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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
崩壊編

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海賊船と海賊退治

 沖から少しずつ船が近付いて来る。

 船の両舷からは何十本もの櫂が備えられているのが見えた。それは人を動力とするガレー船。

 商船など長距離の航行には風力を利用する帆船が用いられる。対してガレー船は持続力で劣るが、帆船よりも突発的な事に対する運動能力が高い。


「本当に海賊なのか?」

「……はい……さっきまでは……」

 船内に乗り込むと……そこにはボッコボコにされたガラの悪い男達。

 ビスマルクの問いに海賊は悲しげな表情で答える。

 ヴイーヴルとユリアンにボコられて、言う事を聞かなければ出る所へ出ると脅され、海賊も引退させられた。

「脅してなんかいないわよ~更生よ、更生~」

 ニコニコとしながらヴイーヴルは言うのだった。


★★★


 そして半月後。

 海上にて、ビスマルク達は元海賊達を率いて海賊退治をしていた。

「やはり練度は向こうの方が上か」

 船の上でビスマルクは呟く。

 対する海賊船がこちらの船の横っ腹に突き進んで来る。その海賊船の船首に取り付けられるのは円錐状の金属。体当たり攻撃用の衝角である。

 回避が間に合わない。こちらも弓や魔法で対応するが、海戦では相手の方が数段も上手。

 このまま突っ込まれれば、破損した部分から海水が流れ込み船は沈没する。相手はそれを待てば良い。

 しかし、こちらには空を飛べるヴイーヴルとユリアンがいるのだ。

 衝突するよりも先。竜の翼ですぐさま相手の海賊船に乗り込み、二人はその剣を振るう。この程度の相手での白兵戦で負ける事は無い。

「テメェから乗り込んで来るとは良い度胸じゃ、ぐわぁぁぁぁぁっ!!」

 殺さないように二人とも剣に鞘を被せているが……ヴイーヴルの大剣、クレイモアは鞘があっても人を殺せる、もう鈍器。ブン殴られ、海賊は一瞬で昏倒する。

「みなさ~ん、抵抗しないで大人しく捕まってくれれば怪我しないで済みますから~」

「うるせぇ!! この野ろ、うがぁぁぁぁぁっ!!」

「海賊を引退して下さい~みなさん迷惑しているんですよ~」

「誰がお前らの言う事なんか聞、ぎゃぁぁぁぁっ!!」

「母さん、いつも通りだろ。言うだけ無駄なんだよ」

「でも~」

「そうですわ。こういう輩は少し痛い目を見ないと」

 相手の混乱の中、船を近付け乗り込むのはリコリス。

 海賊達が振り回す武器、放たれる矢、全てを紙一重で避けて、その拳を相手に打ち込む。ただの一撃で相手は悶絶、動けない。

 たった三人で相手の海賊を制圧。

 本来、略奪行為を行う海賊を取り締まるのは各国の軍等であるが、半月経った今でも対応が出来ていないらしい。


「ビ、ビスマルク提督、囲まれているようでさぁ!!」

 それは元海賊、今は部下。その一人。

「だから提督になったつもりは無いぞ。それより囲まれているんだな?」

「へいっ!! 見張り台からの報告ですが、水平線の向こうに何隻もの海賊旗が見えまっさ!!」

「ユリアン、確認を頼む」

「ああ、分かった」

 ユリアンが見張り台よりさらに上、空へと飛び立つ。そして戻ったユリアンの報告は……

「確かに海賊旗みたいだった。でも旗の模様が全部違うみたいなんだけど」

「つまり複数の海賊団が集まったという事だな」

「海賊って略奪集団だろ? お互いに協力するような関係では無いと思うんだけど。それってつまりさ……」

 言い掛けるユリアンをリコリスが遮る。

「どうでもいいですわ。いつも通りに叩き潰すのみよ」

「じゃあ、先手必勝って事で行ってこようかしら~」

「二人とも本気で言ってんのか?」

「ど、どういう事ですの?」

「海賊同士が協力しているのは単独でこっちに勝てないからだろ? 違う言い方をすれば、こっちの戦力を知った上での判断なんだよ。そして勝機があるから行動に移した。そんな相手と正面から戦うのは危険だろ」

「あらあら、ユー君ってば、そこまで色々と考えて~お母さんの知らない間にも成長しているのね~」

「リコリスと母さんが馬鹿なんだよ」

「馬鹿!!?」

「あらやだ、反抗期~」

「まぁ、そういう事だな。今すぐこの海域から離脱するぞ!!」

 比較的に早く気付く事が出来た。これなら完全に囲まれる前に離脱が出来るはず……そう思っていたのだが……


 ドズンッ


 衝撃と共に船が大きく揺れる。

 海面が大きくうねり、水飛沫と共にそれが姿を現した。

 大海蛇、シーサーペントと呼ばれる海の魔物。

 巨大なものになれば、その体長は船の船首から船尾まで届く程に巨大だと言われるが、このシーサーペントは……

「で、デカ過ぎだぁ……」

 部下はそう呟いた。

 海面から立ち上げたその胴体はそれだけでこの船と同等の大きさがある。さらに海の中ではその長い体がクネクネと揺れていた。

 そして巨大な胴体が船に向かって倒れ込んだ。

 ベキベキベキッ、と甲板の拉げる音。巨体が船を真っ二つに砕き壊す。

 ビスマルク達は間一髪で直撃を避けるが、何人もの部下が海へと投げ出された。

「ヴイーヴル、ユリアン、二人は救助を頼む!! リコリス、お前は私と共にシーサーペントの相手をするぞ!!」

 ビスマルクは声を張り上げた。

 空を飛べ、機動性に優れている為に救助はヴイーヴルとユリアンの二人に任せる。

「パパ。シーサーペントの弱点なんて分かる?」

「寒さに弱いとは聞くがな」

 残念ながら、この船には魔法を使える者が少ない。その少ない一部も海に投げ出されてしまっていた。

「仕方ありませんわね。殴り倒すしかないのなら」

 リコリスは跳ねた。

 その動きは常人では捉えられない程の速さ。そして驚異的な跳躍力で一気にシーサーペントに接近すると、その巨体に拳を打ち込んだ。海賊相手に手加減をしていた一撃ではない。

 重く響く打撃音。

 シーサーペントの巨体が弾き飛ばされる本気の一撃。

 威力はガララントと戦った時とは比較にならない程に強力な一発だった。

 そのリコリスを叩き落とそうとシーサーペントの巨大な尾が振るわれるが、それを叩き返すのはビスマルク。上手くリコリスのサポートへと回る。

「ハアァァァァァッ!!」

 さらにリコリスの突きと蹴り、凄まじい連打がシーサーペンとの巨体を打つ。

 その様子を確認しながら、救助を続けるユリアンは呟く。

「馬鹿なんだけど、リコリスはやっぱり凄いな」

 そのユリアンの視界の端で何かが光る。一瞬だけ、日の光が反射したような……次の瞬間だった。背筋をゾクッと震わせる。竜の鋭い本能で感じる危険。

 考えるより先にユリアンは反応していた。

「リコリス!!」

 リコリスに向かって飛び付き、その体を抱えた。

「ユリアン!!?」

 何が起こったのか分からないリコリス。

 その二人の体を掠めるように光の柱が横切った。

 それは光のように輝く高温の熱線。遥か遠くから放たれた魔法のような攻撃。

 直撃を受けたシーサーペントの胴体は焼け溶けたように切断され、残った胴体が海の中へと沈み落ちていく。

 何だ、今の攻撃は……

 ビスマルクは攻撃が放たれた方向を睨み付ける。超遠距離からの攻撃、そしてその威力、そんな強力な魔法を使う者が海賊に協力しているのか?

 しかも同一人物かは分からないが、シーサーペントを操っている者もいたはずだ。どう考えてもありえない……

「ユリアン!! ユリアン!! しっかりなさい!! わたくしを置いて死ぬなんて許さないわ!!」

「死ぬ程じゃないし、痛いから揺らすな。それよりお前は大丈夫だったのか?」

「ええ、ユリアンが守ってくれたから……」

 リコリスに抱かれ横たわるユリアン。

 そこへヴイーヴル。

「ユー君!! 大丈夫なの!!? 死んだら駄目よ!!」

「だから死ぬ程じゃないって。二人とも大袈裟過ぎる」

 そのユリアンの左足……掠めただけだが、服は燃え尽き、皮膚は重度の火傷で爛れていた。相当の激痛があるはずだったが、ユリアンは呆れたように笑う。

 ヴイーヴルは大剣を強く握り締めた。

「これはきつめのお仕置きをしてあげないとね~」

「駄目だ」

 と、ビスマルク。

「でも~ユー君がぁ~」

「ユリアン。リコリスの事、感謝する。ありがとう。ヴイーヴル。気持ちは分かる。しかし余裕が無い。今は黙って従ってくれ」

「でもでも~」

「母さん。ビスマルクの言う事をきちんと聞くように」

「うう~ユー君がそう言うなら~」

 ビスマルクは水平線の向こうへと視線を向けた。小さく海賊船が見える。あの長遠距離攻撃、精度はあまり高くないとビスマルクは予想する。精度が高いのならば直接こちらの船を狙えば良かったのだから。

 シーサーペントはこちらの船の場所を示す、ただの巨大な目印だったのかも知れない。

「でもパパ、これからどうしたら……」

 リコリスは周囲を見回す。

 海に投げ出された部下達は船の破損した木材に掴まり、溺れる事は無いだろうが泳いで逃げ切れるわけがない。この船も少しずつ沈んでいく。

「ヴイーヴル。ユリアンとリコリスを連れてこの場から離れろ。二人だけなら連れても飛べるな?」

「それは大丈夫だけど~逃げろって事なの~?」

「パパとみんなを置いて逃げるなんて出来るわけないでしょう?」

「リコリス、助けを呼びに行ける者が必要なんだ。この中ではヴイーヴルなのは分かるな。それとユリアンは少しでも早く火傷の治療が必要なのも分かるだろう?」

 部下の中には回復魔法を使える者もいるが、海に投げ出され、現時点で所在が分からない。

「わたくしは?」

「お前は強い。ここで無抵抗に捕まるのは惜しい戦力だ」

「ビスマルク、それって……」

「ああ、私はここに残る。降伏するにしても責任者が必要だからな」

「ダメよ!! そんな事は出来ないわ!!」

「ここで全員が捕まれば誰も助からない。だがお前達が逃げ切れれば助かる可能性もある。どうするべきか分かるな?」

「分かるけど嫌よ!!」

「リコリスちゃん……」

「……分かった。絶対に助けに戻るから」

「ユリアン!!」

「少しでも早く逃げ切れれば、少しでも早く助けに戻れる。このままここにいたら助かるものも助からなくなる。そうだろ」

「で、でも……」

「その通りだ。頼むぞ、三人とも」

 そう言ってビスマルクは笑うのだった。

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