金色の髪と金色の瞳
ヴイーヴルはユリアンとリコリスを連れて飛び立った。
三人だけなら何とか逃げ切る事は出来るだろう。
何隻もの海賊船が近付く。
「巻き込んでしまい、すまなかったな」
ビスマルクは言う。
「いえ、どうせ海賊を続けていたって行き着く先は縛り首でさぁ」
「まぁ、まだ死ぬと決まったわけではないがな」
海賊船に囲まれ、飛ばされる罵詈雑言。
その中に二隻、異様な船があった。
一隻はまるで幽霊船。甲板からこちらを見下ろすのは無数のスケルトン。船にネクロマンサーがいるのかも知れない。
そしてもう一隻。下からでも分かる巨大な砲身が見えた。これがあの熱線を放ったのだろう。ただその砲身……腕がある。腕を船の縁に掛け、砲身を顔のようにこちらに向けていた。生物とも兵器とも思えない……ビスマルクの頭に浮かんだのはゴーレムという存在。
その砲身が乗る船から一人の少女が降りて来る。空中をフワフワと、まるで重さを感じさせない綿毛のように。
年齢的にはリコリスやユリアンもさらに下。金色の髪と金色の瞳を持つ少女。その見た目は可愛らしいがビスマルクが感じるのは脅威。
「私ね、海をね、メチャクチャにするように言われているの。だからね、あなた達みたいな人がいると困るの。ここで沈んで。ね?」
「誰に命令をされているんだ? それにお前は何者だ? ただの子供じゃないのだろう?」
ビスマルクは言う。言いつつ少女の隙をうかがうが……
「説明するのは面倒。どうせここでこのまま死ぬのだから。でも私の名前なら教えてあげるね。私はアリエリ」
アリエリは隙など微塵も見せない。
「はい、じゃあ、さようなら」
アリエリの言葉に反応するように砲身が向けられた。
どこまで通用するか分からないが、このまま黙ってやられる程にビスマルクは甘くない。
「では、最後まで足掻いてみるか」
ビスマルクが構えを取った、その時である。
突然だった。
ドンッ
衝撃音と共に爆風。
その方向に視線を向けると海賊船が一隻、沈み始めていた。突然の事に海賊達も何が起こったのか全く分かっていない。
続くように海賊船が何隻も衝撃と共に沈んでいく。
「何が起こっているの?」
ほんの一瞬である。アリエリが視線をビスマルクから外したその瞬間。ビスマルクは跳んだ。その巨体からは想像が付かない程の敏捷性と跳躍力。
一瞬のジャンプでアリエリの目の前に姿を現す。そして鈍い音と共にビスマルクの蹴りがアリエリの体に叩き込まれた。
蹴り飛ばされたアリエリの小さい体は海賊船をブチ抜いてしまう。常人なら蹴られた時点で即死、海賊船に叩き付けられた時点でただの肉塊。そんな一撃であるが……
フワフワとアリエリは姿を現すのだった。
「あなたは凄く強いのね」
「アリエリだったな。お前も相当だ」
「これもあなたの仕業?」
アリエリは周囲を見回した。ビスマルクもその視線の先を追う。
どの海賊船も無数のスケルトンに襲われていた。
「さぁ、それは知らないな」
「そう……」
その時である。少年のようにも見える彼女が現れたのは。
★★★
「さぁ、それは知らないな」
「そう……」
そりゃそうだ、ビスマルクは知らなくて当たり前だ。
だって、これをやったのは……
「これは全部、この僕、シノブの仕業だからね!!」
颯爽に俺、登場!!
「シノブ!!? シノブか!!?」
「ビスマルクさん、説明は後!! エリアリの相手は僕がするから!! 砲台みたいなゴーレムをお願い!!」
「アリエリね、私」
「知らんがな!!」
俺は体に淡い光を纏っている。すでに神々の手として能力を発動していた。本来なら最後の手段として使いたくないんだけどな。今の状況を打破する方法が見付からんから仕方ねぇ。
俺は飛行魔法でアリエリとの間合いを一気に詰める。
そしてズドンッとボディブロー。
ビスマルクの一撃を受けて無事なんだから死ぬ事はないだろ!!
吹き飛びやが……れ?
「あなたも凄いね。こんなのね、初めて。痛いもの」
アリエリは腹にめり込んだ俺の腕を握る。そして俺の体をブン回す。視界もグルグルと回る。そしてそのまま海面に向けて投げ飛ばされた。
凄まじい勢いに海面はまるでコンクリートのよう。ドバンッと全身がバラバラになるような衝撃。
痛ぁぁぁぁっい、あの野郎、とんでもねぇな!!
俺は海中から魔法を放つ。
立ち上がる水飛沫と同時に無数の光の矢がアリエリに向けられるが、全てが片手で弾かれる。
しかし水飛沫と光の矢に紛れて、俺はアリエリの背後に。その背中に思い切り拳を振り下ろすが、アリエリがこちらに向き直る。そして俺の一撃を受け止める。
「ねぇ。邪魔しないで。えっと……シノブ?」
「逆に、僕の邪魔をしないでって言ったら聞いてくれる? えっと……アリクイ?」
「アリエリ」
「アリエリ。ここで退いてくれない?」
「それはね、出来ないの」
「そう。じゃあ、仕方無い」
俺には時間制限がある。本気で行かせてもらう。
アリエリと距離を取り、指先を向ける。俺の指先、背後、無数に現れる魔法陣。放たれる魔法。
詠唱も魔道書も必要としない無詠唱魔法。そして無詠唱魔法だからこそ出来る事。それは複数の魔法を同時に放つ事。
「こんな事って……」
アリエリは呟く。
そう、ありえない。無詠唱魔法を一つ使うだけで、普通の人は魔力が尽きてしまう。神々の手だから出来る事。
炎、氷、風、雷、あらゆる属性の魔法攻撃。圧倒的な手数でアリエリを釘付けにする。そして身動きを制限した上で……これでも喰らいやがれ!!
放たれた光線はアリエリを飲み込む。
「出来ればもう会いたくないんだけどね」
そして遥か遠く、水平線の向こうまでアリエリを吹き飛ばすように運んでいく。
……あの髪と瞳の色……やっぱり三つ首竜関連か……だとしたら絶対にまた会う事になるよなぁ……
俺は周りを見回す。
ビスマルクは砲台のゴーレムをスクラップに。
そしてアルタイルのスケルトンは残った海賊船の制圧。
よし、何とか終わったみたいだな。
★★★
海沿いの小さな町。
ここは治療院の一室。
「おいっす、来たでぇ~」
一瞬だけ、みんな『誰?』という表情。わざと飾り気の無い男装してるからな。
「……シーちゃん?」
「え? シノブ? ちょっとその髪どうしましたの?」
「何でシノブがここに?」
「まぁ、待ってよ。説明は後。ちょっとユリアン、足見せて」
ユリアンの左足の火傷は魔法により回復していた。しかし回復魔法は基本的に対象の治癒能力を高めるものである為、ケロイド状の火傷痕が残っている。
「少し皮膚が引き攣る感じがあるけど、そのうち慣れるだろうって」
「確かに酷いけどね」
俺は小瓶を取り出す。小瓶の中の白い粉を水で溶いて、っと。で、水飴みたいになったこれをユリアンの左足にベチャッ、ぬりぬり。
一瞬である。
火傷痕が完全に消えている。
「どう? 何か違和感ある?」
「えっ、ああ……」
ユリアンは少し動いてみるが……
「大丈夫そう?」
「大丈夫そう。全く違和感が無いけど、シノブ、それって……」
「ユニコーンの角の粉末」
「ユニコーン!!?」「ユニコーン!!?」
ビスマルクとユリアンの驚きの声が重なる。二人とも価値を知っているのだろう。
「ユニコーンの角に治癒能力がある事は知っていますけど、やっぱり高価なのかしら?」
価値を知らないリコリス。
「お前、ユニコーンの角の粉末と言えば一つまみで一生遊んで暮らせる程に高価だぞ」
と、ユリアン。
「い、一生? そ、そうですの?」
リコリスの言葉にビスマルクは頷く。
「そうだ。どんな病気も、どんな怪我も、死んでさえいなければ治せるという秘薬。金銭に糸目も付けずに欲しがる者は数多くいるだろう」
「持ってるだけで命を狙われちゃうから内緒ね、これ」
「ねぇ~シーちゃん、高価な薬をユー君に使ってくれてありがとうね~お金は一生掛けてちゃんと払うからぁ~」
「いいの、いいの、ヴイーヴルさんとユリアンにお願いがあったし」
リコリスは息をのむ。
「ユニコーンの角に匹敵するお願い……怖いわ、シノブが怖い……」
「ちょっと止めてくれる? 僕の印象が悪くなるから」
「それに『僕』って何よ?」
「髪切ったからイメチェン。伸びるまで僕っ娘でいこうと思って。で、話は戻すけど……アルタイル」
一室の中にアルタイルが入る。その肩にはベルベッティア。
「ユリアン。リコリスを庇ったのね。偉いわ。とっても素敵」
ベルベッティアはアルタイルの肩からユリアンの肩に移る。
「たまたまだよ」
「ふふっ、たまたまねぇ」
「ええ~と、そちらの方はどなたかしら~? シーちゃんのお知り合い~?」
アルタイルの異様な姿にもヴイーヴルは全く動じない。
「……私はアルタイル」
「アルタイルはユニコーンの角が必要無いのかしら~?」
「いや、ヴイーヴルさん。別にアルタイルは大怪我して包帯でグルグル巻きってわけじゃないから……」
「私もアルタイルとは少し前に面識があってだな」
ビスマルクが簡単にアルタイルの事を紹介する。
そしてその後、俺は大陸で起きている事態について、予想ではあるがみんなに説明するのであった。




