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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
お仕事頑張るぞ編

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野良ユニコーンと治癒能力

 肩口辺りまでの黒い髪、白に近い青色の瞳。年齢は俺達よりも上、二十代前半くらいか。落ち着いた雰囲気の綺麗なお姉さんという感じ。

 そして……メイドだ。

 俺は元オタク。メイド服についてそこそこの知識を持つ。それはクラシカルな英国風メイド服。

 シンプルな濃紺のロングワンピース。フリルの付いた白いエプロンドレス。同じく白いフリルの付いたカチューシャ。間違いなくメイドじゃ!!

 キオは小さく俺に耳打ちをする。

 本当に便利な能力だな。

 俺は言う。

「こっちも敵意は無いですけど……もう一人いますよね?」

「……そうですね。申し訳ありません」

 彼女が頭を下げると、木の上からもう一人メイドが飛び降り、その横に並ぶ。

 やはり肩口辺りまで伸びる黒い髪。明るいオレンジ色の瞳。年齢はやっぱり二十代前半か。温和な雰囲気の綺麗なお姉さんという感じ。

「フレア・ファイファーと申します」

 今、木の上から飛び降りて来たのがフレア。そして。

「私は妹のホーリー・ファイファーと申します」

 最初に姿を見せたのがホーリー。

 二人とも種族は俺と同じ。そして姉妹らしく顔付きも似ている。

「私はシノブ。こっちはキオ。私達はユニコーンを探してやって来ました。この辺りで見たという噂が」

 俺の言葉を遮るように、森の中からユニコーンが飛び出す。

「これは処女の匂い!!」

 そして俺達を見付けて……

「むむっ、歳はまだ若そうだが、二人ともかわいいではないか。よし、お前達、股を開けぇい!!」

 処女が近くにいると簡単に姿を現しやがる……隠匿能力の高いユニコーンを見たという噂があるのは、そういうワケだったか。

「クテシアス様、そう簡単に姿を現しては困ります」

 ホーリーはそう言い、フレアは温和な表情のままユニコーンの首にグリグリと拳をねじ込む。

「痛い、痛い、フレア、止めなさい、コラッ」

 はぁーこれがユニコーンか。何か印象と違うなぁ。


★★★


 野良ユニコーンのクテシアス。そしてクテシアスに仕えるメイドがフレアとホーリー。

「処女が!! 処女がいるんだ!! 離せ!! 離せぇー!! せめて近くで処女の匂いを嗅がせろ!!」

 遠くで喚くクテシアス、その首を絞めるフレア。

 話をするのはホーリーと。

「クテシアス様をお探しとの事ですが、どのようなご用件でしょうか?」

「はい。実はこの子の傷跡を治して欲しくて。キオ」

 キオはカトブレパスの瞳を隠すように左目を閉じ、右目の髪を掻き上げる。

 酷い傷跡。

「……お力になれずに申し訳ありません」

「不躾だと思いますが、お金なら用意が出来ます。私に出来る事なら何でもしますので、お願い出来ないでしょうか?」

「……シノブさん……」

「そうではありません。ユニコーンの治癒能力について少し誤解があるのです」

 ホーリーの言う、治癒能力。

 それはユニコーンの死後に発現する能力だった。

 ユニコーンは死後、力を角に残す。その角が治癒の力を持つのだ。生前のユニコーンにも、角にも治癒能力は宿っていない。

「そうですか……仕方無いです。残念だったね、キオ」

「い、いえ、アバンセさんの背中に乗れたので、良い休日になりました」

「殺して奪おうとは思いませんか?」

「怖い。その発想が怖いわぁ」

「申し訳ありません。ですが、ユニコーンの角は莫大な財を生み出すので、狙われても不思議は無いのです」

「そんな事をする気はありませんから。この場所の事も誰にも言うつもりは無いので」

「ありがとうございます。助かります」

 そんな事をホーリーと話していると、遠くからクテシアスが言う。

「角やるよ!! どうせ、こっちはもうすぐ死ぬからな!! その代わり……」

 近付きながらクテシアスは言う。

 対価を求めると言うのか……処女を好むユニコーンが求めるのは……

「シ、シノブさん……もう、いいですから……あの……だから帰りましょう……」

 キオにも分かったのだろう……求めるのは俺かキオ、もしくは二人の処女。

「さすがに最初がユニコーンじゃねぇ……」

「ちょっと待て、お前達、何か勘違いしていないか? 私は処女が好きなだけで、処女との性交を求めているわけではないぞ? 実際にフレアもホーリーもまだ処女だしな」

「そうなんですか?」

 フレアは温和な表情のまま否定をしない。

「その通りです。クテシアス様は処女を性的にからかうのが好きな変態ですが、性交までは求めません。私もまだそのような経験はありませんので安心して下さい」

「変態……仕える主に対して何て言い草」

「その変態は代わりに何を求めるのでしょうか?」

「シノブだったか。お前もなかなか良い性格しているな」

「よく言われます。でももうすぐ死ぬって本当ですか? まだまだ元気に見えるんですけど」

「これでも神獣と言われる部類の私だからな。自分の命の終わりくらい分かる。ただその前にだな、この二人を信頼出来る者に預けたい。それを探す旅でもあるのだ」

「……」

 フレアは微笑んだままだが、その表情に寂しさの感情が混ざる。

 そしてホーリーはクテシアスに対して言う。

「そこまでして頂かなくても結構です。ですからそんな寂しい事を言わないで下さい」

「お前達、野良メイドになるつもりか?」

「……」

「私も姉も、クテシアス様以外の方に仕える気はありません。野良メイド、それも良いと思います」

 これは俺やキオが立ち入る問題じゃない。そして寿命というなら出来る事も無い。

 俺もキオもその場から離れるのであった。


★★★


「おかえり、シノブ、キオ。ユニコーンには会えた?」

 俺はヴォルの頭を撫でる。

「会えたけど駄目だった」

 そしてあった事を話す。


「そうか。ユニコーンの治癒能力はそういう事だったのか。俺には縁の無い存在だったから、そこまでは分からなかった」

 まぁ、アバンセには治癒能力なんて必要ないよなぁ。

「アバンセの血を大量にブッ掛けたら治らない?」

 確かアバンセの血も回復薬になるはず。それで昔、お父さんも助かったわけだし。

「残念だがほとんどの者には回復魔法より少し上程度の効果しか出ない。俺の血はな」

「でもお父さんの時は瀕死だったよ?」

「マイスは両親や祖父母を含めて長くエルフの町にいるからな」

 アバンセの説明では、先祖伝来、祖先を含めて長くアバンセの近くに住む者だけが、その血の恩恵を受けられるらしい。理由は分からんけど。

 俺程度では無理との事。

「ふーむ、仕方ないかぁ」

「じゃあ、姐さん、どうするんです?」

「どうするって……近くに町があったよね? そこで二、三日ゆっくりしようよ。美味しい物を食べて、遊んで、もちろん費用はうちの商会が持ちます!!」

「さすがっす!!」

「あ、ありがとうございます」

「人の食事か。興味があるぞ」

「ちなみにちゃんと経費として計上しないとセレスティが怒るから気を付けて」

「ヴォル……ヴォルはいつからそんなしっかり者に……」


 しっかり食べて、遊んで、お風呂に入って、ゆっくり寝て。

 さて、帰ろう……なんて外に出ると。

 町の住人が慌しく見える。

 そして遠くに立ち上る煙。

「なんすかねぇ? アレ?」

「……キオ、見れる?」

「あっ、はい」

「……これ、森の焼けるにおい……」

 ヴォルが呟く。

「無関係と考えるのは難しいな」

 アバンセは言う。俺と同じ事を考えているのだ。

「シ、シノブさん……クテシアスさん達が居た辺り……も、燃えています……」

 キオが見た光景、それは広範囲に燃え上がる森の姿だった。

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