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 俺と生形さんが【タウラスと牡牛】に所属してから一か月が経過した。俺はギルドで寝泊まりしているが、生形さんは律儀にも近くにアパートを借りて一人暮らしを始めたようだ。


「にしても、本当に暇だね」


「しょうがないよ。攻略ギルドと言えども、【ダンジョン】は国が管理しているから……」


「そんなもんなんだね……」


【ダンジョン】が出現してから月日が浅いモノは、多くのギルドが攻略希望を出す。攻略すれば国から報酬が支払われるからだ。

 しかし、だからと言って長い年月をかけて成長した【ダンジョン】は危険過ぎる。その辺を見極めることが難しいらしい。 


「別に違うギルド同士でも、一緒に【ダンジョン】入って良い気がするけど」


 だったら、ギルドに関わらず腕の立つ者達が組んで【ダンジョン】の攻略に向かえばいいのではないかと、俺は考えてしまうのだが、それもまた問題が起こったらしい。


「大抵、強い人ほど周囲に影響を及ぼすから。互いに足を引っ張り合って、犠牲になるってことが多かったみたいよ。それが原因でギルドが作られた。って、学園で習ったけど?」


「……そうだっけ?」


 全く、そんな歴史は覚えていなかった。というか、今となっては授業内容のほとんどは覚えていない。筆記試験の成績は決して悪くなかったが、俺は一夜漬けで暗記しただけ。

 覚えるのが人より早かったのだ。

 そして、その分、忘れるのも人より早い。


 なんてことを生形さんと話していると、バンと勢いよく扉が開かれた。

 時刻は昼前。

 俺達が起きるよりも早く外出していたのか、ギルドのリーダーである臥牛さんが外から帰ってきた。

 顔には満面の笑みを浮かべてだ。


「喜べ、新人たち! 三か月モノの【ダンジョン】が見つかったぞ。国に申請する前に、俺達で勝手に入っちまおう」


 どうやら、新たに現れた【ダンジョン】を見つけたらしい。

 現代の日本では【ダンジョン】は定期的に発見される。……なんというか、やってることは昆虫の駆除とかと変わらない気がする……。

 しかし……。


「三か月モノ……ですか」


 そのレベルは学園で既に経験している。

 俺や生形さんでも充分攻略できると思うのだが――。


「国に申請しなくていいんですか?」


【ダンジョン】に勝手に侵入することは禁止されている。見つけたらすぐに国へ報告することが国民には義務付けられているのだが……。


「気にするな。見つかる前に攻略してしまえば問題はない」


「……そんな子供みたいなこと言わないでくださいよ。ねぇ、生形さん」


 俺は真面目な生形さんに助けを求める。

 しかるべき手順を踏んで攻略すべきだと同意してくれるはずだ。

 だが、生形さんは俺の考えとは違っていた。むしろ、臥牛さんに同意する。


「……私は攻略してもいいと思う」


「おっ。スイちゃん。分かってるじゃん!」


 なんで、真面目な生形さんが……。そう考えた所で、俺は彼女が所属を希望しに現れた日のことを思い出す。

 そうだ。

 生形さんは国に不信感を抱いているんだった。

 それは分かったけど――。


「でも、三か月モノなら、罪を犯してまで攻略する必要はないんじゃないですか?」


 俺の疑問に臥牛さんが「チッチッチ」と時計の振り子のように指を振る。

 微妙に振るタイミングが全部ズレていたことがなんとなく腹が立った。

 俺の怒りを煽るように臥牛さんは頬を歪めた。


「本当にお前達で攻略できるのかな?」


 俺達では攻略出来ないとでも言いたげな臥牛さん。

 俺は思わずムキになって答えた。


「そんなの……出来るに決まってるじゃないですか!」


「ま、新人は大体、そうやって考えるんだよな。結果、粋がって命を落とす奴の方が多いくらいだ」


 臥牛さんの言葉に生形さんがまたしても同意する。


「そうだよ? 【ダンジョン】のモンスターは、発生した土地によって強さが変わる。普段は学園が出現するモンスターも管理してくれたけど、自然に出来る【ダンジョン】はそういう訳にはいかないんだよ?」


「そいういこと~。でも、知識では分かってても、やっぱり油断する奴は多いんだ。どうやら人間は自分の肌で経験しないと分からないみたいでさ」


 生形さんが【タウラスと牡牛】に所属してくれたことは単純に嬉しいんだけど、結果、俺の無能さが露見しているような……。

 

「まあ、そんなわけだからよ。お前達で見事に【ダンジョン】を攻略してこい!」


「も、勿論だ。今は誰もいないが、後から織納か……その辺りにいるメンバーは送り込む」

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