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(九)宮廷入り

 翌朝早く、桔梗妃の処刑を前に御殿大広間では大臣らやその家臣が集められた。


 事情を直前で聞かされた紫葉(しよう)皇太子はキョロキョロしながら上座の壇上に座る。

 すると、そこへ紺地に水色の桔梗の花模様をあしらった袴を着た夕貴(ゆうき)が歩いてくる。

 墨色の真っすぐな髪は上半分だけを結いあげ、雰囲気ががらりと変わったように見えた。


 一斉に皆が夕貴に注目する中、桔梗ききょう妃の弟 永安ながやすが前へ出た。


「皇帝の第二皇子とし、夕貴殿下は本日正式に皇子となられた。よって、桔梗妃は皇子の母となる故、処刑の対象では無い」


「良いですか?右京(うきょう)大臣」

 夕貴は余裕の笑みで皇帝の側近である大臣の右京に問う。

「は はあ。もちろんでございます 殿下」と腰を丸めて視線を下に落とすのであった。


 行方をくらましたと言われていた夕貴の登場にざわつく臣下達には興味なく

 紫葉は、美しい夕貴に嫉妬丸出しの顔を向ける。美に囚われた紫葉は明日に側室選びを控えていた。


 その後夕貴の部屋を訪れた桔梗妃は涙を浮かべる。


「ごめんなさい 夕貴、貴方を守る為とはいえ永く寂しい思いをさせました」


「寂しかったのは私ではなく、母上では?私にこんな美しく優しい母がいるとわかり嬉しいばかりです。」


「まあ。夕貴 私の手紙は読みましたか」


「手紙?」


「ええ 処刑の発表があった晩、忍びが私を逃がそうと……。その者はあなたの弟子だと申したので、ことづけたのです。」


「…………」

「弟子に伝えて、手紙は破り捨ててと」



 ◇



 武官府宿舎


「良かったよな桔梗妃様」

「ああ」

「なっ、マノスケ 昨晩剣舞に行ったろ?」

「うん」

「……化粧したのか?」

「え」

「ほれ、まだ付いとる」と美桜(マノスケ)の顔に触れる(おうぎ)の手を払いのける。

『こいつ女じゃないのか 可愛すぎるぞ』


「あ、顔洗ってくる」

(扇まで疑ってる……まずい……)




 ◇◇◇



 夕貴の部屋や何かと慌ただしく準備が進む中、紫葉の側室選びの日がやってきた。


 美桜は言われた通り審査の助言を頼まれ、紙と筆を持ち受験者の回りを歩く。


 会場には紫葉の母 竜胆(りんどう)皇后、正室の松前(まつまえ)妃、側室の菖蒲(あやめ)妃、同じく側室の牡丹(ぼたん)妃がいる。


(やっぱり……厳しいお顔だな……いや顔というか表情か)

 正室も側室もみな、己より美しい女が集まりむすっとしているのだ。

 ぱたぱたと、扇子を仰ぎ早く終わらんかと言わんばかりの仕草を繰り返す。


 美桜は、並ぶ麗麗(れいれい)を見つける。

「マノスケ?何してるの!?なんで夕貴殿までいるの?」


 木根(きね)師範の稽古場まで、此度の騒動は伝わっていなかったようだ。麗麗も木根師範も疑問の中、側室試験が始まった。


(麗麗は本当にあの皇太子の側室になりたいのかな。あの男に体を許せるのか……。)


 そんな中、紫葉の視線は終始美桜を追っていた。



 試験がおわり武官府に戻った美桜の元へ、金市(かねいち)が走って来る。


「おいっ夕貴殿下の従者が発表されたらしい 見に行こう!!」


 皆で急いで草履を履いて張り紙を見に走る。

 砂利をすり砂を舞いあげ美桜もじっとそれを見た。


 ―――――


 侍従武官 扇

 侍従武官 馬ノ介


「なに?これだけ……」

「マノスケ?!?!マノスケは武官試験にすら受かってないぞ」


「あれ……夕貴殿勘違いかな」


(まのすけの漢字当て字だな……せめて、かなで良いのに)


「だからいっただろ!絶対に夕貴殿は贔屓にしてる」

「夕貴殿、こんなひ弱な護衛で大丈夫かよ」

「なに?失礼だな」

「夕貴殿がお強いから大丈夫だろ」


 夕貴は女官では無くあくまで男の職に美桜を就かせたのだった。



 その後、扇と美桜は夕貴の部屋へ足を運ぶ。


「「失礼します」」

「よく参った。さ、上がれ」


「わっ夕貴殿、あ 殿下 凄いですね」扇は部屋を見渡す。


「急な事で何も追いつかないが、お前たちがここにいればまるで道場だな」

 と笑う夕貴。


「あ、扇。ここの侍従武官(じじゅうぶかん)長が呼んでいた。」

「では行って参ります」


 扇が出たあと部屋に残る美桜

「夕貴殿下 あの、刺客がまた来るかもしれないのに私達で大丈夫ですか」


「ああ。大丈夫だ。女のお前でもな」

「…………」

「仕方ない。その秘密私も今は目を瞑ろう。」

「申しわけありません」

「他に知るものは?」

「居ません」

「はあ、とんだ嘘つきだったんだな。見事だマノスケ」

「あはは すいません……」

「くれぐれも気をつけろ。あんな接吻で大事な小刀落とすんじゃ駄目だぞ」

「…………」


「それから、敵は討つな、討てば今やお前は私の直属の部下。私の罪となる。わかったな。無論、私と心中したくなれば殺れ」

「はい」

 美桜は力強く答えた。


(そうだ。夕貴殿は私がまた敵討ちだと刀を振り回さないように、この役を。)


 美桜は恩を仇で返す真似は出来ないと、大人しく今は流れに身を任せる事に腹をくくる。


「それから、私の母上から手紙をもらったか?」

「あ」

「やはりお前だったか」


 美桜は肌身離さず持っていた小さな紙を出す。


「母上は捨てろといったが、マノスケが読んでくれ。声には出さなくて良い」


「……はい」


 我が息子よ

 母となれなかった母の勝手をお許し願います

 あなたを守る為、私の希望を守る為選んだ道でした。

 今や皇位などどうでも良い

 赤子のあなたを抱きたかった

 あなたの初めて歩く手を握りたかった

 初めての言葉はなんであったのだろう

 真っすぐに育て

 いつか、あなたが恋した人と一緒になり

 産まれる子を見たかった

 あなたが老いて立派な父となる日を見届けたいものでした

 強く美しく生き抜いて 我が息子よ


 美桜は手紙に目を通した後、瞳を涙で震わせるも耐え、夕貴にそっと手紙を渡したのだった。


「さてそろそろ、扇がふくれて戻るな」

「はい?」


 扉を開けた扇が叫ぶ

「呼んでねえと言われましたっ!」

「あれ おかしいな。そうか、なら仕方がない」

 と言う夕貴と美桜は笑い合う。


「そうだ。紫葉殿下の側室、麗麗を押すのか?」

「それが望みであれば。美しさも舞も文句ないです。」

「麗麗は、遊楽に売られる前に逃げたところを人攫いに捕まったんだ。てっきり男のものにされるのが嫌だろうと思って下働きにでもと思ったら、側室になりたいと言った。」

「え」

「遊楽から側室になるのは難しいと、傷物だと弾かれる。踊り子になって目指すと言ったから木根師範に預けた」


「そうでしたか、では遠慮なく」


「あれ、そう言えば夕貴殿下に正室や側室は」


「その件でお話があります」

「わあっびっくりした」


 白髪の頭を結った女、後宮取締の砂羽(さわ)がいつの間にか居たのだ。


「武家の豊洲とよす様の姫君を正室として、お迎えください。桔梗妃様も納得されています。側室は……まあ、追々。」


「あの、私は第二皇子であり、皇位継承者では……」


「は?!」

「え?!」

「しばし、お待ちを。皆々様」


 さささっと砂羽は出ていった。

 皇位継承について話をする為、桔梗の弟、永安を探しに向かったのだった。

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