けられていた。日々仕事に追われて心身ともに疲弊していた時、話に乗ってくれたのが吉村だった。別に食料をくれたわけでもないが、その時は話を効いてくれるのが一番助かった。
「それで、どこに行けばいいんだ」
「ん~……仲間から連絡があるまで待機かな。ここから脱出できるのであればそっちの方が良いけど毒化粧は切っちゃったし」
「……研究所に戻るぞ」
「そうしようか」
ここまで運んでくれたけど、今は無暗に外に出たくない。そうなると、人気が少なかった研究室に居るのが一番安全だ。
「せっかくだしコーヒー淹れてあげ……淹れてよ!」
あの博士が持っていたマグカップの中はコーヒーだったはずだ。なら研究所の奥には豆か粉が有るはずだ!
「どうやって入れるのか知らないぞ」
「教えるくらいならできるからさ」
「……」
★
一野
そこは戦場の中だ。そんな場所で、スマホ片手に神妙な顔をして隣にいる男に話しかけた。
「八神行けるか」
「ん? 出番すか? いいっすけどいま俺の事つかっていいんです?」
「あぁ、命令が出た。教祖様が保安庁の本部で囮になっている、その間に」
「はぁ?!! どういうことですか」
八神が身を乗り出して問い詰めてくる。この勢いだと秘宝を使ってきそうだ。何とか落ち着かせるために、説明をつづける。
「落ち着け。俺だって動揺している」
「そりゃぁそうっすよ! なんで教祖が敵の中に突っ込んでいったんですか!」
ふぅ。と深い息を吐き興奮しないよう落ち着く。
「……俺たちが不甲斐ないからだ。想定よりも大幅に進行が遅れてしまっている」
「でも教祖が囮になる必要は無いじゃないですか!」
「ほかに頼める人がいなかったんだろう」
「っ!」
言い表しがたい感情に苦悩を隠せていないが、それは一野も同じだ。教祖様が囮にならざる負えない状況だったのは理解できる。保安庁に直接襲撃できる位置にいたのは教祖様だけだったからだ。
しかし、囮にはなって欲しくなかった。
本部にいったと言う事は死んでもおかしくない状況。
「八神行けるか」
なぜ囮になんかなったのか。問いただしたくなるほどの感情を放っておきたくはない。が、だからこそ一野は再度聞いた。
ここは戦場だ。
悠長に話あっている時間はない。そのうえ、教祖様が待っている。急がなければいけない。
「行きますよ! くよくよしている時間は無いんですから!」
「よく言ってくれた!」
その声を皮切りに、一野は信者全体へ指示を出す。「ついてこい」と。
「異能 支援」
対象は八神たった一人だけ。使用するには体に強い負荷がかかり、1週間は動く事すらままならなくなるだろう。
「ふ~。ありがとうございます一野さん!」
「後は任せる」
「異能 巧者」
これから約1時間の間、八神は秘宝の代償を支払わなくてよくなる。
反撃の開始だ。
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