第2話 自己紹介
「うぅん……」
「おっ!目を覚ましたぞ!」
「よかった…」
「ふぅ…安心したよ」
目を覚ますと、3人の人間が俺を見て、安心した表情を浮かべ、安堵の言葉を漏らす。周囲にはあの巨大トカゲはおらず、テントの中で眠っていた。恐らく彼らのキャンプ地まで運んでくれたのだろう。中央に置かれた石を並べた簡易的なかまどの火が温かい。
「どこか痛かったりする所ありませんか?高度治癒魔法を使用したので大丈夫とは思いますが…」
確かに、右肩を噛みつかれ、肉を食い千切られた様な感覚は覚えている。しかしふと見てみると、右肩は噛んだ跡も無く、いつも通りの自分の肩にだった。驚きつつも、自分の容態に気をかけてくれる女性に返事をすることにする。
「は…はい、大丈夫です。肩の怪我は無くなってます。ただ、少しめまいがするくらいで…」
「めまいの症状は、アイアンリザードの牙に含まれる毒のせいですね。毒素を消す魔法を掛けましたが、まだ完全には消えていないようですね。ですが、直に良くなりますよ。」
どうやらこのめまいの症状はあのアイアンリザードとかいう生物の毒らしい。しかし、すぐに治るとの事。だが、俺は皆に感謝の言葉を言っていない。もし、あの時助けてくれなかったら、治療してくれなかったら俺は確実に死んでいただろう。まず感謝の言葉を言わねば。
「あの…助けてくれてありがとうございます。もしあなた方が来てくれなかったら、俺…あ、いや私はアイツに殺されていました。本当にありがとうございます。」
「大丈夫だ!ハンターズとして当然の事をしたまで!気にすることはないぞ!無理して畏まらなくてもいいぞ!気楽にしてくれ!」
全身を黒で染め、所々に黄色のラインが入った鎧の男性が答える。喋り方からも豪快な人だと想像できる。
「さて、君も目が覚めた事だし自己紹介といくか!俺はジェイド!Cクラスハンター『チェイサー』の攻撃担当だ!よろしくな!」
重装備の男性の名はジェイド。年齢は30程だろうか。短い茶色の髪に緑色の眼、顔には戦闘機で負ったであろう傷が頬にある。筋骨隆々な体型の守るその鎧は、中途半端な攻撃は通すことができないだろう。そして、一際目に入るのが、ジェイドの横に置かれている巨大な剣。ジェイドの身の丈はありそうだ。この武器ならあのアイアンリザードが吹っ飛んだのも納得がいく。
「私は『チェイサー』の回復担当ケリアと申します。よろしくお願いします。」
女性の名はケリア。年齢は20程と若い印象を受ける。髪型は隠れているため分からないが、眼は澄んだ青色だ。シスターというのだろうか?イメージする修道者の様な格好だ。だが、最低限の防御性能と戦闘することをを考えているのか、腕や脛部分にプレートが装備されており、修道者のものよりヒラヒラした部分が無く、短いデザインとなっている。
「僕は『チェイサー』の支援や敵のデバフを行う事が役割の「パズ」だよ。よろしくね。」
この男性の名はパズ。全体的には細身の体型で、黒髪、黒髪い瞳と親近感を覚える。上半身は胸部を守る胸当てを装着し、その上にロングコートの様なローブを羽織っている。下半身はレギンスの上に脚を守るアーマープレートが装着されている。腰の部分には様々な道具があり、その道具を用いて味方の支援や敵を弱らせるのだろう。
「俺は氷川彩斗といいます。日本のT市出身で、年齢は16歳です。目を覚ましたら突然あの場所にいたので、自分は何故そこにいるのかよくわかりませんでした。」
ここで、俺の紹介をしよう。俺はT市のとある工業高校の1年生だ。まだ入学して1ヶ月程だが、友達も数人ではあるが作ることが出来た。学業は特に秀でる所はない。数学がちょっとだけ苦手なくらいか。運動も、足が学年一速い事を除けば、普通といった所だろう。
「T市出身…?知らない地名だね。少なくともこの周辺にある王国にはそんな名前は無いね。」
返ってきた返事は予想はしていたものの、やはりここはT市でもなければ、日本ではない事がわかった。本当に知らない世界へ飛ばされてしまったんだ。
「それにその格好、見たことない服だね。動きやすそうではあるけど、防御面は期待できそうにないね。」
そう、今俺は高校の指定ジャージを上下に着ている。とても着やすく、楽に出来る為、近場のコンビニ行くときもこの格好だし、よく部屋着にしている。
「しかし、目覚めたら突然あの場所にいた…か。サイト、目が覚める前の記憶はあるか?もしかしたらそこから何かわかるかもしれん。ちょっと話してくれ。」
そう言われたので、俺はゲームを起動した時から今までの事を説明した。
ざっくりしすぎてて我ながらもう少し上手く説明できないものかと思ってしまうほど説明が下手だなと心の中で笑ってしまう。
「…まぁ、いくつか聞き慣れない単語はあったが、要するに目の前が白くなった途端に意識を失い、目覚めたらあの場所で突っ立っていてアイアンリザードに襲われていたんだな?」
どうやらジェイドは分かってくれたようだ。他の二人もジェイドの結論に納得していた。俺はジェイドの言葉に首を縦に振る。
「ふむ、僕が昔聞いた話だけど、これに似たような事が極少数ながらあるよ。遠距離の拠点間を転移という魔法でワープ出来ないか試したらしい。」
「え!?それじゃあ俺がここにいるのもその転移という魔法を使ったという事ですか?」
「その可能性は無いと思うよ。転移魔法は術者にとても負担が掛かる上、成功率もとても低い。転移魔法の実験で多数の死亡者が出てしまったから、10年位前に使用することは禁止しているんだ。」
「そうですか…俺は元の世界へ帰れるでしょうか…」
俺がそうつぶやくと、皆顔を下へ向けてしまう。
やはり無理か…もう親の顔も見れず、友人の声も聞けぬままこの世界で一生を過ごす事になるのかと考え、とうとう涙まで出てきそうになる。しかし、ケリアの声で絶望から希望に変わった。
「国王に会うことが出来れば、まだ希望はあるかもしれません。」
「え…?」
「過去に偉大な成果を残したハンターが、国王からの特別報酬で、1つだけ願いを叶えるという事がありました。内容は極秘のため詳細はわかりませんが、もしサイトさんがハンターとして結果を残し、王に名前を知ってもらえれば、何とかなるかもしれません。」
「ほ…本当ですか…?!」
今の自分にとっては唯一の希望だ。絶対に取り逃がすものか。
「そのハンターというのはどこでどうやればいいんですか!?今すぐにでもできますか!?」
興奮している俺をジェイドが肩を掴み、宥める。
「落ち着け!気持ちは分かるが今すぐは無理だ。この世界の事も知らないんだろう?それに今のお前は武器装備も無ければ家も金も無い。そんな状態でどうにかできる訳がないだろう?」
ジェイドの言う通りだ。今の俺はこの世界で生活が出来ない。生活に必要なものが全て無いのだ。ハンターだのと言ってる場合ではない。
「…すみません。取り乱してしまって…」
「いや、気にするな。俺もお前の立場ならそうしていただろうからな…」
ジェイドが慰めてくれている。ケリアもパズも俺の気持ちが分かるのだろう。少し悲しい顔をしている。少し時間が経ち、俺の気持ちも落ち着いてきた。
「よし!とりあえず今日は夜も遅い。今日はもう寝ておけ。明日はハンターズギルドに行ってお前をハンターとして登録しに行こう。その道中でこの世界の事を教えよう。それまでの面倒は俺たちに任せろ!」
ジェイドはケリアとパズにアイコンタクトをしている。どうやら2人もリーダーであるジェイドの意見に賛成のようだ。笑顔を浮かべ、俺に安心感を与えてくれる。
「ありがとうございます!本当に…ありがとうごさいます…!」
会って1日も経っていないのに、こんなに親切にしてくれる『チェイサー』の皆が優しくて、暖かくて、ついに涙を流してしまった。
「ハッハッハッ!泣くほど嬉しかったか!」
「あわわ…こういうときはどうすれば良いのでしょう…?」
「明日からは忙しくなるよ!ちゃんと寝て体力を回復させとかないとね!」
こうして皆に励まされ、俺は泣き疲れて、ねむってしまった。