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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
地下大迷宮編

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堤防と決壊

 夜中、おしっこに起きたら攫われました。

 町の状況、俺達の行動、それらを考えたらこういう事もあるかも知れないと想像はしていたが、なかなか出来ない経験やね。

 そして建物の中に連れ込まれ、椅子の上に縛り付けられる。

 目の前に二人の男。一人は俺を誘拐した張本人。種族的には俺と同じ。

 もう一人は部屋の奥、薄暗くて姿はハッキリと確認出来ないが体格的に男だと思う。

 こうやって姿を現しているって事は、もう帰す気は無いという事。

「目的は?」

「最初に出る言葉がそれとは、随分と肝が据わっているな」

「この町は楽園なんでしょう? それを私達が壊すから?」

「楽園?」

「外の世界と遮断され外敵は現れない。定期的な配給で飢える事も無い。生きていくだけなら楽園なんでしょう? ここは」

 男は小さく笑った。

「確かにここは楽園だな。俺達のような男には」

「どういう意味?」

「最初に知った時は驚いたぜ……この町は裏で女を犯し放題なんだからな」

「……それはこの町の規則なの?」

「そうだ。まぁ、知っている野郎は少ないがな。この町ではガキ共が産まれる事が一番重要なのさ。その為に父親なんざ誰でも良いんだ。女は町全体の共有物なんだよ。色々な女を好きな時にヤレるんだ。最高だろ?」

「それが楽園? そんなモノの為にこんな事までするの?」

「俺達にとっては一番重要だっての。まぁ、上の連中の中には黙認する事で町を守っているつもりの奴もいるけどな」

 黒幕がいると。

 しかしそれにしても……

 ……膀胱が爆発する……

 おしっこをする前だったから……

「どうした? 急に怖くなったか?」

「……トイレに行かせて」

「何だ。ションベンか?」

 俺は黙って頷く。

「そのまましろ」

「は?」

「拘束を解くつもりは無い」

 そう言って男は下品な笑みを浮かべた。

「このままここでしろって言うの?」

「そうだ」

 男は微動だにしない。

 そのまま時が過ぎる。

 ……

 …………

 ………………

 太ももを擦り合わせる。我慢して、少しでも先に延ばそうとするが……

「そろそろ我慢の限界か?」

 男はニヤニヤしながら言う。

 ダメだ、限界、堤防が決壊するで。

「てめぇ、覚えとけよ。絶対に後で俺がブッ殺すからな」

「おおっ、怖い怖い」

「んっ……」

 くそっ、恥ずかし過ぎて腹立つわ!!

 下着が一瞬にしてビショ濡れになる。しかも出てしまうと止められない。溢れ出た暖かい液体は下着を濡らし、足と椅子を伝い、足元に水溜まりを作る。

 鼻に感じる微かなにおい。

「ははっ、コイツ本当に漏らしてやがる」

 殺す。絶対に殺す。

 そして男は笑いながら俺に近付き、太ももの辺りに手を伸ばした。

「なっ!!?」

 男の手が、濡れた肌の部分を撫でる。そしてその濡れた自分の指先を見せて、そのまま俺の目の前で……

「随分と出したな」

 ペロッ

 ……舐めた。

「くそド変態が!!」

 頭突きの一発でもと暴れるのだが、椅子がガタガタ揺れるだけで何も出来ないのであった。


★★★


 同時刻。

 これはリアーナ達から後で聞いた話。


 夜中。

 最初、その異変に気付いたのはビスマルクだった。

 何者かの気配を感じ、目を覚ます。何者かは気配を殺している。つまりある程度に戦闘訓練を積んだ者。ビスマルクでなければ気付かなかっただろう。

 そして。

「いごろっ!!!!!」

 突然に響いたシノブの声。

 リアーナ達が一気に目を覚ます。事の重大さを理解したリアーナが一番最初に横穴から外へと飛び出した。

「リアーナ、今のシノブの声ね」

 続くようにロザリンド。

「シノブちゃんは!!?」

「おいおい、どうした、こんな夜中に。寝ボケたか?」

 そしてタックルベリー。

 さらにビスマルクとリコリス。

「すまない。私の落ち度だ。気付くのが遅れた」

「ビスマルクさん、シノブちゃんは?」

「……連れ去られたと見るべきだろう」

「まだ近くにいるかも知れない」

 刀を手にしていたロザリンドはすぐさま追い掛けようとするが。

「もう遅い。闇雲に探しても見付ける事は出来ないぞ」

 止めたのはビスマルク。

「だとしても止めないで下さい」

「待って」

 それでも追い掛けようとするロザリンドを止めたのはリアーナだった。

「リアーナ、アナタまで!!? シノブが連れ去られたのよ!!?」

「ちょっと落ち着けって。リアーナ、何かあんだろ?」

 タックルベリーの言葉にリアーナは頷いた。

「私とシノブちゃんはね、お互いだけに通じる暗号を作ってたの。こういう突発的な事態で使えるかもって。シノブちゃん、『いごろ』って言ってたよね」

「そう聞こえたわね」

「言われてみればそうだったかも」

「獣人の耳は良い。私もそう聞こえた。リコリスもだな?」

「うん、確かに『いごろ』って聞こえたよ」


 シノブとリアーナは言葉を発する間も無い逼迫した事態に備えて、簡単に意思疎通が出来る暗号を考えていた。

 まず1~6までの数字に意味を与える。


『1(いち)』→正解、真実、大丈夫、肯定的意味。

『2(に)』→不正解、嘘、駄目、否定的意味。

『3(さん)』→高い、上、右、前、単数。

『4(し)』→低い、下、左、後、複数。

『5(ご)』→任せて、こっちに合わせて、自分に主体性を持たせる、自力。

『6(ろく)』→任せた、そっちに合わせる、相手に主体性を持たせる、補佐。


 そして数字の読みの最初の文字を組み合わせる。

 『い』『ご』『ろ』なら『1』『5』『6』の順番で並べ、その中から意味を選んで汲み取る。

 例えば『しに』なら『42』、つまり『左が不正解』という意味になる。しかし同時に『後ろは駄目』にもなるし、『複数の嘘』などにもなるので、受け取り側が状況から推察する必要がある。

 確実な意思疎通が出来るわけではないが、無いよりマシという事で。

 ちなみにそれに対応するハンドサインまで作っていた。


「つまりシノブは誘拐されたけど『大丈夫』って事なのね?」

 ロザリンドの言葉にリアーナは頷いた。

「で、次が『5』。『任せて』とか『自力』だよな。『大丈夫。自力で何とかするから』って事か?」

 タックルベリーが言うように、そこまでは良い。でも……

「でも最後の『6』は前の『5』とは反するような意味ですよね?」

 リコリスの言う通り『5』と『6』が繋がらない。自力で何とかすると合図を出しといて、相手に補佐を頼むような状況になる。

 そこでビスマルク。

「『5』と『6』が同時の場面であれば矛盾も出る。しかし二つの場面を想定しての事ならどうだ?」

「シノブは誘拐ともう一つ、別の問題が起こるって言ってんのか?」

「ねぇ……『1』『5』は自力で何とかする、って単純な意味ではなく、シノブには他に何か考えがあるんじゃないかしら? だから『大丈夫、任せて』」

「うん。無策なシノブちゃんなんて想像付かないもんね」

 シノブの本当の能力を知っているリアーナだから気付く。


 シノブちゃんの力があれば、誘拐されそうになった瞬間に相手を倒しちゃう事だって出来る。それをしないのは、ロザリンドちゃんの言う通り、何か作戦があるからだ。多分それは潜入。

 そのシノブちゃんの最大の弱点は、力に制限がある事。

 ビスマルクさんの言う二つの場面。一つはシノブちゃん自身が力を使って誘拐した人から逃げる場面。そしてもう一つは……シノブちゃんの力が途切れた場面。

 その時は『任せた』って意味だ……


「ビスマルクさん。シノブちゃんを誘拐した人達はこの町の中にいると思いますか?」

「ああ、思う。この迷宮の中で安全なのはこの町だけだ。この町以外の場所に潜伏するのは危険過ぎる」


 シノブちゃんの力は派手だから暴れたらすぐに居場所は分かる。もし意図があって力を使わないなら、『いごろ』の言葉を信じて待とう。それで良いんだよね、シノブちゃん。


 そして……

「リアーナ。本当にそれで良いのね?」

「今すぐは助け出さないって本当かよ?」

「うん。シノブちゃんが『大丈夫、任せて』って言ってるから。でもどこに捕まっているかだけは見付け出さないと。すぐに助けられるように」

「……リアーナ。シノブは武器も使えない、魔法も使えない、そうだったな?」

 ビスマルクだ。

「はい。その通りです」

「そのシノブの話を信じて良いのか? もしかしたらお前達を巻き込まない為に嘘を付いて、自分は犠牲になるつもりかも知れないぞ?」

「無いですね」

「無いな」

 ロザリンドとタックルベリーはほぼ同時。

「シノブちゃんは世界最強なんです。大丈夫に決まってます」

 リアーナは笑って、そう答えるのだった。


★★★


 キッツイですわー

 翌日。

 椅子に縛り付けられたまま数時間。体中が痛い。それと下着がビチャビチャで気持ち悪い。

 今すぐにでも力を使って逃げ出したいが、黒幕が知りてぇ。黒幕共々にシバき倒してぇ。

 リアーナには伝わったか、俺の暗号は? これは潜入なのさ。

 こんな事態も想定していた。だからこそ黒幕とも言える奴をなるべく早い段階で聞き出したい。

 その為に、リアーナ達が早く助けに来ては困る。黒幕が完全に雲隠れしてしまう可能性があるから。

 とは言え、どんな不測の事態が起こるか分からん。使った力が途切れてしまうなんて事も考えられる。それに備えてリアーナ達には俺の場所を把握しといて貰わないと。

 どうやって俺の場所を把握するって?

 そりゃ知らんよ。

 まぁ、みんな優秀だし、見付け出してくれっしょ。


★★★


 なんてシノブが思っていた頃にはすでに監禁場所を特定。

 この町は住人になった者に住居を無償で与える。その為、いくつかの空き家が用意されていたのだ。その出入の無い住居をビスマルクは把握していた。

 誘拐犯が潜伏しているなら、その空き家を利用するはず。

 後はタックルベリーの魔法で空き家を探索して生物の有無を確認するだけ。さすがに魔法の腕は超一流。リアーナよりも静かな探索魔法。ビスマルクが気付くか気付かないか程度の魔力でシノブを見付け出しているのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 伝言を残せず漏らした所で仲間が救助に来てたら、恐怖で失禁したと勘違いされそう(漏らした事実は消えない)
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