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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
陰謀編

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ハッキリしない目的ととんでもないニュース

 あの時と同じ、異形のゴーレム。

 人や獣に似ているが、その体躯は一回りも二回りも巨躯。そして頭の数、腕の数、足の数、バラバラで統一性が無い。バラバラにされた部位をただただ繋ぎ合わせただけの怪物。

 それが人を襲い、町を破壊している。

 そしてあの時とは違い、リアーナがいない。

 不安もあるが……

「ヴォル。行くよ」

「シノブ。振り落とされないようにしっかり掴まれ」

「おうっ!!」


 母親に手を引かれる少女。必死な母親の歩幅は少女に合わなかった。

 躓き、転ぶ少女。

 母子の手が離れてしまう。

 その少女の真上に大きな影が重なった。

 母親の悲鳴。

 影は人型のゴーレムだった。鋭い鉤爪の付いた太い腕、それが少女へと振り下ろされた。

 少女は顔を伏せ、瞳を閉じた。この一瞬の後に自分は死ぬ。幼いながら少女はそう思ったのだ。


 ガギンッ

 金属の鈍い音。


 ……少女はゆっくり顔を上げるとそこには……

「大丈夫だった?」

 はい、俺でしたぁ~!!

 間一髪。

 襲おうとしていた人型ゴーレム。ヴォルフラムの突撃でその上半身は砕け飛んだ。

 少女を母親が抱き締める。

「あっちの道のゴーレムは片付けましたから、あっち方向に逃げて下さい。他の人にも出来るだけそう伝えて、誘導しているメイドがいたら、その人に従って下さいね」

 母親が何度も頭を下げた。

 そして少女は小さく呟く。

「……女神様……?」

 俺はニコッと微笑む。

 語らずがカッコ良いんだよ!!と自分に酔っております。


★★★


 ゴーレムをブッ壊す。

 逃げ惑う住人を誘導する。

 小さな町とは言え、さすがにヴォルフラム一人ではキツイか。

 三つ首竜がいる可能性を考慮すれば、出来れば使いたくない能力だけど……

「……ヴォル。降ろして」

「使うのか?」

「このままじゃ取り返しがつかなくなるかも。私が力尽きたら後はお願いね」

「分かった。安心しろ」

 ヴォルフラムの背中から降りる。

 ……久しぶりだ、この感覚。体の中の魔力に火が灯る。燃える魔力は体から溢れだし、淡い光を放ちながら体を包む。

 俺は周囲に魔力の波を放つ。それは探索魔法。町も、その外側の山脈までも、そして上空にも魔力を放つ。

 本来、探索魔法は生物の有無を確認する魔法ではあるが、ゴーレムはただの無機物ではなく、そこには魔力が込められている。その魔力に俺の魔力が反応する事により探索を可能としていた。

 ヴォルフラムはもちろん、アバンセやキオ、フレアとホーリー、そしてミツバ、みんなの位置が手に取るように分かる。そして無数のゴレームと町の住人達、常人には耐えられない大量の情報量。その全てを処理する。

 そして町の中を駆けた。


 細い俺の腕がゴーレムの胴体に突き刺さる。そのまま腕をブン回すとゴーレムは人形のように投げ飛ばされ、そのまま動かなくなる。

 そんな俺に別のゴーレムが襲い掛かるが、今度は廻し蹴り一発で粉砕。

 さらに周囲のゴーレムへと魔法を放つ。放たれた光の矢は直線ではなく追撃するように敵を追い、そして貫いた。

 全ては一瞬。

「早く立って逃げて!!」

 襲われていた人達に向けて叫ぶ。そして叫びつつ、再び光の矢を発射。光の矢は住人を避けて、ゴーレムだけをスクラップにするのだ。

 そしてまた駆ける。

 町中のゴーレムを破壊していく。

「ありがとう、助かった!!」

「誰だ、アイツは?」

「凄い……あんな簡単に……」

「おい、あまり近付くなよ、もしかしたら敵の仲間かも……」

「そうだな、あの髪と目……裏切りの女神そっくりだ」

「きれい」

「助けて!! 向こうにお母さんがいるの!!」

「ありがとうございます……本当にもう駄目かと……」

「もっと早く助けに来いよ!!」

「凄ぇ!! 一発だぞ!! 粉々じゃん!!」

 住民の声は耳に入るが、反応する程に余裕は無い。俺の能力が続くうちに少しでも多くのゴーレムを破壊しないと!!

「あのお姉ちゃん、パンツ見えてる」

 スカートで、それを気にする余裕まで無ぇんだよ!!

 肉弾戦をしつつ、探索魔法を展開。

 三つ首竜と思える反応も無い。

 町の中にも、上空にも、町の周囲にも、すでに数えられる程度のゴーレムしか残っていない。これなら後はみんなに任せても大丈夫。

 ちょうどそこにヴォルフラム。俺の跡をずっと追っていたのだろう。

「ヴォル、丁度良いトコに」

「そろそろ?」

「うん」

 ヴォルフラムは周囲を見回した。至る所にゴーレムの残骸。

「しかし相変わらず、シノブは凄い」

「見直した?」

「今更別に見直さない。昔から凄いのは知っている」

「そっか」

 俺の体からフッと光が消える。

 ここまでだ。

 俺はヴォルフラムに寄り掛かる。

「ちょっと疲れた」

「お疲れ様。後は俺達に任せろ」


 それからホーリー、少し遅れてキオ、フレア、ミツバ、そしてアバンセが合流するのだった。


「シノブ様、お怪我はございませんか?」

「もちろん。みんなは大丈夫だった?」

 全員かすり傷程度で済んだらしい。そのかすり傷もホーリーの回復魔法で傷跡すら残らないわけだが。

「それにしても凄ぇっす。このゴーレム全部、姐さんですもんね? 戦ってる姿を見たかった……」

「実際に私が戦う姿って、ミツバさんはまだ見た事が無いんだっけ」

「そうっす」

「わ、私は少しカトブレパスの瞳で見えましたけど、あの、ほ、本当に凄かったです、はい」

「そうだろう? シノブの力はこのアバンセと同等なんだぞ」

「何でアバンセが偉そうなの?」

 全員が無事なのは良かったけど……どうすんだ、これ……

 破壊された町。

 竜脈の淀みの原因。それに関する情報をここで集めようと思ったが、そんな状況じゃない。かと言って、この場から離れるわけにもいかないし。

 とりあえず近場で野営して、何日か様子を見るか。その為の準備も一応はしてあるからな。


★★★


「竜脈の淀み。パルはそういうの感じない?」

 呼び出していたパルも合流。

「あんまり考えた事も無ぇな」

「そうなの? だって竜脈ってこの大陸の安定に大切なんでしょ?」

「シノブ。逆なんだ」

「逆?」

 アバンセは続ける。

「竜脈の安定の為に俺達がいるのではない。俺達がいた所から竜脈が生まれたんだ。結果として大陸の安定に寄与しているが、そうしようと思っているわけではない」

「いや、俺はアバンセとは違うぜ。シノブの為にも大陸の安定は大事だ」

「おい、パル。裏切り者。お前もさっき『考えた事も無い』って言っていただろう?」

 小さいアバンセと小さいパルがいがみ合う。それは横に置いといて。

「みんなは今回の事をどう思う?」

「頭使うの苦手なんで」

 ミツバ、早々に離脱。

 しかし普段はあまり喋らないフレアが言う。

「シノブ様。町の周囲に配置されたゴーレムですが、場所に合っていないと感じました」

「そういえばそうっすね。森の中なんで小回りが利くゴーレムの方が合っていると思うんすけど、殆ど大砲みたいな奴でした」

「遠距離攻撃用って感じの奴ね」

 俺の言葉にフレアは頷く。

 そして今度はホーリーが言う。

「地形的に考えるなら空を狙っているものと思います。もしそうなら大量の飛竜も空からの接近を意識したものでしょう。しかし……」

 わざわざ平地の森の中に配置したんだから、確かに対空を意識したものだろう。だから続ける言葉も予想が付く。

「三つ首竜が空を警戒していたのなら、その相手は同じ竜であるアバンセ様やパル様でしょう。町を襲う理由、それは竜と対する事になっても必要であった……そういう事になります」

「キオはどう?」

「えっ、あ、あの、わ、私は……やっぱり三つ首竜がいない事が気になります……」

「アバンセやパルと戦う事になっても、この町の攻撃は必要だった。でも三つ首竜自身はいない。つまり三つ首竜にはもっと重要な目的がある……そうなるんだけど?」

 俺の言葉にみんな黙ってしまう。

 情報が少ない。分からん。

 とんでもない大事件の可能性もある、しかし……

「あの三つ首の馬鹿竜だからな、ただの暇潰しの可能性もあるよな? 前にアバンセがボコッただろ。嫌がらせって事もあるんじゃねぇか?」

 パルは言う。

「その時にパルはシノブにボコられている」

「おい、ヴォル公、余計な事は言うんじゃねぇよ」

 俺達は笑った。


 それから数日。

 辺りを調べたりもしてみたが、何も発見は無かった。あれから三つ首竜はもちろん、ゴーレムも現れない。

 三つ首竜のハッキリしない目的。

 全くの手詰まりである。


★★★


 帰って、サンドンに報告しまして。

 サンドンが言うには、竜脈の淀みはもう解消されているらしい。三つ首竜の目的は分からないが、後でサンドン自身が確認に出向くらしい。

 現状では気に掛ける事くらいしか出来ない。


 そしてそれから数日後。

 ウッソだろ……それはそれはとんでもないニュースが……


 スヴァル海商、副代表のジャンスが新たな商会を設立した。

 モア商会と共に。


 そうか……オウラーはやっぱり無実かぁ……

 ジャンスにとってスヴァル海商の名前なんてどうでもよかったんだ。オウラーを失脚させ、優秀な人材を引き抜ければ。

 ジャンス自身はスヴァル海商の販路を確保しつつ新たな商会の代表となる。

 モア商会はスヴァル海商の販路を利用する事が出来る。

 両者の利害が一致したワケだ。それが今回のシナリオ。

 そしてそのシナリオの中に俺の暗殺が組み込まれているなら、それは利点の無いジャンス側ではなくモア商会の意思だ。

 全部、繋がったわ。


 もちろん全容の想像が俺にも出来るんだから、それはお母さんも一緒。考え着いたのは同じ事。

 その時のお母さんの顔はね……鬼だね、鬼、怒髪天を突く鬼そのものよ。怒りが全身から噴き出して、背景まで陽炎のように揺れておるわ。


「……お母さん?」

「……シノブ、行くよ」

「行くよ……って、どこ? どこ行くの?」

「モア商会」

「モア商会? モア商会に行くの?」

「そうね。殴り込みよ」

「殴り込み!!?」

「殴り込み」

「モア商会に殴り込みに行くの!!?」

「話をしっかりしないとね。これからの為にも」


 そして……いざ、モア商会へ!!

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