2話目 全能感の肯定〜クスリ揺らぐ心〜
2話目
意識が浮かんでくる、目が覚めた。
見たくない居たくない、そんな現実に入る一歩。いつもなら、癇癪を起こしたくなるが……そんな様子はなかった。
反対に、感じたのは全能感。クスリがまだ体に残っているからだろう。何でもできるような感覚が体中を駆け巡っていた。スポーツをやれば世界一位になれるし、宝くじを買えば一等が当たる。
まるでスーパーマンになれると信じてやまない子供のようだ。
だからこそ思ってしまう。もっとクスリを使いたいと。この感情を途切れさせたくない。汚い世界を、無垢な気持ちで生きていたいのだ。
少しでも昨日の事を思い出せば体の底から嫌悪が押し寄せ、絶望で押し潰されてしまいそうになる。
だが、今の俺に金を用意する手段はない。それに加えあの商人がどこに居るのかすら分からない。これではクスリを手に入れる事は出来ない。
冷静に考えればそんな事は分かるはず、なのに俺は何とかなるという謎の自信があった。いつどこに居てもクスリが手に入ると。
しかし明確な方法は思いつかない。
思いつかないが、動かなければ手に入らない事は分かる。ひとまず表通りに出ようと、路地裏から抜ける事にした。
ほぼすべての金を麻薬につぎ込んでいたせいで食事をまともにしていなかったせいか、あばらの骨がしっかり見えてしまうほどがりがりであるが、クスリの効果で気にする事では無かった。
一歩二歩と歩いて行き路地を抜ける。
表通りへ出るとそこには沢山の人が歩いていた。今は夜だっていうのにだ。
流石ダンジョン都市と言うべきだろう。ダンジョンから出てきたものを取引するのに集まってきた企業らやが、都市全体にうじゃうじゃいるせいで金周りがすこぶるいい。
まあ、その分資本主義が加速して言ったせいで俺のような弱者が増えたのだが。
いや、俺に関して言えば勝手に中毒になって自滅していっただけだから、社会的弱者でも何でもない、ただの自滅野郎なんだけどな。
乾いた笑いすら出ない冗談に、片膝ついてしまいそうになるのはしょうがない。
そんなとき俺の目の前を冒険者が通り過ぎた。全身甲冑の男に、弓を持った女性。さらには魔法を使いそうな爺に聖職者のような恰好をしている女性。
俺には目もくれず話している様子を見て……頭の中に妙案が湧き出てきた。
そうだ、ダンジョンに行こうと。
金もねえ、クスリもねえ。でもここはダンジョン都市。ダンジョンに潜れば金が手に入り、冒険者に依頼せずとも自分で麻薬をとりに行ける。
都市では金によって経済が回されているがダンジョンでは力が全てだ。
そう考えると今までなんで悩んでいたのかさっぱり分からなくなった。俺に最適なのはダンジョンだったんだと、現状が教えてくれていたのだから。
そうしたら居てもたってもいられなくなった。思い立ったら吉という言葉があると思うが、俺はそれを忠実に行動に移したのだ。
表通りから裏通りへ戻り、防具や武器が売っているダンジョンショップへと走っていく。これからの希望のために。そして麻薬の為に。
そうして走っていくと目的であるダンジョンショップへと着いた。幸いと言うべきなのか分からないが、俺が今いる場所はダンジョン都市の中心核であるダンジョンのそばだった。冒険者に麻薬をとってきてもらうために来ていたのだ。
だからダンジョンショップもすぐそばにある。
しかし一つ失念している事が有った。今が深夜だと言う事。こんな時間にやっているのはラーメン屋か、キャバクラぐらいだろう。例にもれずダンジョンショップもやっていない。
そして、俺の体はうずいていた。
クスリの効果が切れてきた、つまり時間が無いことの証拠だ。手は震えはじめ、さっきまで感じていた希望は少しづつ薄れてくる。
これでは朝までクスリがもつか分からない。
ダンジョンに入ればクスリが手に入るという謎の希望は持ち合わせているのに、ダンジョンに行くための防具や武器が手に入らないのだ。
どうすればいいのか分からず頭をぼりぼりと引っ掻く。
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