パンチラハンターと白き痴女
前世の男の時には分からなかったが、髪のアレンジが面白い。これだけ長いと色々な髪形に挑戦が出来るぜ。
とは言え、元来は不器用な男。自分ではそんなに凝った髪型は出来ないんだけどね。でもたまにリアーナやロザリンドが髪を編んでくれると可愛いのが出来るんすよ!!
さて今日は……
前髪だけはたまに切っているが今は大分伸びてきた。そこでその前髪を七三分けにして、おでこを出すようにしてヘアピンで留める。そして長い髪をそのまま耳の後ろに引っ掛ける。
視界良好。シンプルだが大人っぽいような気がする!!
そして王立学校の制服に身を包み……ふむ、可愛い。凄い勢いで回転してみる。スカートが捲り上がる。
「ちょっとシノブ、見えているけど」
ロザリンドの言うそれはもちろんパンツの事。
「どの程度の回転で見えてしまうかの実験だよ」
「そんなに回転する機会なんて無いでしょ?」
「それは分からないよ? そんな事よりほら、気付かない?」
「……何かしら……」
「どらぁっっっ!!」
半端無く凄い勢いで回転。スカートは捲れ、パンツが見える。
「もしかしてその下着……ゴムを使っているの?」
「正解!!」
まだ希少品であるゴムを使った下着。淡い水色をしたそれは比較的に値段がお高い。その為、ただの下着でありながら細かい装飾もされている。腰回りには小さなフリルが一周し、前部分には花を模した細かい刺繍も入っていた。
「どうしたのそれ?」
「お姉ちゃんから貰ったんだよー。留学してる時に見付けて安く買えたんだって」
「その下着を見せたかったのね?」
「正解!!」
「確かに可愛いけど。ねぇ、後でそのゴムを引っ張らせて貰える?」
★★★
それは休み時間、トイレの個室に入った時である。ロクでもない事を思い付いてしまったのは。
オシッコ、オシッコと。
パンツを下げてスカートを捲り上げる。そして洋式の便座に座り込んだ。
……
…………
………………
ふぅ、すっきり。
用を足してトイレットペーパーを手に取る。ふむ、少し硬い。
そして膝下のパンツを上げ……そう言えば、昔、前世での事。
パンツをシュシュのように使って髪の毛を纏める画像があったな……パンツもゴムの可愛いヤツだし、今ちょっとやってみるか。
自らの下着を使って長い後ろ髪を纏めてみる。
ちゃんと出来てるとは思うんだけど。とりあえず鏡で確認しないと。
水を流そうとして手を止める。これ……完全に俺が知っているトイレだよなぁ。このレバーを回すと水が流れる。
建造物は中世のヨーロッパを思わせる。そして剣や弓などの武器もそれぐらいの時代か。
けど例えばこのトイレ、そしてそのままトイレに流せるペーパー。この辺りは実に近代的だと思う。所々、時代に合っていない便利なモノが存在している。
つまり俺の前世の世界、近い時代の人間がこの世界に転生して持ち込んだ可能性がある。それがララなのかは分からないが。
俺のように異世界転生をしても、それを秘密にしている存在の可能性もある。そんな奴がいるのかもな。
……って、ヤバい!! 休み時間が終わっちまう!!
俺はトイレから飛び出した。
★★★
昼休み。
王立学校が大陸全土から優秀な生徒を集めているため、俺のように寮を利用している生徒も多い。その為、学食なんて物も存在しているのだ!!
俺もリアーナもロザリンドも三人とも学食を利用していた。今日も今日とて三人して学食へと向かう。
階段を、最後の二段を飛ばしジャンプで下りる。スカートがフワッと捲れる。
それを隣で見ていたリアーナが足を止める。
「どうしたの?」
ロザリンドの言葉にリアーナは困ったように言う。
「えっ、いやっ、ただの見間違いだと思うんだけど……シノブちゃん?」
「ん? どうしたの?」
「……ううん、何でもない」
「もしかして今、パンツ見えた?」
「シノブは少し気を付けなさい。今もそうだけど、たまに男の子みたいな座り方をしているんだから。下着が見えてしまうでしょう?」
「はいはい」
まぁ、元は四十年も男をしていましたからね。そこが甘いのは自分でも自覚していた。
「そんな事よりも早く行くよ、リアーナ、ロザリンド、私の大盛り豚骨ラーメンが売り切れる!!」
「う、うん」
「無いでしょう、そんなメニュー。それにそのトンコツラーメンってどんな食べ物なのよ?」
お昼を食べて、そして教室に戻るため階段を上がる。
「腹ごなしの運動だぜ!!」
俺は階段を駆け上がる。
それを隣で見ていたロザリンドが足を止める。
「ロザリンドちゃん?」
リアーナの言葉にロザリンドは困ったように言う。
「……いえ、何でもないわ。さすがのシノブもそんな事はしないと思うし……」
「見えた? もしかしてロザリンドもリアーナもパンチラハンター?」
「バカ」
★★★
また一つ授業が終わり、少しの休み時間。
椅子の上であぐらをかく。そして背筋を思いっ切り伸び~
「だから座り方。気を付けなさいって言ったでしょう?」
「昔からシノブちゃんは男の子みたいな所があるよね。そういう所は変えた方が良いと思うよ」
ロザリンドもリアーナもお母さんのようだぜ。同じような事を家でもよく言われていたもんだ。
「だから大丈夫だって。見えそうで見えない。パンチラってそういうもんだから。さすがにこうやったら見えるかも知れないけどさ」
それはちょっとしたイタズラのつもり。
俺はパンツが見えるようにスカートを捲り上げる。まぁ、この位置ならリアーナとロザリンドにしか見えないから良いだろ。
しかし返ってきたのは予想よりも驚いた反応。
「シノブちゃん!!」
「シノブ!!」
二人の重なった大声にこっちがビビる。
教室中の視線も集まる。
「ちょっと、来なさい」
ロザリンドは俺の腕を取り、強引に教室を出るのだった。
更衣室。
戦闘訓練や運動系の授業もあるので、人が入れるくらいの木製ロッカーが並ぶこういった部屋も用意をされている。
そんな部屋に引き摺られるようにして連れてこられた。
「ちょ、ちょっとロザリンドもリアーナもどうしたの?」
「どうしたの、じゃないよ、シノブちゃん!!」
「え、何、ホントどうかした?」
「どうかしたのは、シノブでしょう? 何で下着をはいてないの……」
「はぁぁぁ? 下着? はいてるに決まってんじゃん。今朝だってロザリンドも見たでしょうよ」
俺は言いながらスカートの中に手を入れる。
……うせやろ?
俺はバッとスカートを捲り上げて目視で確認してみる。
ノーパン。
「無いよな?」
「無いわ。どう見てもはいてない」
「シノブちゃん……どうして……」
「どうして、って……あっ!!」
トイレだ!!
トイレでパンツをシュシュ代わりにして髪を纏めてたんだ!! ただ途中で考え事をしてて、そのまま忘れてたみたい!!
「パンツは頭だ!!」
「……シノブの言葉の意味が分からない」
そこで気付く。纏めたはずの後ろ髪が普通にストレートに落ちている。髪を纏めたはずのパンツが無い……
「ヤベェ、パンツ落とした」
「……本当にシノブの言葉の意味が全く分からない」
とりあえず二人に事の経緯を説明する。
「目眩がするような理由ね」
呆れたようにロザリンドは言う
「でもどうするの? 落とした下着を探す? それとも今日はこのまま早退する?」
「早退は……私、これでも学校は無遅刻無欠席無早退の皆勤賞なんだよね。その記録をここで途切れさせるわけにはいかない」
「記録って、まだそんな大した記録でも無いでしょう……じゃあ、下着を探すつもり?」
「いや、落とした下着を探すなんて、ちょっと恥ずかしいから」
「下着をはいてない方が恥ずかしいと思う……シノブちゃんはどうするつもりなの?」
「このままノーパンで行こうかなって」
「バカじゃないの。このバカ」
間髪入れずにロザリンドは言う。
「だって」
「私、代えの下着があるから持って来るよ。ちょっと待ってて」
「何でリアーナはそんなの持ってるの?」
「な、何でって……今、必要になるかも知れない期間だし」
「ああ、そうか。女の子は大変ね」
「シノブも女の子でしょ」
「私、まだだし」
「……」
「……じゃあ、ちょっと行ってくるね」
リアーナが更衣室を出る。
「ところでロザリンドもパンツ脱いでみようか」
「何でよ、本当にバカじゃないの?」
「いやいや、考えてみてよ。ロザリンドにも好きな人が出来るじゃん? エッチする時にパンツ脱ぐじゃん? 今、予行練習で脱いどこうよ」
「……考えてみたけど全く今下着を脱ぐ必要を感じない」
「良いから、オラッ!! 実力行使じゃ!!」
「あっ、こらっ、やめなさい!!」
ロザリンドは紐パンなので比較的簡単に脱げた。
しかしそこで……
「待って、シノブ……足音が聞こえる……それも複数。こっちに向かって来るわ」
「更衣室を使うのかな?」
「でも男の子の声しか聞こえないけど」
「……ちょっと待って、ロザリンド!! もしかしてこっち男子更衣室の方じゃない!!?」
「そんな……まさか……」
「ほら、急いでたから間違ったんじゃないの!!?」
更衣室のドアが開けられた。
中に入って来たのは何人もの男子生徒。ワイワイと雑談をしながら入って来る。
その中には知った声も。
「僕は実戦訓練とか嫌いなんだよ。ずっと自主研究にしといてくれよ」
タックルベリーである。
そして俺とロザリンドはどこにいるかと言うと……
「ちょっと、何で隠れる必要があるのよ?」
「だって、いきなりだったから」
俺とロザリンドはロッカーの中に隠れてしまう。狭いロッカーの中にギュウギュウ。
「更衣室を間違ったと素直に言えば良いんだから出るわよ」
「ちょっと待って、ロザリンド」
その時である。
「おい、これ……女のパンツじゃないか?」
そんな声が聞こえた。
「っ!!?」
「えっと……ロザリンド?」
「私の……さっきシノブが脱がしたやつ……」
「ロザリンドも落としたのか……」
「あなたのせいでしょう!!」
「しっ、声が大きい」
少しだけ大きくなったロザリンドの声。
「おい、今、女の声が聞こえなかったか?」
「僕の知っている声だな。そこのロッカーから聞こえたような気がする」
あの野郎、余計な事を。
「どうしよう、シノブ……私の下着……このまま出て行けない……」
ロザリンドのパンツを脱がしたのは俺だし、全ての状況の元凶は俺。ここは俺が何とかせんといかん!!
バーンッ!!
ロッカーを勢いよく開ける。
バーンッ!!
ロッカーを勢いよく閉める。
「私だけど何か?」
「シ、シノブ?」
驚きの表情を浮かべるタックルベリー。
「更衣室を間違えたの。で、急にみんな来たから驚いてロッカーに隠れたんだけど」
「お、おう、そうか」
「それだけだから」
「分かった……」
「……何?」
「ありがたいけど正気か?」
「どういう事?」
「どういう事、って、お前……」
タックルベリーの視線を含めて、男共の視線が俺の体を上から下へ、下から上へと移動する。舐めるように見るとはこの事だな、気持ち悪いわ。
「とりあえずその下着も私のだから返して」
俺はそう言ってパンツを持った男子に近付こうとするのだが、スカートを引っ張られたような気がした。確認して見れば……スカートの裾がロッカーの戸に挟まっていた。その挟まったスカートが捲れている。結果として下半身が丸出しに。
クルッと背を向ける。お尻丸出しだが、前を向けるよりはマシ。そして両手でお尻を隠す。
「……パンツを置いて早く出てけ。カス共」
「カス!!? 酷い!!」
「うるせぇ!! 悲鳴上げて、お前らに犯された、って言うぞ!!」
「理不尽過ぎる!!」
そしてパンツを取り返し、男共を追い出した所でリアーナが到着。
「シノブちゃん!! 大変だよ、こっちは男子更衣室だよ!!」
「もっと早く気付いて欲しかった……」
「もしかして、何かあったの? それにロザリンドちゃんも……」
「バカだわ……本当にこの子、大バカだわ……」
項垂れるロザリンド。
「これは絶対に良くない事があった雰囲気だよ……」
★★★
男子更衣室の白き痴女……俺はそんな名で有名になるのだった。
ちなみに俺のパンツはどうなかったと言うと……
「教室に落とし物がありました。何かとあえて言うつもりはありませんが、心当たりの方は取りに来て下さい」
「先生!! それはゴムでしょうか!!?」
「……ゴムです」
そんな感じで無事、回収成功である。




