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「……タイミング悪いなー。なんでこんな時に限って、【タウラスと牡牛】に、五か月モノの【ダンジョン】の攻略が割り振られるんだよ。幸か不幸か分からないね!」


 どうやら、今の連絡は国からだったようだ。

 申請していた【ダンジョン】の攻略許可がおりたらしい。

 臥牛さんが織納さんの足を頭から弾いて立ち上がった。


「なんと、来たか!! 実は、新しく入った君たちのために、【ダンジョン】の攻略申請をしていたんだ。なあ、織納!」


「知ってるってば。だから、【ダンジョン】を生み出す必要なかったんだってば」


「おいおい。それは結果論だろ? もしかしたら、攻略許可がおりるのは数か月先だったかも知れないんだ」


 臥牛さんは、【ダンジョン】を生み出したことを、悪びれた様子もなく言い切った。


「反省してないな……」


「反省はしたさ。ただ、俺はいつまでも引きずらないだけだ」


 もう気持ちは切り替えたと臥牛さん。少し切り替えが早い気もするけど、起きたことをいつまでも、反省していても得することは何もない。

 それは俺が一番知っていた。


「でもよぉ。五か月で許可出すなら、もっと早く攻略させて欲しいよな……。俺も最近は【ダンジョン】入ってないから腕が鈍っちまうぜ……」


 臥牛さんの視線が鋭くなる。

 腰に付いた二本の刀に触れる臥牛さん。これまで、頭を踏まれていた男とは思えないほどの緊迫感がギルド内に張り詰めた。

 俺は圧倒されてしまうが、織納さんは兵器なようで、いつも通りの口調で臥牛さんに注意する。


「国だって色々あるんだって。【ダンジョン】やモンスターの研究や解析もするんだからねー」


 国が【ダンジョン】やモンスターを用いて行う研究。

 様々な分野で行われてるんだよな?

 学園で習ったぞ?

 その殆んどは覚えてないけど、面白い内容の一つだけを覚えていた。俺は自分の知識を見せつける。


「【ダンジョン】から生み出されるモンスターは、年月を重ねれば強くなる。その仕組みが分かれば、人も寿命から解放されるって内容とかありましたよね!」


 簡単に言えば不老不死の研究だ。

 誰もが憧れる不老不死。

 その答えが【ダンジョン】にあるかも知れないと思うとロマンは感じるな。モンスターが人を襲わなければいいのに……。


「あれ? マイマイにしては良く知ってるね!」


「そ、そうですかね?」


 俺の想定通り織納さんに褒められた。

 思えば俺が【タウラスと牡牛】に所属してから一度も褒められたことはなかった。しっかりと話を聞いていた過去の自分を抱きしめてやりたい。


 俺の知識に臥牛さんが頭の上で手を組み、不満を口にした。


「はぁ? 人が死なない世界なんて気持ち悪いだろ。人間なんて死様しにざまのために生きてるようなモンなんだからよ」


「はぁ。だから、リーダーみたいな考え方は特別なの。殆んどの人は年も取りたくないし、死ぬのが怖いのよ」


 カタンと、織納さんは、テーブルにスマホを起いた。


「ま、何にせよ国からの正式な許可が来たんだ。だからこそ、昨日みたいに失敗できないね」


「……すいません」


 織納さんの言葉に俺は小さく頭を下げる。

 新人だけで攻略に出向き【欠片かけら】を失った。そのことを責めてるのかと思ったが、織納さんは首を振る。


「マイマイ達は悪くないよ。悪いのはリーダーなんだよ……」


 キッとリーダを睨みつける。

 凍えるようなその視線に、「すいませんしたぁ!」、凄い速さで頭を地面に付けた。

 さっきまで、死様のために生きていると言っていた気がするのだが、この生き方でいいのだろうか?


「リーダーがこんなだから、【タウラスと牡牛】のメンバーはロクなのがいないのよ。人を集めるのだって一苦労なんだから」


「確かに……」


 俺は所属してからこれまで、臥牛さんと織納さん以外の人間をみたことがない。

 俺は毎日ギルドに顔を出しているにも関わらずだ。


「許可が降りたことを皆に教えれば、一人か二人は集まると思うんだけど……。ま、今回は面倒だから、私が同行するよー!」


「織納さんが!?」


「なによ、不満……?」


「そういう訳では……」


 チラリと当たり前のようにリーダーの頭に乗せられた足に視線を落とす。

 不満はないけど怖くはある。

 この人と……【ダンジョン】に入るのか……。


「なにより、私も【ダンジョン】入るの久しぶりだしねー!」


 臥牛さんの頭を踏み台に、腰に手を当てる。

 まるで、キッズモデルのようだ。

 そんなことを言ったら、織納さんは起こるだろうけど……。


「さあ、そうと決まれば早くスイスイに連絡よ!」


 織納さんがテーブルに置いたスマホに手を伸ばした時、


「ちょっと、待てよ!」


 ギルドから一人の男が入ってきた。

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