32話目
32話目
狼と間違えて冒険者を攻撃してしまったようだ。動くのは全部魔物だと思って攻撃していたから、気付かなかった。ここに来るまで会った冒険者は全員俺の後ろからきたし。
まあ、仕方ない。
幾度なく人を殺してきたから、間違えて攻撃した程度はなんとも思っていなかった。
「おい!! そこに誰かいるのか! 出て来い!!」
声が聞こえたのか、こちらへ問いかけてきた。声をきくに女性だろう。
「誰も何も、4層でナイフを投げるのは人間だけだろ」
その問いかけに飽きれながら、前へ出てあげる。
みるにナイフが刺さったのは足みたいだ。グサッと刺さっており、病院で治療しないと動けないだろう。
「ダンジョンで攻撃するのは規約違反だが!」
「知らねぇよ」
冒険者は痛みに堪えたようで、刺さっている足を庇いながら膝をついてしまった。嗚咽をこぼし、少しだが涙も出ている。
4層まで来たのに、その程度の怪我で膝突くならなんで冒険者やれているのか疑問に思うが、俺だって今のところ怪我一つしていないのを思い出すと、同じように攻略していたのだろうと納得した。
つ~か、そんなにつらいなら死んだ方がましなのではないか? そんな考えが思い浮かんでくる。4層から地上に歩かずにでるのは無理だろうから、一思いに楽にした方が苦しまないだろう。
「えっと、殺してやろうか?」
自殺するのは辛いだろうから、短剣を出して聞いてあげる。ナイフを投げたのは俺なので何とかするのもやぶさかではない。
しかし冒険者はその行動に警戒し、膝をついているにもかかわらず気合で後ろへ下がる。
「おいおい、必要ないなら無いって言えよ」
警戒されては楽に殺してあげれないので一度短剣を降ろす。まあ、この様子だと苦しんで死にたいんだろうから、もう一度聞く意味は無さそうだし。
あ、そうだ。一応聞きたい事が有るんだ。
「なあ、聞きたい事が有るんだがいいか?」
「そ、それで見逃してくれるか」
「あ?見逃す?」
どういうことかまったくと言って良い程わからない。とは言え、警戒を解かないとちゃんとした事を教えてくれないかも知れない。
「まあ、聞いたら先に行くだけだしな」
「なら何でも言う! 何が知りたい!」
「素直は良い事だよ。じゃあ、4階層のボスは何なのか知っている?」
5階層のボスの情報は一応知っておきたい。まあ、ここまで来たように、何の情報もなしでこの先に言ってもいいのだが、知れるなら知っておくに越した事は無いだろう。
「そんな事でいいのか……なら、知っていると思うが鳥の魔物だ。名は『閻魔鳥』体が大きく、攻撃はしやすいが飛ぶせいで対策が無いなら倒すのは困難だ。そのうえ知能が高いから、下手に攻撃すれば見えないほど高い天井から岩を落としてくる」
「へ~、倒すの大変だね」
飛ぶという部分に、思わず悩んでしまう。なぜなら今の俺に飛ぶ相手に対しての対処法は無いからだ。
……いや、苦肉の策として【五度の火垂る】はあるが使いたくはない。代償として味覚を使ってしまったから出せるとしたら嗅覚くらいだろう。
「飛ぶ相手に使える秘宝を持っている!! それを渡すから早く行ってくれ!!」
「いいの?あんたはどうすわけ」
「どうにかなる! あげるから行ってくれ!」
「ふ〜ん。ありがとね」
死に際なのに物をくれるなんて思わなかった。まあ、ありがたく受け取ろうかな。
冒険者は急いだ様子でポーチの中をごそごそ漁り、拳銃を取り出した。
「射程は20m程しかないから、部屋に入ったら直ぐに使わなければいけないが、破壊力だけは抜群だ!」
「ありがと」
冒険者から拳銃を受け取った。すると、ちゃんと秘宝だったみたいで脳に刺激があった。なんでも、撃つ時に代償にする物を決め、その大きさに応じて威力が強くなるらしい。しかしその代償は人に限定するみたい。
……くれたのは嬉しいんだけど、自分を代償にしたくはないな。
「代償も一緒に渡す!」
すると、またポーチから出してくれた。それは手のひら大ある正方形の金属の箱だ。
「この中に人から取り出した物が入っている! 2つ使えば閻魔鳥を確実に倒せるほどの威力が出る!」
「何が入ってるの?」
「脂肪だ。脂肪吸引をしている病院に提携してもらっている!」
あ、流石に脂肪なんだ。てっきり殺した肉でも入っているかと思ったよ。ちゃんと人に害を与えない場所から貰っているんだね。まあ、脂肪吸引が安全かどうかは知らないけど。
「ありがとうね」
持っている分全部くれたのか、デカい箱を5つ出してくれた。
まあ、5つも持てないから……4つだけ貰おうかな。ポーチの中に入っていた食料の分が開いていて、それくらいならすっぽり入る。
そして、ポーチの中に詰め込んだ。
「じゃあね!」
「・・・」
4層のボスの事を教えて、秘宝までくれたのだから殺すようなことはしない。俺の情報を持っているとはいえだ。
冒険者は俺に返事はせず、こちらを凝視し警戒を解いてはいなかった。
「……」
まあ、もう行くだけだしどうでもいいんだけどね。
☆
冒険者とあってから少したった頃、俺は門を見つけた。結構近くにあったみたいだ。
「よし、銃は持ったし行こうかな!」
準備する事はもうないと、銃と短剣を持ち門へ入っていくのだった。
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