4話目 警備員の心~死にゆく仲間と誤った判断~
閑話
もう一人が近付いてきた。
対応しようと思い短剣を構えようとした。だが残念な事に奥深くまで差し込んでしまった短剣は抜けず、直ぐに構えることが出来なかった。
警備員は俺の事は目視できたようで、その隙を狙って近付いてくる。
……ただまあ、殺す方法なんて星の数ほどある。
警備員が近付いてきているのに俺の心はせせらぎのようであった。
「見つけだぞ!! 武器を置き手を頭に置け!!」
言われた通り武器を放し手を頭の上に置く。
「よしそのままにしろ!!」
言われた通りにしたことで警備員は少し警戒を緩めたようだ。だけど、そんな場所に居ていいのかな?
俺はにんまりとあくどく笑みを浮かべながら、武器が立てかけて飾ってあった棚を思いっきり横から蹴る。すると雪崩のように武器が落ちてきた。
「な!!!!」
警備員は想定外の攻撃に対応することは出来ず、上から落ちてきた武器に体を切り刻まれてしまった。頭に槌が落ちているから即死だろう。
さっきまでそこら辺の武器を触っていたので固定するための器具は全て外していたんだ。だから軽く蹴るだけで落とすことが出来た。計算していた訳じゃないが、上手く行くもんだな。
ツキが回ってきたかのような戦いに、気分を良くする。
しかし棚なんかを蹴ったせいで、警備員が寄ってきてしまった。足音的に5人はいるだろう。
だがクスリで狂ってしまった頭はこれを悲壮的に考える事は無かった。1vs1が1vs5に変わったところで殺す事に変わりがないのだから。
それどころか準備運動が足りなかったから丁度いいとさえ思っている。
「さぁあ……やってやろうか!!!」
デカい声を出し気合をいれるのであった。
☆
そのバケモンは俺たちを蹂躙して行った。
「おいおい、そんなチャカ一本で何が出来るんだ」
「撃つぞ!! 動くな!!」
「動くなと言われて動かない奴はいねぇよ!!」
その殺人鬼は人外な速度で俺たちに近付いてくる。反射的に拳銃のトリガーを引いてしまうが、真っ暗な部屋にいるせいで照準が合わずあたる気配がない。
蛍光灯の一つでもあればいいのだが、緊急システムが働いているせいで電気が通らないのだ。
「おら、1人目!!」
散開して殺人鬼を囲っていたのだがそのうちの1人が殺させてしまった。今聞こえた肉が裂ける音がそれを物語っている。
暗闇のせいで殺されたところが見えないから本当に死んでいるのか分からないが、希望観測はやらない方が良い。
俺と一緒に来た警官は5人だから、4人になってしまったということだ。
「大人しくしろ!!!!!」
警戒させるため銃弾を一発天井に向かって撃つ。これで怯んでくれでもしたらいいのだが。
それにしても、今回の犯人はヤバいな。
長年の勘がこいつとは真正面で対決してはいけないと言っている。過去に元冒険者犯罪者を捕まえた事が有る俺が言っているのだから外れてはいないだろう。
警戒を高めていき、連れてきた若い警官に指示を出す。
「太郎、清水発砲許可を出す! 誤射はしないようにしろ!」
「はい!」
「はい!」
こんな事態だ。たとえ犯人が死んだとて攻める奴は居ない。なら確実に捕まえるために殺してしまった方が安全だ。そう判断をし、指示を出した。
だがその直後俺は判断を誤った事を思い知った。
「そこか」
犯人の小さな声が聞こえたんだ。
指示を出したことで若い警官がどこに居るのか教えてしまった。そのうえ俺たちは散開してしまっている。
これではなんかあった時にカバーが出来ない。
俺は直ぐに太郎と清水に近付こうとする。が、足が止まった。今近づいたら誤射されてしまうかも知れないからだ。
たった一つの指示で俺は2つもの過ちを侵してしまった事に気づいた。
そのうえもう指示を撤回することは出来ない。
これ以上犯人に居場所を教えるのは自殺以外の何者でもないからだ。
少々の反省をしながら現場だということを思い出し、身を引き締める。これ以上過ちを起こさないように。そして誰も死なせないように。
だが、その誓いは直ぐに崩れた。
「……どこだ」
犯人が見付からないのだ。
ここはダンジョンショップだから棚や物で視界が遮られる事はあるが、それでも一瞬目を外しただけで見付からなくなることは無い。
どういうことなのか考えても一向に分からない。
だからこそ、俺は自分の目で探すことにした。
もし若手の警官に聞きでもしたら、犯人に場所がばれてしまう。それに必要以上に緊張してほしくないのだ。
だから俺は自分の力で探す。
しかしこの行動は裏目に出てしまう。
なぜなら犯人は俺の後ろにいたのだから。
「ここだよ。まぬけ」
「!!!」
気配が無かった。いつから俺の後ろにいるのかすら分からない。殺人鬼が背後をとっているという恐怖と、なぜ背後にいるのかと言う驚愕で頭が覆いつくされており、体が硬直してしまった。
「武蔵警部!!」
田中の声だ。
その声は俺が体を動かす皮切りとなり、拳銃の先を後ろへと向けた。一瞬の判断で犯人の隙をつけた。
「観念しろ! 動けば撃つぞ!!」
「はぁ? 何言ってんの」
銃口をむけているというのに飄々としている犯人を片目に、球が確実に当たるように調節使用とした瞬間、首元に冷たく鋭い物がつけられた。
「くひひ……てめぇは人質だよ。動けば殺すぞ。」
やられた。
そう考えると同時に、足手まといにはならまいと体が動いた。
もし人質になってしまえば助けなくてはいけない。なら死んだとしても殺した方が……共倒れになった方が良い。
未来ある若手のため、躊躇せず銃口を犯人の頭に向け思いっきり撃った。
けたたましく鳴り響く音が三回。
マズルフラッシュで目の前が見えなくなるが、当たったと確信した。
この至近距離で外すはずが無いのだ。そう思っていた。
「いったぁぁ。衝撃で脳味噌割れるぞ?」
「なん、だと」
犯人はフルフェイスマスクをつけていたのだ。それも銃弾すら遠さいない最高級のものを。
それで思い出した。ここがダンジョンショップだということを。
「まあいっか、防げはしたし。それよりもお前動いたな?」
首につけられていた刃が、皮を裂き、肉をかき分け、体の中に入って行った。
これで終わりなんだと分かった時、もう俺の意識は無かった。
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