10話目 死の淵〜後悔と行動〜
10話目
疲労だ。
重度の疲労により俺は倒れてしまっていた。
仕方がないとしかいいようがない。まるで戦中の傭兵のようにクスリで意識を覚醒させ疲れを感じにくくさせていたのと同等の事をしていたのだから。
いや、それよりも状態としてはわるい。
ろくにエネルギーのない状態でも疲れを感じにくくなるほど効力が強いクスリを使ったのだから、体には相当の負荷がかかっていたはずだ。まさに寿命の前借りだろう。そのおかげで餓死寸前だ。
腹からはとめどなく音が鳴り響き、腕一本動かすエネルギーが無い。
そして残念な事に、俺は食料を持っていないのだ。
「クソ、ダンジョンショップからとってくればよかった」
そう、考えなしに動いていたせいで短剣しか持っておらず、食料はもっていなかった。そのうえ飲料も持っていない。
動く体力が無い俺は過去の自分を恨むことしか出来ないのだ。
社会を変えると神に誓った直後なのにこんな有様では穴に入りたくなるが、実際こんな冗談を言っていられるほど余裕はない。
後数時間の間に何か食べなければ死んでしまうのだから。
今だって出来るだけエネルギーを消費しないようにしているが、それでもタイムリミットが見えてくる。
そんなときであった。
何処からか2つの声が聞こえた。
反射的に、他人から見えなくなる能力を使う。
しかし警戒する程では無さそうだった。なぜなら、高校生くらいの子供の声であったから。ダンジョンは洞窟状になっており響くから直ぐに気付いた。
そうして安心していると、こっちの方に来る事が分かった。
正直、俺を捕まえに来た追手で中ればどうでもいいからスルーしようと思っていたが、なぜか体が疼く。
すると、ボス部屋に挑戦しに来たのかゆっくり門が開く。
しかし残念な事にボスは俺が倒してしまったので今は居ない。少年たちは何もいない部屋に拍子抜けだったみたいで、そっとため息をついた。
「リポップ中だったかな」
「みたいだな、まあ消耗しないと思えばいっか」
「だね」
仲がいいみたいで、楽しく話をしている。
俺が倒れていることに気が付かず、背をみせてランランと喋りながら楽しく歩いている所を見ると、頭が痛くなってきた。
だから体が動いた。
反射だった。
さっきまで動かないと思っていた体は羽のように軽くなり、少年の背後まで一瞬で近づいた。まだ俺の事には気付いていないみたいで、短剣は簡単に首元に持ってこれた。
「え?」
ぐちゃ
「え、なにが……ッイッタ。え? あれ? なんで首。痛い!痛い!痛い!痛い!」
「だれだ!!」
傷が浅かったようでもう一度深く刺す。今度はしっかり殺せるように。
「あ゛……」
少年たちにとっては突然の事だっただろう。死に顔は何が起きているのか分からないような感じで驚愕していた。
しかし、こうなったのは少年が悪いのだ。
倒れた少年のポーチに付けてあるカードを見てみる。そのカードは気色悪いほど金色であり、年頃の子供が持つものではないように感じる。それもそのはずだろう。なぜならこのカードは収入が1億以上の親を持つ子が冒険者になった時に受け取る物なのだから。
このカードがあれば魔物の買取を2割増しにさせてもらうことが出来、さらに万が一怪我をしても無償で治療が出来る特権をつかえるんだ。
つまり、冒険者組合が金持ちに媚びを売るために作られたカード。そして、金持ちをさらに金持ちにするための物だ。
すなわち粛清対象だ。
このカードは資本主義を助長させるものであり、存在してはいけない。だからこの少年を殺した。
「そっちのは……もってるな」
二人組のもう一人の方は位置的に見えなかったので持っているか分からなかったが、改めてみると持っていたようだ。
なら殺さなければ。
だが、流石に目の前で人を殺してしまったので、警戒されており手には剣を持っていた。
「く、来るな!!!」
しかし人が死んだところを見たことが無いのか、錯乱しており剣先がふらふらだ。
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