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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
崩壊編

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バッサリと斬り落とし

 頬に感じる硬い感触で目が覚める。

 俺は一体……痛っ……体中が……イタタタタッ!!

 石畳の上に転がされていた。

 軋む体を強引に起こすと、目の前には鉄格子。これ……牢屋じゃん。俺、牢屋にブチ込まれてんじゃん。

「誰か……誰かいませんか?」

 返事は無い。

 どうなるんだろ、俺……

 町での扱いを考えると、このまま処刑とかされちゃったりして……

「……ちょっとぉ!! すいませぇ~~~ん!! 無実の罪で投獄された美少女がここに居ますよぉ~!!」

「は~い、ベルちゃんです!! シノブちゃんは思ったより余裕あるみたいね」

「ベルちゃん!! 来てくれたの?」

「当たり前でしょ。ベルちゃんは幸せな結末の物語が大好きなのでっす。こんな所で獄中死なんて悲劇でしょう? でも遅くなってごめんね……こんな乱暴をされちゃって……」

「ありがとう。助けに来てくれただけで嬉しいよ。でもどうやってここに?」

「だから猫は忍び込むのが得意なの。ついでに拝借もしてきたんだから。にゃんっ」

 牢屋に姿を現したのは黒猫、ベルベッティアだった。

 そして二股に分かれた二本の尻尾。片方に牢屋の鍵、もう片方には刃幅の狭い小さな短剣、尻尾を巻き付けるようにして持っていた。

「鍵は分かるけど、これは?」

「護身用」

「使う事態にならなければ良いんだけどね」

 俺は短剣をスカートの中に隠し持つ。もちろんパンツの紐に引っ掛けてな。

 そして牢屋の外へ。

 動く度に体中がギシギシ痛むが、そんな事を気にしている場合じゃない。

「ベルちゃん。誰にも見付からないように先行して誘導出来る?」

「もちろん、そのつもりで事前に調べておいたから」

 石造りの薄暗い通路に掲げられた松明。所々に取り付けられた小窓から夜空が見えた。逃げ出すにはうってつけの時間帯だ。

 ベルベッティアが人の少ない通路へと誘導する。時たま巡回する衛兵は息を殺してやり過ごす。ドキドキするわ。

 そうして建物の出入口まで来れたのは良いとしても……

 出入口はあの一つ。その前に二人の衛兵が立つ。ここまで来たら強引に突破するしかないんだが、問題はその方法だ。

「ベルちゃんがあの二人の気を引くから、シノブちゃんはその間に逃げるの。ここを抜けたらすぐに路地へ入ってね。複雑に入り組んでいたから簡単には見付からないと思うよ」

「でも気を引くって、どうやって?」

「いいから、いいから、任せて。ベルちゃんは大丈夫だから、シノブちゃんは絶対に足を止めない。絶対にだよ」

 そう言ってベルベッティアは衛兵に向けて駆け出した。そして……フシャー!!と威嚇の声を上げつつ、衛兵へと飛び掛かる。

 そして衛兵の顔へ精一杯に爪を掻き立てる。

「うわっ、な、何だ、ヌコか!!?」

「コイツ、どこから入った!!?」

 ベルベッティアには、きっと何か策があるはず。俺はその言葉を信じて駆け出した。

 衛兵がベルベッティアに気を取られた一瞬の隙。

「おいっ!!」

 衛兵が俺の姿を視界に捉えた瞬間、すでにその目の前を通り過ぎていた。

 さらに激しく暴れるベルベッティア。

 後はこのまま逃げ切れば……

「邪魔だ!!」

「ギャンッ」

 それは衛兵の声と、ベルベッティアの悲鳴。

 反射的に振り返る。そこで見たのは剣を振り抜いた衛兵の姿と、斬り飛ばされたベルベッティアだった。

 このまま俺だけ逃げろって事か?

 ……いやいやいや、無理に決まってんだろ!!

 踵を返して倒れるベルベッティアに駆け寄るが、その体を抱き上げる前に捕まる。髪の毛を鷲掴みにされた。そして足が浮くかのように引っ張り上げられる。

「離せ!! 離せっつてんだろ!!」

「お前、どうやって牢を開けた!!?」

「おいっ、ベルちゃん!! ベルちゃん!!」

 ベルベッティアは頭を少しだけ上げて、こちらに視線を向けた。まだ生きている。そして息も絶え絶えに呟く。

「もう……何で……戻って来ちゃうかなぁ……」

「このヌコ、人の言葉を喋ったぞ!!?」

「ベルちゃん!! 離せこの野郎!!」

「暴れるな!!」

 俺はスカートの中に手を入れて、短剣を抜いた。そして……衛兵の腕を斬り落とす……勇気は無くて……


 ザクッ

 その短剣で、衛兵に掴まれた自分の髪の毛をバッサリと斬り落とした。


 呆気に取られる衛兵。俺はその股間を思い切り蹴り上げる。いくら俺が非力でも股間をこの勢いで蹴られたらすぐには動けないだろう。衛兵は呻き、股間を押さえてうずくまる。

 ベルベッティアを抱き上げ、もう一人の衛兵に向けて短剣を投げ付ける。

 一瞬だけでも良い。少しでも相手の動きを遅らせる事が出来るなら。

 衛兵が短剣を弾き飛ばす。俺はすでに駆け出している。相手も追って来るが、すんでのところで路地に飛び込んだ。そこからはメチャクチャ、闇夜に紛れて路地を右へ左へ右へ左へ。

 やがて衛兵の気配も消える。

 どうやら逃げ切れたみたいだけど……

「ベルちゃん……」

 腕の中のベルベッティアは……背中から脇腹、そして腹部に掛けてザックリとした傷が……発光していた。

 んん?

 致命傷ではあると思うが……

 ザックリと斬られた傷口、幾つもの小さな星が瞬くように輝いていた。これは……ベルベッティアの能力なのかも知れない。

 俺はその体を抱えたまま、山の中へ再び戻り、姿を隠すのである。


★★★


「ちょっと、どういう事なの? 何で生きてんの?」

「それがベルちゃんの能力だから。ベルちゃんはね、攻撃に適した能力は持たないけど、絶対に死なない。比喩じゃなくて、言葉通りの不死身なの」

 ベルベッティアはピンピンと生きていた。

 傷口は塞がり、傷跡すら残らない。

「そういう事だったら先に説明してくれれば良かったのに」

「説明したとして、その言葉を信じた?」

「信じないけど……でも私が死にそうなベルちゃんを残して逃げられると思う?」

「……そう、うん、そうだね……ベルちゃんはまだシノブちゃんをきちんと理解していなかったみたい」

「当然じゃん。まだ出会ってそんな時間が経ってないんだから」

 ベルベッティアが俺を見詰める。

「……せっかくの綺麗な髪だったのに」

「うん、まぁ~人に向かって短剣を振り回す度胸は無かったよ」

「ベルちゃんのせいだね」

「ああっ、気にしないで。短い髪型も試してみたかったんだよ。でも長くなり過ぎてなかなか切る勇気が無くてね。ちょっと良い機会だったと思ってる」

 まぁ、自分でバッサリとやっただけだから、後でちゃんと整えてもらおう。きっとショートカットも可愛いぜ!! そして頭が軽い!!

 小さく笑うベルベッティア。

「何? どうかした?」

「本当にシノブちゃんは前向き」

「一回死んでるしね。今度の人生は前向きにやりたい放題に生きるのさ!!」

 俺とベルベッティアは顔を見合わせて笑うのである。


 さて、とりあえず現状確認。

 俺は自分にあった事をベルベッティアに説明する。その上でベルベッティアに意見を求める。

「ジグソーパズル」

「ジグソーパズル?」

「うん。シノブちゃんの見た砂漠、そしてあの町」

 逃げ出したあの町は、王都を挟んでエルフの町の反対側。

 あの地域は人間至上主義が多い。エルフや獣人は虐げられ、アリア様も裏切りの女神として忌諱される。

 そして地平線の向こうまで広がる砂漠も、この大陸では一ヶ所しか無く、それも隣国の領地だ。

「つまり……大陸を分割して、別の形にして作り変えたって事?」

「現状はそうなると思うの」

「でも細か過ぎる程に分割されたわけじゃないみたいね。ある程度の広さがあるんなら、みんな一緒にいるのかな……でも何でここにベルちゃんがいるの?」

 ベルベッティアがここにいるのなら、エルフの町も近くにあるはずなんだが。

「それはね……ベルちゃんも竜の山にいたから……」

「何で?」

「……シノブちゃんを探して」

「何で?」

「……シノブちゃんとアバンセちゃん、二人のエッチを覗き見したくて。きゃぴっ」

「正直過ぎるわ!! それにしないよ!!」

 きゃぴっ、じゃないよ、全く。俺はベルベッティアの頭をペチッと叩く。

 ベルベッティアは俺を探して竜の山を探索していたらしい。そして空を飛ぶ俺を見付けて追い掛け、あの町で再会出来たのである。

「ベルちゃんは今回の事に何か心当たりはある?」

「んー無い……けど無いからこそある」

「ちょっと、ちゃんと説明してよ」

「まずね、大陸を分割して別の形にするなんて不可能。消えたアバンセちゃんにしても、あの竜をどうにかしようなんて無理だと思うの。つまりね『ありえない』の。でもね『ありえない』存在はいる。それはシノブちゃん」

「ほぉう」

「もう一人、魔法を生み出したララ・クグッチオ。そして……アイザック」

「神々の手……だよね?」

「うん。別の世界から来た転生者。『ありえない事』が起っているなら『ありえない者』が関係している。そうなんじゃないかな?」

 昔、アバンセが言っていた言葉を思い出す。


『私の他に神々の手って何人かいるの?』

『俺の知る限り、シノブの他、世界に二人だけだ。その能力の強力さから、神々の手はいつも世界の変動の中心にいる』

 それを聞いた時に『ちょっと止めて、なんか変なフラグが立ちそうだから!!』と思った。

 まさかここに来て……フラグ回収なのか?


「もしそのアイザックが関係しているとして、その目的とか分かる?」

「『ありえない』から連想しただけだもの。全く分からないよ」

「アイザックの居場所は?」

 ベルベッティアは首を横に振る。

 ふむ。現時点では何も分からないのと同じか。

 ……

 …………

 ………………

「……三つ首竜だ……あの三バカ頭」

「ポキール、ピンサノテープ、イスウ?」

「そうだよ。ベルちゃんはアバンセ達が大陸の安定に貢献しているのは知ってる?」

「もちろんよ。竜脈ね」

「例えば今回の大陸分割はアバンセ達がいたら出来なかったんじゃないの? つまり竜脈の停止とか破壊とか。竜脈関係だと二年前にね、あの三バカ頭が……」

 俺は二年前の出来事を話す。竜脈の淀みがあった事、そして町が三つ首竜のゴーレムに襲われていた事。あの時はハッキリしない目的でうやむやになってしまった……サンドンが後で調べるとか言ってたし……

 とにかく無関係とは思えん。

 そうなると当面の目標は三バカ竜をシバき上げる事。そして同じく神々の手、ララとアイザックを見付け出す事。

 とは言え、俺一人では心許無い……集めるか……仲間を!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 一応は元いた現代が舞台なのか。しかし女の子で牢獄に乱暴と言うワードで、そんな事が無かったのに別の事が脳裏によぎる(それはそれで別腹・・・イカン危ない)。 パンツの紐で持てる短剣・・・ん?ナ…
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