8話目
閑話 8話目 羽部一野
今日は我々アトラス教にとって歴史にも名を残す日だ。
そんな日にもかかわらず、一野は不気味なほど冷静だった。
吉村様のお言葉で舞い上がりそうになる心を深呼吸することで落ち着かせる。
「第一の目標はは一の市だ! 気合い入れていくぞ!」
「「「はい!」」」
一野は元軍人として戦いに慣れており、責任感もある。そのためこの戦いでは吉村がくるまで指揮官となっているのだ。
指揮官は常に冷静にならなければいけない。そのことを知っているからこそ落ち着いているんだ。
「事前に通達したと思うが、今回は占拠による陣地線をおこなう! そのため市民からも抵抗されるかもしれないが、基本的に攻撃されなければこちらからも攻撃しない! 我々の目標はダンジョンの破壊! そして、政府の革命だ!!」
「「「「はい!!」」」」
「市民から攻撃を受けないよう常に警告しながら進んで行け! わかったか!」
「「「「はい!」」」」
情けない返事だが、それでも気合が入ったいることはわかる。絶対にこの作戦を成功させるという強い気合が。
「それでは、全員配置に付き進め!!」
素人集団とは思えないほどの速度で進行を始めたのだった。
「さて、俺も気合を入れないとな……八神10分ほど抜けさせてもらう」
「んぁ? いいッスよ」
一野は信徒全員が見える位置に移動した。今この瞬間だけは列を乱すという、指揮官らしくない行動をさせてもらう。
異能を使うために。
「異能 支援」
目に映る範囲の人全員に支援を付与させてもらった。効果は身体能力が少し上がる程度だ。
その程度だが、これだけの人数にかければ絶大だ効果を発揮するだろう。
一野は走って戻った。
「八神すまんな」
「いいッスよ。異能使ったんでしょ?」
「そうだ。今使わなければ使い時がないからな」
「一野っちの異能使いづらいからなー」
「御託はいい。早く行くぞ」
「了解」
今回用に支給された車に乗り急ぐのであった。
★
一の市、二の市は保安庁が来る時間も与えず占拠できた。本来はもう少し時間がかかると思っていたから、すごくスムーズに進行できている。
しかし、簡単に進まなくなったのが三の市からだ。
保安庁が来てしまったのだ。
「俺が行く。総員保安庁以外を制圧しろ」
幸いにも保安庁のやつは一人だけ。今回は俺だけで大丈夫そうだ。
一野は懐に入れていた袋を取り出しながら前線へきた。
「おや? 次は君が相手ですか」
保安庁のやつの周りには殺されたと思われる信徒たちが転がっていた。
その様子を見て一野は思わず腰が引けそうになった。怯えているわけではない。
一野はPTSDだからだ。
元軍人で沢山の人を殺した。しかし、戦争が終わったあと、一野は武器を握ることができなくなっていた。
「おやおや、そんな状態じゃあ戦いにもなりませんよ。下がったほうがいいんじゃないですか」
「その必要はない」
それでも一野は軍人を続けた。違法ドラッグを使って。
今も一野の手には2錠の薬がある。
できるだけ早く効くように口の中で噛み砕き飲み込む。すると、もとから即効性のドラッグだったおかげで5秒も立たずに効いてきた。
さっきまで震えていた体は、まさに軍人の出で立ちとなり雰囲気が一変した。
「やるぞ」
「下がる必要はなさそうですね! クヒヒヒヒ!」
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