9話目
閑話 9話目 一野
ここに来たのは繊細な理由からだった。
一野は元々軍人をやっており、戦争にも出陣したことがある。
大きな体と、筋肉が付きやすい体質で大活躍だった。
初陣では巧みな銃の取り扱いで一日の間に5人も殺したほどだ。そのおかげで主力として扱われるようになったりした。
しかし、とある時から体に異変が起き始めたんだ。
始めは繊細なことだった。
トリガーを引こうとしているのに、指が動かなかったり、軍服を着ようとした瞬間に体がビク!っと震えたり。
その程度だったので、誰にも相談せずに自分の中で消化していた。トリガーが固かっただけだとか、気合を入れようとしているのだとか。
次第に症状は悪化していった。
始めはトリガーだけだったのが、なぜか銃が持てなくなったり、軍服を着ていなければ寝れなかったり。
流石に見逃すことができるレベルではなくなった。
だが、その時一野は大切な戦争を前にしていた。下手に弱気なことを言えば軍全体の指揮に関わるかもしれない。
ただの軍人ならそんなことにならないと思うが、一野はこれまでに何十人、何百人と殺してきた英雄と言ってもいい。
模範的な存在になるべく、行動は慎重にならざる負えないのだ。
そのため、気合でなんとかすることにした。しかし、そんな行動をしてはいけなかったのだ。
その戦争は悲惨としか言いようがないものだった。
敵国は催眠の秘宝を使用し人間を駒のように使っていた。一般市民はもちろん、女子供まで操り、我々は甚大な被害を被った。
だが、一野はそんな中でも生き残った。
手には子どもを撃った感触を残してだが。
一野は軍人として駄目になっていた。武器を持とうとすると力が入らない。軍服を着ようとすると手が動かなくなる。
なんとかなるレベルではなかった。
その上、一野は部屋に籠りっきりになり毎晩壁に頭を打ち付けていた。その時になってやっと上官へ相談したんだ。
「PTSDだな……一旦休んだほうがいいぞ」
そこで言われたのがPTSDというもの。なんでも精神疾患であり治るかすらわからないんだそうだ。
その上軍人はなりやすい病気らしい。
不満はたくさんあったが、銃を持つことができない以上休む他ない。
そうして休んで入れるのもホントひと時だったが。
休みに入ってからすぐにとある国から宣戦布告された。前回の戦争からそう時間が経っていないせいで戦いに出れる軍人は少ない。
そんななか、一野は身体的にはなんの損傷もないため戦争に出ることとなった。もちろんPTSDに対してなんの対策もしなければただ死ぬだけだろう。
だから、上官は直々に一野へ精神薬を渡した。気分を高調させ、戦いに専念できるように。
ただ、その薬は依存性が高いんだとか。本来であれば医者に見てもらってから出したほうがいいらしいのだが、そう言っている場合ではなかった。
幸いにも一野は戦争に前向きだった。そのときから一野は薬を服用し始めた。
それから数ヶ月がたった。
一野は最初に使っていた精神薬より数倍効力の高い薬をしていた。依存性含めもはや医療で使える範疇を超えていた。
それでも引けない戦争だった。
そのうえ、隊員の殆どが精神が疲弊してしまったようでPTSDのような状態になっていた。
上官はこの状況を改善しようと思ったことが合ったらしいが、戦争の最中にそんな時間はなかった。
一先ず改善案として依存度が低い精神薬を渡したらしい。
そんな状態でも幸いなことに戦争に勝利することができた。死物狂いだった。
だが、戦争終わったんだ。のべ百数十人ものヤク中をのこしてだが。
故郷に帰ったときなんて言われたと思う?
「帰ってこないで」だぞ? 戦争の帰還者にかける言葉ではないだろう。だが気持ちもわかる。
銃を乱射して人を殺していた上に薬物中毒者だ。何をしてくるかわからない。
そして、この意見は一般に浸透していた。
新聞では歓迎するどころか治安問題として取りかげられていたり、テレビでは薬物の専門家が議論していた。
何がなんだか分からなかったが、軍人として対抗する訳にはいかない。その時は我慢して家に籠もっていた。
我慢できなくなったのは直ぐだったがな。
軍人の名簿に一野の名前が載ってなかったのだ。
何事なのかと思い上官に聞いたところ、一野か軍にいた痕跡は消されたらしい。
深くは聞き出せなかったが、資産家が薬物のことを問題にしたらしく、多量の薬を服用していた一野を居なかったことにすることによって騒ぎを少なくしようとしたみたいだ。
そのせいで払われるはずの給料はなくなった。
ただまあ、突っかかろうと思ってもやりようがない。諦めるしかなかった。
それに、その時期から薬物の規制が強化された。そのせいで病院で出してもらえることも少なくなり、PTSDを抑えることが困難になっていた。
どうしようもなくなったんだ。
そんなときに出会ったのがアトラス教だ。
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