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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
王立学校編

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32/244

三回戦と勝負は一瞬

 ざっっっっっけんな!! 練った作戦が全部パァじゃねぇか!!

 

 場所は王立学校内……と聞いていたが、直前になり別の場所が指定された。絶対に意図された変更だ。しかもパーティーを、組み合わせは自由だが二つに分割しろだと?

 そして学校側が指定した場所に分割した二つを配置させるとの事。さらに、誰が配置されたかは分からないが、配置させる場所は対戦相手へ事前に知らされる。

 何だそのルール、その場で状況に対応して戦えって事か面倒臭ぇ……けど……同時に面白く感じる自分もいる。それに相手だって同じルールだ。文句は言えん。


★★★


 でもこれは……どうすっかな……

 直前になり一枚だけ渡された四角い紙。赤い丸、青い丸が二つずつ描かれていた。自分達と対戦相手をこの位置に配置しろって事なんだけど……

 左上に赤い丸が一つ、右下に青い丸が一つ。問題は紙の真ん中、中央に赤い丸と青い丸が隣合っていた。

「ねぇ、シノブちゃん、これ、真ん中はすぐ戦いになるのかな?」

「何とも言えないなぁ」

「そうだな。もしかしたら間に壁や障害物があって迂回が必要な可能性もある」

「じゃあ、必ずしも左上と右下が一番遠いとは限らないんですね?」

「そもそも、これどこでやるんだよ?」

 そう、これには他に何も書き込まれていない。障害物があるのか、高低差があるのか、どこを舞台にして模擬戦を行うのか全く分からない。

「ねぇ、ミラン。模擬戦の決勝戦っていつもこんな感じでやるの?」

「いや、始めてだ。こんなやり方は上級生の模擬戦でも見た事が無い」

「そっか……」

 じゃあ、参考に出来るものが無ぇ……

 

 とりあえず、ロザリンドの立場で考えてみた。

 相手のうち二人は戦闘能力の低い俺と芸術学部のレイラだ。一人を捨石にしてもロザリンドを含めた四人で集まっていた方が勝率は上がるはず。向こうの方が圧倒的に総合戦力が高いのだから分割する意味が無い。

 そして立地が分からない以上、距離で考え、戦闘になる可能性が先なのは真ん中。そこに一人を配置する可能性は少ない。戦闘になった場合、一人では負ける可能性が高いからだ。ここが四人なら、持ち堪え、後から一人が駆け付ける可能性だってある。

 そうなると相手の配置は真ん中にロザリンドを含めた四人、端に一人。もちろん確実とは言えないが。

 

 そこでこっちの配置はどうするかなんだが……総合的な戦力に劣る俺達が勝つには……鍵はタックルベリーか……


「ベリーにお願いがあるんだけど」

「僕にか?」

「次は本気でやって。マジで」

「おいおい、お前は僕が手を抜いてると思ってんのか? わざわざ参加しなくても良い模擬戦に出ているのに、何て言い草」

「そういう意味じゃなくて。次の決勝戦はベリー次第で結果が変わってくるから」

「どういう事だ?」

「ロザリンドを含めた四人と戦う可能性があるんだけど、そうなったら相手をミランと二人でやって欲しいの。勝たなくても良い、けど負けないで欲しい。そこで崩されたら私達に勝ち目は無いから」

 ミランの実力はある程度の予測が付く。しかしハッキリ言ってタックルベリーはまだ未知数。

「ロザリンド……学年最強を含めた相手を二人で……僕に出来ると思うか?」

「ベリーの本当の実力は分からない……けど魔法を創ろうなんて男だもん。出来るでしょ?」

 俺は笑った。

 タックルベリーも笑う。

「まぁ、出来ますけどね。その代わり……」

「分かってるって。後で良いもんあげるから」

「処女?」

「ベリー君、最低……」

「いつか絶対に訴えられると思います……」

 ああ、汚物を見る目とはこういう事を言うんだろうな……リアーナとレイラの視線がタックルベリーに突き刺さるが当の本人は……

「その視線、ゾクゾクしちゃうね」

 とか嬉しそうに言ってやがる。しかしその後に無言のミランに頭を引っ叩かれているんだけどね。

「まぁ、それはあげないけど期待してて」


★★★


 ここからは後々に聞いたロザリンド本人の話や、観客どもの視点を含めてを説明する。


★★★


 だから誰なんだよ、この魔法を使った主は?

 一つの領域を魔法で作り出すとか、とんでもない奴だぞ。

 今度の模擬戦の場所は、魔法で作ったこの空間。


 まず離れた位置にいるのが俺と魔女帽子を目深にかぶったレイラ。

 見慣れない中世の街並み。石造りの建物と石畳の通り。

 遠くには白く巨大な建造物が見える。遠目で見てもその外観の美しさが分か……ん?

 ちょっと待て。

 あのデカい建物……見た記憶がある。

 前世では夜更かしをよくしていた。すると明け方が近くなる時間帯に『世界の遺産』みたいなテレビ番組が放送されていた。何度も見た記憶がある。

 あれは……フランス……パリ……

 ……ノートルダム大聖堂だ……

 つまりこの魔法領域を造ったのは、俺と同じ世界にいた人間。そこからこの世界に転生した人間。

 それはもちろん、神々の手、ララ・クグッチオ。

 神々の手とは、俺と同じくこの世界に転生した者に与えられた力なんだろう。ララは今わざと俺にこの光景を見せている。

 だったらあの若さで校長なのも頷ける。俺を神々の手と疑る、王立学校長チオ・ラグラックこそが、悠久の大魔法使いララ・クグッチオに違いない。


★★★


 この王国と似ているが、見た事の無い街並み。

 ロザリンドは一人周囲を見回す。パーティーの仲間はいない。

 その配置は中央に仲間の四人。そして自分は離れた位置に一人。

 本来なら自分を含めた四人を中央に配置するのが最良だとも思う。即戦闘になる可能性の高い中央には最大戦力でもあるリアーナを配置するであろうから。

 そして戦闘能力が低く、戦闘時には負担となるシノブとレイラは遠い位置に配置したいはず。もちろんそう考えるこちらの逆手を取って、中央に捨て駒となる一人、端位置にリアーナを含めた四人を配置する可能性だってある。その場合は相手を確認次第、その場から離脱して仲間と合流すれば良い。

 総合戦力を考えれば、自分を含めて中央で留まり戦う方が安全かも知れない。ただシノブが端に配置されたと想定して……模擬戦が始まれば自由に動けるのは中央よりも端側のシノブの可能性が高い。

 ロザリンドはリアーナの言葉を思い出す。


『一対一、決められたルールの中での試合なら私の方が強いと思うけど、何でも有りの勝負なら、シノブちゃんは私より強い』


 それに一回戦や二回戦の戦い方。シノブは計略を用いて相手に勝つ。そのシノブが自由に動ける状態は私達にとっては危険……

 注視するべきは、リアーナよりもシノブだわ。


★★★


「うわー、シノブの奴、予想を見事に外しやがったな」

 相手を見てタックルベリーは言う。

「この形も想定はしてある。問題ないだろ」

 と、ミラン。 

 中央部に配置されているミラン、タックルベリー、リアーナの三人。

 その目の前。四人のパーティーがいる。人間の男性剣士が二人。そして魔法や弓で援護をするエルフの女性が二人。そこにロザリンドの姿は無い。

 障害物など何もなく即戦闘に突入するだろう。

「それにこの形の方が明快だ」

「僕達にとっては楽だろうけど、後はシノブ次第か」

 もちろん、こういう編成の想定は事前にしていた。

 総合戦力に劣るこちらの作戦として最も難題だったのはロザリンドが仲間と一緒だった場合、そのロザリンドを仲間からどうやって引き離すかだった。

 それを相手の方でしてくれたのだ。これがタックルベリーの言う『楽』である。そしてミランの言う『明快』は、シノブとレイラ対ロザリンド、勝った方がこの模擬戦の勝者であるという事。

「まぁ、こっちは計画通りに行動するだけだしな……その前に、リアーナ、ちょっと良いか?」

 タックルベリーに呼ばれたリアーナ。

 相変わらずの鉄仮面とマント。

「模擬戦もこれで終わりだし……最後にその豊満ボディを周りに見せ付けてやるんだ!!」

 タックルベリーはそのリアーナのマントを剥ぎ取った。

 掌には収まらない大きな乳房はリアーナの動きに合わせて揺れた。ビキニアーマーはその乳首部分と股間の前部分を隠すだけ。そして女性的な曲線を描く腰から、丸みを持ったお尻。ほぼ全裸のように見える。

 艶のある白い肌、鉄仮面から覗く金色の髪。顔が見えなくとも欲情をそそられる。


 魔法で観戦しているであろう男子生徒達は歓喜の声を上げた。大盛り上がり。


「リアーナか……」

「凄いな」

 対戦相手の男性剣士二人も息を飲む。

「……油断しないで。あんな恰好をしていてもロザリンドと同程度の実力があるんだから」

 冷たい視線を送りつつエルフの女性は言う。

 こちらのパーティーの作戦はリアーナを相手に深追いせず、ロザリンドを待つ事。そしてロザリンドを加えてからリアーナと対峙する計画。


 リアーナはすぐにマントを奪い返し、体を隠す。

「もう終わりか。リアーナはサービスが悪いな」

「計画とは言え……すまない」

 ミランは小さく呟くのだった。


 石畳の広い通り、左右には石造りの建物が建ち並ぶ。その広い通りに二つのパーティーは配置されていた。障害物など無い。模擬戦が始まれば即戦闘、そんな距離で、模擬戦が開始されるのである。


★★★


 俺達の取り合えずの作戦は、まずは中央部でミランやタックルベリーがロザリンド達を相手に耐える。その間に俺達が端に配置された野郎を速攻で倒して、中央部に加勢する。そんな流れだ。

 その為にはいち早く相手を見付けなければ!!

 ただ相手もそうだったのだろう、お互いを見付けるのは思ったよりも簡単だった。


「ロザリンド!!?」

 街の中。角を曲がると、そこにはロザリンド。

 まさかこっちにロザリンドだったとは!!

 一瞬だ。

 刀を抜いたロザリンドが一瞬で間合いを詰めて来る。俺の体は全く反応が出来ない。まさに勝負は一瞬。


★★★


 姿は見えないが近くに人の気配。

 気配は二つ。誰?

 ロザリンドはその方向に意識を集中させる。

 普段のミランは実力を隠している。しかしある程度の強さを感じる。多分だけど、今の私のように気配を消して行動が出来るはず。

 リアーナも強さから予想するなら、彼女も気配を消すのは可能。

 レイラ……芸術学部の彼女は気配を消す訓練などはしていないと思う。一人は彼女。

 もう一人はシノブかタックルベリー。

 そして目の前にはシノブ。

 やっぱり端に配置したのはシノブとレイラの二人だけね。

 

 ロザリンドは刀を抜きつつ突進をする。突進をしつつも油断無く周囲に気を配る。罠の気配を見逃さないように。

 シノブは突然の事に動きが止まっている。そのシノブの後ろにはレイラ。芸術学部の彼女にこの一瞬で何かが出来るとは思わない。

 まさに勝負は一瞬。


★★★


 魔法の水晶を覗き込む先生、生徒、王立学校の全員がその光景を見て言葉を失った。

「まさかこんな……ふふっ」

 驚きの後、王立学校長チオ・ラグラックは思わず笑ってしまう。


 まさに予想外。一瞬の勝負。

 学校中が驚きに包まれていた。

 当然だ。

 水晶に映されていたのは、倒れたロザリンドだったのだから。

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