飛竜と王立学校最強パーティー
時間は少し遡る。
空を翔る二匹の飛竜。その背中には……
「凄い、見よ、この僕の飛竜さばき!!」
「本当にちゃんと慣らされているのね。シノブちゃんでも操れるなんて」
一匹には俺とベルベッティア。もう一匹にはアルタイル。
風を切りながら雲の隙間を抜けていく。
「飛竜乗りの才能が開花したのかも知れない!!」
「誰でも乗れるように訓練されているって言っていたよ」
「ちょっと。テンション下げるような事を言うの止めて。僕は世界一の飛竜乗りの気分なんだから。ひゃっほい!!」
「それに『僕』って、急にどうしたの? 服装まで男の子みたいに」
「だって髪が短くなったから、伸びるまでは僕っ娘って設定でいこうと思って。自分の事を『僕』っていう女の子、可愛くない?」
「凄くかわいい!!」
ニーナから貰った手紙。
それをニーナに言われた都市の統治者に見せたところ、飛竜が貸し出されたのだ。
飛竜は調教が難しく、人を乗せられる頭数は大陸中で数えられる程度。そのうちの二匹が借りられたのだ。
徒歩や馬車に比べて格段に移動速度が速くなる。
ちなみに、だったらニーナが飛竜を使えば良いんじゃないかと思うが、飛竜の頭数が少ないという事は、ニーナを守る護衛も少ないという事。地上よりも対処が難しいらしい。
そしてアルタイルの枝占いで海の近くまで来たのだが、その途中で面白い噂を聞いた。
それは海賊を狩る義賊の話。
大陸の混乱に乗じて海賊が好き勝手やっていたのだが、それを退治する提督がいるらしいと。しかもその提督、熊の獣人だと言う。
アルタイルの枝占いと合わせて考えたら、これ絶対にビスマルクじゃん。
さらにである、ただの猫に扮したベルベッティアが得た情報。それはゴーレムを連れた少女が海賊達を集めて、その義賊を倒す計画を立てているらしい。
そこで俺達は……
「僕達も海賊になろう」
「また急にどうしたの?」
「適当な海賊を乗っ取ってさ。そのゴーレムを連れた少女って奴の事も探れるし、いざって時はビスマルクさん達を助けられるし。謎の包帯巻きのお頭が統制するスケルトン満載の幽霊海賊船を!!」
「ねぇ、アルタイルちゃん、あなた海賊のお頭になってるよ?」
「……必要ならば」
★★★
そんなわけで海賊集団に潜入して今に至る。
「つまり事態の裏には三つ首竜がいる可能性があるんだな?」
ビスマルクの言葉に俺は頷く。
「その可能性は高いと思います。その上でみんなにお願いしたいんですけど……三つ首竜をブッ飛ばすの手伝って欲しいんです。お願いします」
「当たり前じゃない!! 大陸の危機なのよ!! そんな事、シノブに頼まれなくてもやってやるわ!!」
「まぁ、俺達も困るしな。それにシノブには色々と助けられているし、お願いなんてしなくても力を貸すよ。だろ? 母さん」
「もちろんよ~私とユー君に出来る事なら何でも頼んで~」
「まぁ。そういう事だな。もちろん私も手伝うぞ」
全員快諾。
よしっ、仲間が増えたぜ!!
「みんな、ありがとう!!」
★★★
またまた、またまた時間は遡りまして……それは大地震が起る少し前。これはリアーナ達から後に聞いた、王立学校での話。
毎年、行われる模擬戦。特別な事が起きていた。
そのパーティーは強過ぎて、三人パーティーという異例の組み合わせが認められていた。さらに本来は学年別で行われる模擬戦ではあるが、上級生とも対戦をしている。
上級生相手にも連戦連勝を続ける、その18歳の三人パーティーとは……
「今回も油断せずに行きましょう」
腰まで伸びる艶やかな黒髪は美しい。意思の強さを感じる目元、そして吸い込まれそうな黒い瞳。すらっと伸びるその立ち姿は涼やかにすら見える。
彼女はロザリンド。
「もちろんだよ。しっかり作戦も立てたし、ちゃんとやれば絶対に勝てるよ」
少しクセのある金色の髪に青い瞳が映える。彼女の温和な表情は周りに安心感を与える。そして女性らしい体付きに、男性なら誰しもが惹かれてしまうだろう。
リアーナだ。
「でも作戦なんてあまり関係無いけどな。いつもロザリンドとリアーナの正面突破で済むだろ」
そう言って眼鏡を直すのはタックルベリー。
ここ数年で体型的に一番変わったのは彼かも知れない。
昔はロザリンドやリアーナと身長はあまり変わらなかったが、今では二人より頭一つは抜き出ている。そして体付きもガッシリと男っぽくなり、その表情も精悍さを感じる。
この三人、すでに王立学校最強パーティーになっていた。
そして上級生を相手に迎えた模擬戦決勝戦。
圧倒的優勝。
タックルベリーの言う通り、ロザリンドとリアーナは相手と正面から対して押し勝つ。何通りも練っていた作戦を使わずなのだから、まさに圧倒的である。
このまま卒業まで行けば、この中の三人の誰かが主席になるだろうし、これだけ優秀なら卒業後に進む先も選びたい放題だろう。
このまま順調に行けば……
大地震。
大陸の変動。
授業の休止。
「おいおい、しかし相変わらずお前の所は凄いな」
タックルベリーは寮の一室を見回して呟く。
至る所にヌイグルミ。目の前にヌイグルミ、そして振り向けばヌイグルミ。ヌイグルミが溢れている。
「う、うるさいわね。追い出されたいの?」
「そんな事は無いけどさ」
タックルベリーは手近なヌイグルミを手に取り放り投げる。
「ベリーっっっ!!」
「はははっ、悪い悪い」
「ちょっとベリー君、ふざけている場合じゃないよ!!」
「次やったら頭をカチ割るわよ」
「はいはい」
ロザリンドの部屋にリアーナとタックルベリーが集まっていた。
「それでベリーの聞いた話は?」
「まぁ、先生から聞いた話なんだけどな」
王立学校は国が管理する重要な施設であり、校舎や寮を高い防御壁が囲む。王国から派遣された自警団もいるし、学校内にはある程度の食料も保存され籠城する事も出来る。
現時点で生徒達は王立学校外への外出禁止、教師などが外の様子を調べていた。
そしてタックルベリーが教師から伝え聞いた話だと、地形が変形しているらしい。
「それって地震のせいで地形が変わっているって事かな?」
「でもそれなら何日も外出禁止にする必要が無いわ」
「いや、地震による変化とかそういう事じゃない」
ベリーは大陸の地図を広げて続ける。
「ここが王立学校だろ? で、本来ならこっちは王都のはずだけど、今は海になっているらしいぞ」
「ありえないわね」
「教師や自警団の調査の結果だ。ありえない事が起きている。リアーナ、サンドンかヤミを呼び出せないか?」
「うん。それなんだけど、実はもう笛は吹いてみたの。でも反応が無くって」
リアーナは胸にぶら下げた二つの体育教師ホイッスルに手を添える。
「つまり現時点で僕達に出来る事は無し、外の情報は何も分からないって事だ」
タックルベリーは大きく息を吐くのだった。
その時にリアーナがロザリンドの机の上に置かれたランタンに気付く。もちろんパル鉄鋼とガララント石を使ったランタン。
「あっ、地震の事で忘れていたけど、シノブちゃんから手紙を貰ったよ」
「ふふっ」
ロザリンドは小さく笑う。
「どうしたんだよ、急に?」
「ほら、シノブの手紙って毎回凄いでしょう? 自分のお店を持ったとか、ユニコーンの秘薬を手に入れたとか、暗殺されそうになったとか、温泉を作ったとか、作り話みたいな事ばっかりだけど、不思議とシノブだと納得してしまうのよね」
「今回の事もシノブが関係していたりしてな。あれからリアーナもシノブとは会ってないんだろ?」
「うん、シノブちゃんも忙しいみたいで、たまに帰省しても運が悪くて会えてないの」
「あれからもう四年か……早いな……」
「ねぇ、シノブの手紙には何て書いてあるの? 見せてもらっていいかしら?」
「うん、もちろんだよ」
リアーナの手には一通の手紙。
その内容。
……
…………
………………
「喋るヌコちゃんだって……会ってみたいなぁ」
「二股の尻尾のヌコなんて見た事が無いわね」
「さすがシノブ。相変わらず普通じゃない」
三人は笑うのだった。
しかしそれから数日後である。
王立学校が何者かの集団に攻め込まれたのは……




