第1話 快楽の選択〜10万で選ぶ未来〜
1話目
「はぁ? 何言ってんだ」
「いや~、実は直ぐに現金が欲しくてね。良さそうな人がいたから声をかけさせてもらったんだ」
ひょろっとした男は俺の行く末をふさぎ、目の前で厳重なケースをあけその中に入っている注射器を見せてきた。
注射器にはなぜか液体がすでに入っており、馬鹿なのかと罵倒したくなるがこんな男と話をしたくないので無視をする。
「なら他の奴にしろ。俺は買う気はねぇ」
「そんな事言わずにさ、効能だけでもきいてよ」
「きょうみねぇ」
直ぐに電車に乗りたかったので男を通り過ぎようとするが、なぜか俺の前をふさぎ通そうとはしない。
「このクスリはね、快楽を与えてくれる者なんだよ。」
「ちっ、どけよ。」
「今はやっているダンジョン産の麻薬なんかとは比べ物にならない程、気持ちがよくてね」
気持ちがよくてね。俺の体はその言葉に反応してしまった。薬物はやめたいと心では思っていても、体はヤク漬けだ。気持ちがいいなんて言われたら、気になってしまう。
「お、きになるみたいだね! なんでも天に上るほどの快楽が味わえるらしいよ。まあ僕は使った事無いから知らないけど、いまなら10万円で売ってあげるよ。本当なら100万用意しても断る代物だけどね!」
「……」
手元には10万円丁度がある。しかしそれを使ってしまえば人生がチェックメイトだ。やり直す機会なんて無くなってしまう。しかし体は目の前にあるクスリを使いたいと叫んでいた。
「……10万でいいのか」
自然と声が出ていた。
だって、一瞬思ったんだ。このクスリを使って自殺しても良いかなって。
もし今から仕事に復帰したとしても数百万ある借金はそう簡単に返すことは出来ないだろうし、体に残る中毒症状はいつまでたっても俺の心を蝕むだろう。
ならいっそ楽になった方が幸せ何じゃないかなって。
「うん。10万ぽっきり」
それを聞いた瞬間俺は財布を出した。中にあるのは1万円札10枚。これを出してしまえば……そう考えたところで体を止める事は出来なかった。
「まいどあり!」
今まで理性を抑制せず感情のままにクスリに溺れたつけが来たと言えばいいだろう。俺の手には人生をやり直す為の10万円はなく、クスリが握られていた。男はもうどこかに行ってしまったみたいで、見渡す限り誰もいない。
やってしまったと全身から力が抜け崩れるように座り込んでしまう。しかし自分でした選択だ。詐欺られたわけじゃない。
もう普通の生活に戻れない。そんな選択をしてしまったせいで頭がガンガンいうほど血が巡り、幻覚でも見ているんじゃないかと思うほど目の前がチカチカする。
「くひひ。俺の人生はこれで終いってわけだぁ。」
もう死ぬしかない現状に実感があるかと言われたら、まったくないと答えるしかない。でも1日後には俺は死体になっていることは分かる。
だから、だからこそ。
ためらいなく腕に注射器をさし、中に入っている液体を全て注入した。死ぬのだから感染症なんて気にしなくていいんだ。今はそれよりも天にも昇ると言われた快楽に身を任せたい。
乱暴に注射器を刺した腕からはドバドバと血が出てくる。溢れだすように出てくる血はまだ生きている証拠だと、痛みすら忘れて見入っている。
すると、1分も経っていないだろう。薬の効果が出始めた。
全身が浮かぶような感覚に襲われ平衡感覚を無くす。しかし対照的に頭はさえわたっており、さながら世界の全てが分かったような気分になる。呼吸は浅くなるが、酒を飲んだ時、SEXをしたときのような幸福感が自分を中心に広がり、腕の痛みすら気持ちよく感じる。
こりゃぁ最高だぁ。
今まで使ってきたクスリの良い所を全てとったとしてもこのクスリには敵わない。あの男が行ったように、確かに天に上り昇りそうだ!
しかし次の瞬間全身に激痛が走った。その痛みは意識が落ちるほどのものだ。
「いきてるわぁ」
快楽と痛みは紙一重。今は痛みすら気持ちよかった。
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