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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
地下大迷宮編

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支配と黒幕

 魔法封じの縄で縛り付けられていた。囚人の魔法を防ぐ為に用いられる。まぁ、俺の能力の圧倒的強さなら、こんな縄は何の役にも立たんだろ。

 いつでも逃げ出させると思うと、焦りもそんなに感じない。


 そんな俺の前に一人の男が現れるのだった。


「ここは小便臭いな」

「誰のせい?」

 目の前にいるのはダブローだった。

「この事をグレゴリさんは知っているの?」

「知るわけないだろ。あの爺さんは分かっていないんだ。この町を守るために、お前らの様な奴は早めに潰しておくべき事を。ビスマルクは王国の国境警備隊、お前達は王立学校の生徒、優秀なお前達はいつかガララントの元に辿り着くだろう。あのガララントに勝てるとは思わんが、それでもこの町の存在を脅かす事に変わりない」

「そこまでしてここを守りたいの?」

「当たり前だ。今更ここから放り出されて何処へ行く? 外の世界とでは時間の流れが違うんだ。この町で長く過ごせば過ごす程に俺達の帰る所は無くなる」

「知っていたんだ?」

「当たり前だ。ここに新しく入って来る者達の話を聞いていれば分かる」

「ここから出たい人だっているはず」

「ここで生まれ、ここだけしか知らない者もいる。それをお前達のワガママで外の世界に放り出すのか? 放り出された者は今更どうやって生きて行く? お前達が面倒を見てやるのか?」

「……」

 分かっている。

 ガララントを倒さないとここからは出られない。しかしガララントを倒せば竜の罠の結界は消え、配給も失ってしまう。俺達がこの場所を壊すのだ。

 自分達の為に他の誰かを巻き込むが責任は取れない。俺達がやっているのはそういう事。もちろん出来る限りのフォローはするつもりだが。

「しかしお前はもう何も考える必要は無い。ここからは出られないんだからな」

 その瞬間、椅子の足を思い切り蹴り上げられた。

 ガタンッ

「あぐっ」

 バランスを崩して椅子ごと床の上に転がった。そして髪の毛を掴まれ、濡れた床の上に顔を擦り付けられる。

「ムカつく目だ」

「それはどうも」

 ドゴッ

 て、てめぇ、後で絶対に仕返ししてやるから覚えとけよ……

 今度は強く頭を叩き付けられるのだった。


★★★


 それから数日。リアーナ達の方では……

 既に空き家に出入している者の身元も分かっている。そのうちの一人はダブローである。

 頻繁に様子を探っていたタックルベリー。その表情に焦りが見える。

「おい、もしかしたらだけど……拷問されているかも知れないぞ」

「シノブちゃんが!!?」

「助けに行くわ」

「ま、待って!!」

「待つ!!? 待つって何を!!?」

「二人とも落ち着けって!!」

「ベリー、どういう事か聞かせてくれ」

 ビスマルクの言葉にタックルベリーは頷き言う。

「二つの生命反応がある。一つはほとんど動きが無いからシノブだろう。そのシノブに重なり合うようにもう一つ反応がある。肉体的接触がある近さだ」

 肉体的接触……殴る蹴る、そういう事もあるだろう。しかし性別を考えれば性的暴行を受けている可能性も……

「リアーナ。これでもまだ状況を見守るつもり?」

「でもシノブちゃんから合図があるまでは……」

 ロザリンドはリアーナの胸倉を掴み上げる。その二人を不安そうな表情で交互に見るリコリス。

「私もシノブの事は信じているわ。でも不測の事態はいくらでも考えられる。全てがシノブの計画通り、本当にそう言えるの?」

「それは……でも……」

「戦う事も魔法を使う事も出来ない。そのシノブをそこまで信じる根拠は何?『信じている』なんて直感的な理由しか無いなら、今すぐ私はシノブを助けに行くわ」

 リアーナはビスマルクに視線を向ける。

「……リコリス。少し席を外そう」

「うん……」

 そしてビスマルクとリコリスが離れたのを確認してリアーナは話し出す。

「……シノブちゃんは全く魔法が使えないわけじゃないの」

「どういう事?」

「僕達を騙していたのか?」

「ごめんね……でもそうするには理由があるの」


 リアーナはシノブの能力について二人に話す。

 その圧倒的な能力。そして能力についての弱点。その弱点はシノブにとって致命的であり、迂闊に話せない事。


「その話は信じて良いの?」

「シノブちゃんはね、不死身のアバンセにも轟竜パルにも勝っているんだから」

「マジかよ……だとしたらサンドンと繋がりがあるのも納得だ」

「私がシノブちゃんを信じる根拠はそれだよ」


★★★


 三日か四日か……

 転がされたまま、少量の水を与えられるだけ。しかも誘拐した奴等に軽く殴られたり、からかうように蹴り飛ばされた。とはいえ犯されない辺り、上からの指示があるのだろう。

 そして自分自身、衰弱しているのが分かる。後どれくらい耐えられるか……場合によっては逃げる事を検討しなきゃならんか。

 その俺の目の前に再びダブローが現れた。

「やっと良い目になってきたな。それを待っていたんだ」

 ダブローは笑い、言葉を続ける。

「希望と未来があるような小娘が、心を折られて絶望に目を曇らせる……弱者を踏み躙る快感は何物にも代え難い」

 頃合的には良いタイミングか。この状況なら自然に聞き出せる。

「……助けて……もう許して……殺さないで……」

「殺しはしない。それに俺へ従うのなら良い暮らしをさせてやる」

「……良い暮らし……乱暴な事しない?」

「もちろんだ」

「……それをあなたがくれる?」

「そうだ」

「……どうやって?……それほどあなたは偉いの?」

「……何が聞きたいんだ?」

「もうここから出られないのは分かっているの。どんな事をされるのかも想像が付く。でも……どうせそうなるなら何人もの人に乱暴されたくない……もしあなたが全ての首謀者なら、それが私自身を守る事にもなるから……」

「ははっ、最初は随分と反抗的な目をしていると思ったが……所詮は子供だな」

「……ごめんなさい……」

「心配するな。俺が全てを指揮している。この町もグレゴリが死んだら俺の物、そしてお前も死ぬまで俺の物だ。たっぷり可愛がってやる」

「でも……どうして……私を?」

「その目と髪……まるで女神アリアのようだろう?」

 俺は黙って小さく頷く。

「女神を意のままに支配する……最高だろ」

 それが本音。コイツは町の事など考えていない。自分自身に都合が良いから、この環境を守りたいのだ。

「……良かった……それが聞けて」

 全ての黒幕。それが分かればもう後は……

 久しぶりの感覚……体の中の魔力に火が灯る。魔力は燃え上がり、体外に噴き出すような感覚と共に、痛みも疲れも消え失せた。そして俺の体は淡く発光する。

 その光景にダブローは目を奪われる。それも一瞬だけ。次の瞬間には視界が上下逆さになったから。

 魔法封じの縄など糸のよう。大して力を込めずとも腕力だけで簡単に引き千切った。そしてダブローには捉えられない速さでその後ろに回り込む。そして足払いの下段蹴り。

 ボギンッと骨の折れる感触。

 ダブローの両足の骨は折れ、その威力に体は空中を回転した。そして激しく床に叩き付けられ、そのまま気を失う。

 ダブローが床に叩き付けられた音に二人の男が部屋に飛び込んだ。

「お前!!? ダブロー!!?」

「このド変態クソ野郎が」

 一人は俺を誘拐して、小便を舐めるこの男。

 一瞬にして男の両膝を蹴り砕く。

「ああっ!! 足が!! 俺の足がぁぁぁっ」

 男は床の上に転がる。

 もう一人は獣人だった。犬だか狼だかの。まぁ、獣人は人間やエルフよりも耐久力が優れているから、これくらい大丈夫だろ。リアーナ達への合図にもなるしな。

 俺は獣人の攻撃を難無く避け、その体を掴み上げると、そのまま木造の壁に向かってブン投げる。バキバキバキッと壁を突き破り、建物の外へと投げ出される獣人。耐久力が高いとはいえ失神。

「足がぁ、足がぁ、クソっ、俺の足をこんな風にしや」

「足足うるさい」

 俺は男の手を踏み砕く。

「ぎゃあぁぁぁっ!!」

「あっ。こっちじゃない。私の体に触れたのはこっちの手だっけ?」

 もう片方も。

「ああああああああああぁぁぁっ!!」

「だからうるさいって」

 少し強めに頭を引っ叩いたら気絶した。でも気絶させたら痛みを感じないだろうし、もう少し悶絶させとくべきだったか。

 三人を倒して息を付いた瞬間。体の中から熱がフッと消える。同時に体中の力が抜け、痛みや疲れの感覚が戻る。衰弱していた体に圧し掛かる、更なる負担に気が遠くなりそう。

 今までこんな状態で能力を使った事が無いから分からなかった。まず衰弱していると能力の発動時間が極端に短い。そしてその後に掛かる体への負担がマジ半端ねぇ。

 マジパネェよ。

 俺はその場に立っている事も出来ずに尻餅を付き座り込んだ。指一本動かすのも辛いっすわ。まさかこのまま衰弱死してしまうんじゃ……


「シノブちゃん!!」

 そこに飛び込んで来たのはリアーナ達だった。ロザリンドもタックルベリーもビスマルクもリコリスも、みんないる。俺の意図がちゃんと伝わっていたようだ。

 リアーナが俺の体をギュッと抱き締める。リアーナの良い匂い……匂い?

「ごめん、リアーナ。私、臭いでしょ? だからそんなにくっ付かないで」

 おしっこ漏らしてるし、何日もお風呂入ってないし。

「良いの」

「服が汚れるかも」

「良いの!!」

「ありがとう、リアーナ」

「うん」

「僕が回復魔法を掛けてやる。少しは楽になるだろ」

 回復魔法は対象者の自然治癒力を高めるもの。衰弱している俺にとって回復する幅は小さいがそれでも充分楽になる。

「ベリーもありがとね。ロザリンドも」

「言いたい事がいっぱいあるわ。後で覚悟しなさい」

「なるべく優しくお願い」

 多分、俺の能力の事を知ったのだろう。まぁ、ロザリンドやタックルベリーなら良い。

「これを飲んで下さい、今のシノブさんには必要だと思います」

 リコリスが皮袋の水筒に入った液体を差し出す。

 少し苦くはあるが、脱水症状に近い体にはありがたい。染み渡るとはこういう感覚なんかな。

「リコリスもありがとう。助かった」

「いえ、私は何も……」

 少し困ったようにリコリスは言う。

「死ぬ寸前だったからね。今、来てくれて本当に助かったんだよ。ビスマルクさんもありがとう」

「話は後だ。今の騒ぎですぐに人が集まって来る。リアーナとロザリンドはシノブを。リコリスとベリーは外の奴を。私がこの二人を運ぶ」

 そう言ってビスマルクはダブローともう一人の足首を持ち、そのまま二人を無造作に引き摺り移動する。ゴッ、ゴッ、ゴッ、と二人の体が地面にぶつかる事などお構い無し。

「ビスマルクさん……豪快だね」

 俺の言葉にビスマルクは笑った。

「ガハハハハッ、こいつ等にはまだ生温いだろう?」

 確かに。

 俺も笑った。

 外に出ると……時間の感覚が狂って分からなかったが、夜。タイミング的にベスト、人目に付かないように移動が出来るのだった。

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