第4話 登録
ジェイド達の案内の元、ハンターズギルドにやってきた俺は、早速ハンター登録してもらおうと受付に行く。
受付横に大きな看板が複数あるので、その文字を確認しながら進んでいく。初級依頼…中級依頼…依頼完了報告所…新規登録、ここだ。しかもちゃんと日本語で書かれている。そういえば、チェイサーの皆も、街にいた人達も、日本語を使って会話をしていた。今更ながら、本当に運が良かったと思う。言葉や文字が伝わらないのはこの世界で生きるためにはとても大事な事なのだから。
ちなみに、ジェイド達は自分達が受注した依頼の完了報告所に向かい、報酬を受け取りに行っている。つまり今は俺1人だ。知らない場所に1人というのはかなり寂しい気持ちになってしまう。早くここに慣れなくては…
しかし、ここでうじうじしている暇はない。勇気を出して受付の女性に声を掛ける。
「すみません、ハンターとして活動したいので、登録したいのですが…」
「新規登録の方ですね?それでしたらまず、こちらの用紙にお名前のご記入をお願いします。」
そう言われて手渡されたのは、A4サイズの書類1枚だった。見てみると、名前の記入の他にも何かを記入するスペースがある。とりあえず名前を書いて提出する。
「ありがとうございます。それでは、新規登録の方は、これからの事についてのお話がありますので、こちらの方へ移動をお願いします。」
恐らくギルドの従業員の部屋と思われる場所へ案内される。そこで研修を受けるのだろうか。
受付の女性に案内され、やってきたこの部屋は、通っていた学校の教室程大きい所だった。しかし、色々な書類が積み重なっており、実際は少し狭い印象を受ける。部屋の中央部分に大きな横長のテーブルに、高そうな3人崖のソファがテーブルに向かい合う形で置いてある。
そして、研修の先生だろうか。全体的に緑色を基調とする執事服の様な格好をしており、高貴で礼儀正しい印象だ。
「はじめまして、私はハンターズギルドの職員、カシッドだ。君が新しくハンターになりたいと言っているヒカワサイト君だね?最近は新規のハンターも減っているから大歓迎だよ!さ、まずは座って話をしようか!」
どうやら新規ハンターの登録者はあまりいないみたいだ。それもそうだろう。とても危険が伴う仕事なのは目に見えて分かる。そんな事を思っていると、ソファに座る様に促された。言われるがままソファに腰を掛け、面談を開始した。
「まず、どうしてハンターになろうと思ったんだい?ハンターは危険な仕事だ。命を落としてしまう事だってある。君が危険を冒してまでハンターになりたい理由を教えてくれるかな?」
それはそうだろう。ハンターを知らない自分でも、危険な仕事だというのはわかる。しかし、どう返事をしたものだろう。正直に言うべきだろうか?いつの間にか知らない世界へ飛ばされたので、元の世界へ帰るために国王にあって願いを叶えてもらう…と。
「…?どうしたんだい?かなり考え込んでいるけど」
…いや、素直に話そう。この人に嘘はつきたくない。何故かは分からないが、そう思ってしまう。
俺は今までの経緯をざっくりとではあるがカシッドさんに話した。
「…なるほどね。元いた世界へ帰るために、ハンターとして名を馳せて、国王に会い、願いを叶えてもらう、といった所だね?」
「そうですね。国王に会うには、何かしらの結果を残さなければならない。その手段がハンターでした。」
「家族や友人と一生会えないというとても辛い気持ち、よく分かるよ。元の世界へ帰るためにはどんな手段でも手を出してしまうよね。私も君の立場なら、同じことをやっているはずだ。」
カシッドさんは同情してくれる。俺がここまでに会ってきた人達は皆優しい人ばかりだ。思わず、目頭が熱くなる感覚がしてきた。だが、優しい口調ではありつつも、厳しい現実の言葉が発せられる。
「しかし、その道は果てしなく長い。もしかしたら、国王に会えぬままここで一生を終えてしまうかもしれないし、もし会えたとしても帰れるかは分からない。あるいはモンスターとの戦闘で死亡するかもしれない。それでもハンターとしての道を歩むかい?」
「やってやります!今の俺に残された僅かな希望です。この希望を見放す訳にはいきません!例えその道が茨で覆われていても、巨大な壁が立ちふさがろうとも、俺は諦めません!」
俺は感情的になる。そうだ、家族の顔を見れないまま死ぬ訳にはいかない。親孝行だって全然出来ていない。
「…そうだね、君の気持ちが分かるのに意地悪な質問をしてしまったよ。申し訳ない。」
カシッドさんは頭を下げる。いや、カシッドさんは悪くない。当たり前の事を言っているだけだ。国王に会えても、帰れる保証なんて無いし、そもそも会う前に俺がモンスターに殺されているかもしれない。
「…いえ、大丈夫です…」
このままでは気まずい空気になってしまう。強引に話題を変える事にする。
「そ、それで、私はハンターになれるのでしょうか?」
「うむ、最初は反対するつもでいたが…君の事情を聞いてしまった後では、突っぱねる訳にもいかないよ。」
「そ、それじゃあ…俺は…」
「ああ!君を正式にハンターとして認めよう!」