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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
女神の微笑み編

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古代魔法と現代魔法

「あれでしょ? パル行ける?」

 轟竜パル、その背中の上のシャーリー。目の前にそれはいた。フワフワと綿毛のように上下しながら飛んでいた。


『雲浮きの玉鳥、その羽』


「当然だろ。だけどな速さだけなら竜と同等以上、捕まえるのは一苦労だぜ」

「ふーん……ところでシノブからロザリンドに乗り換えたら?」

「なっ!!? お前、な、何を急に!!?」

「あたしの予想だと最後はシノブとアバンセがくっ付くと思うけど。ロザリンドで良いじゃん。美人だし」

「お前なぁ……シノブがダメだから次はロザリンド、そう簡単に乗り換えられるか」

「まぁ、人の気持ちなんて変わるんだからさ。そういう選択肢もあるって事で」

「……早く追跡魔弾を撃て。追いかけっこを始めるぞ」


★★★


「ねぇ、ドレミド。悪魔って具体的にどういう存在なのかしら? それに精霊や妖精ってつまり何ですの?」

「リコリス、私こそ聞きたいんだ。悪魔ってどういう存在なんだ? それに精霊や妖精の違いって何だ?」

 リコリスとドレミドは顔を見合わせる。

「……」

「……」

 その隣で溜息のミツバ。

「俺達には見えねぇけど、確かに存在するもの。精霊も妖精も言い方の違いだけで基本的に同じものと考えて問題ねぇ。リコリスは王立学校でそれくらい習うだろ」

「ま、まだ習っていませんわ」

 絶対にもう習っている。

「……それでな、同じ存在だけど結果として人に害を与えるものを『悪魔』って呼ぶんだろ、多分。これはベリーに聞いた話なんだけどな……」

 アルタイルの使う古代魔法について、研究をしていたタックルベリーから聞いた事がある。


 その地に存在する精霊や妖精、目に見えないものから力を借りるのが古代魔法。だから効果は場所に括られる事が多い。

 しかし悠久の大魔法使いララ・クグッチオが作り出した、言うなれば現代魔法。それは魔法陣や詠唱により遠くにいながらその力を借りる事を可能とした。

 根本的には古代魔法も現代魔法も同じものなのだ。だから同じく魔力を対価とする。


「でも今回の悪魔は魔力じゃなく、別の対価を要求してんだろ。つまり魔力以外のものでも魔法が使える可能性があるって事だな。ベリーが聞いたら喜ぶぞ……って、おい、二人とも聞いてんのか?」

「ちゃ、ちゃんと聞いていましたわ!!」

 絶対に聞いていない。

「ミツバは見た目が悪い、でも博識だな!!」

「喧嘩売ってんのか、ドレミド、てめぇ?」

 そんな三人の元に合流するのはビスマルクとキオ。

「あ、あの、そ、そろそろです。じゅ、準備してください」

 キオの言葉にドレミドは剣を抜き、ミツバは戦斧を手にする。

「来るぞ」

 ビスマルクの視線の先。砂漠が広がり、砂丘が波打つ様子が見える。


『飛び砂蜘蛛。その糸』


「気持ち悪い……でも片っ端から殴り飛ばして糸を集めてみせますわ!!」

 近付けば分かる。波打つのは砂丘ではない。無数の蜘蛛の大群が押し寄せる。しかも空高く飛び跳ねながら迫るのであった。


★★★


「みんなが戦っているのに楽で悪いような気がするんだけど」

「ユー君、仕方がないのよ~こういう所は飛べる私達が最適なんだから~」


 険しい岩山にユリアンとヴイーヴルはいた。

 人では登る事の難しい断崖絶壁が続く。壁沿いに二人が飛ぶ。


『瑠璃色草』


 ごく一部にしか生えないが、薬にも毒にもならない、いわば雑草。希少性は高いが、管理も難しく、その場に行かないと手に入れられないのである。

 確かに普通の薬師では、採取が難しい。本当にこれが治療薬の材料なのか、もしくは悪魔に捧げる事で吐血病が完治するという意味なのか……ユリアンは考える。

 ベリーに聞いた話では古代魔法と現代魔法は根本的には同じもの。現代魔法を作り出したララは神々の手。だったら古代魔法を使うアルタイルももしかして……


★★★


 それは大陸の下の方、山脈を越えた先、未開の地にその大穴は存在していた。

 底の見えない巨大な穴の奥。光の無い洞窟を進む。

 アリエリの腕に抱かれた小さなサンドン。その口から漏れる炎が周囲を照らす。アリエリの隣を歩くヴォルフラムが鼻を鳴らしながら進む。


『双子石』


 パル鉄鋼並みの入手難易度を誇る鉱石。これも一部の地域でしか採掘ができず、さらにそこを生息域としている魔物がいるのである。岩食いとも呼ばれる大型の魔物が。

 サンドンが言うにはその強さは竜と同等。


「お兄様。古代魔法と現代魔法の根源は同じものだとベリーさんに聞いた事があります。でしたら、悠久の大魔法使いララ・クグッチオは薬師と同じ結論には辿り着けなかったのでしょうか?」

 と、ハリエット。

 ララ程の力があれば今回の材料だって集められたはず。

「吐血病の治療はララの興味に無かった」

「そんな……」

 ララは正体を明かしていない。ただシノブや、今迄の事を見ていれば分かる。ララは王立学校長チオ・ラグラックだ。王立学校は研究機関も兼ね、滅びた旧都市の事も調査していた。吐血病の治療方法を知っていたなら実行しているはず。

 単純に古代魔法を利用するという方法を思い付かなかったのか……それともまだ見えていない何かがあるのか……

「……」

「……お兄様?」

「……」

 その時、微かに足元が揺れた。

 足を止め、周囲に視線を走らせるヴォルフラム。そして言う。

「何か来る」

 そこでミランは頭を切り替える。分からない事を今ここで考えても無駄だ。左手で剣を抜き、背中の大盾を右手に構える。

 本来、ミランの大盾はこんな狭い洞窟内では扱いづらいとも思う。しかし逆を言えば、狭い場所だからこそ大盾一つで攻撃を防ぐ事ができる。


 そして洞窟の揺れは少しずつ大きくなる。岩食いが現れるのだ。


★★★


 滅びた旧都市。

 現地で待つのはアルタイルとベルベッティア。

「ねぇ、アルタイルちゃん。ベルちゃんは長く生きて、色々な世界を見てきたよ。だから分かった事があるの」

「……」

「アイザックの時、頭の中だけで作戦を立てた事があったよね?」

 それは喋らないで意思疎通する事を可能とした古代魔法。

「……ああ」

「あれは古代魔法じゃなかった」

「……」

「声を発する事のできない精霊や妖精とのやり取りを可能とする方法。それを利用したものだと思うの」

「……何故そう思う?」

「いつも冷静なアルタイルちゃんでもリアーナちゃんの事で余裕が無かったんだね。『古代魔法ではない』と断定したけど、根拠は何? 古代魔法である事を確認する為の魔法? そんな意味の無い魔法が存在する? そう考えたら精霊や妖精と意思疎通をする方法があると思った。その時にあのアイザックとの事が重なったの。あの時に使える古代魔法としては都合が良過ぎるとも思っていたから。でも全てはただの勘だよ」

「……それが確かだとしたら?」

「ここからが大事な話。ベルちゃんにとっては魔法の原理の話も、アルタイルちゃんの能力も追究するつもりはないの」

「……」

「アイザックの時、アルタイルちゃんはシノブちゃんに『古代魔法』と説明して、ヴォルちゃんと骨を探すような素ぶりも見せた。それはアイザックに向けてではなくシノブちゃん達に対しての事だった。つまり隠したかったの。その『方法』をね」

「……」

「……」

「……古代魔法が廃れた理由は使い勝手が悪いだけではない」

「にゃん?」

「精霊、妖精、悪魔、次元のずれた存在に力を借りる事は、精神や肉体に悪影響を及ぼす。使い続ければ廃人、そして死に至るだろう。それを防ぐ為に生み出されたのがララ・クグッチオの現代魔法」

「……それは隠すような事じゃないよ。逆に古代魔法の危険性を説明すべきだよ」

「古代魔法の効果は格段に高い」

「それを知ったら……」

「……」

「……だからなんだね」

「……」

 ベルベッティアと同じく、アルタイルも気付いていた。


『シノブは自身の命を軽く見ている』


 それは生まれ変わった事に起因しているのだろう……シノブは自分の命を軽んじ、周囲の為にその命を投げ出してしまう。

 そんなシノブが古代魔法を使えるようになってしまえば、効果の高さに気付き、躊躇なく使用するだろう。自分がどうなろうとも仲間を助ける為に。

 アルタイルがその『方法』を教えなくとも、シノブなら少しのヒントでそこへ辿り着くかもしれない。

『古代魔法が廃れたのは、不便なもので使う必要は無いから』と思わせる事が大事なのだ。全てはシノブを守る為の嘘。


「ララちゃんは古代魔法の事を知っているの?」

「……ああ」

 つまりララとアルタイルは裏で繋がっている。そしてそれはアルタイルが神々の手である事も示唆していた。もちろんベルベッティアはそれを口外するつもりも無い。

「分かったにゃん。ベリーちゃんには少しかわいそうだけどね」

 ベルベッティアは苦笑いを浮かべる。

「……」

 古代魔法にも興味を持つタックルベリーには悪いと思うが、シノブを守る為に全ての真実を話す事はできない。

「ねぇ、古代魔法をアルタイルちゃんは使っているのでしょう? 心と体は大丈夫?」

「……必要の無い心配だ」

「なら良かった」

 ベルベッティアは笑う。

 それはアルタイルという存在に関係する事象。きっと話してくれる事は無いだろう。

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