圧倒的戦果と闇討ち
実戦訓練終わり!!
我がグループの圧倒的戦果!!
生徒だけでは絶対に無理と思われる地竜を倒したのだ。学校中の話題になっている。
細かく的確な指示、先頭に立つ度胸、相手に合わせた有効な作戦、指揮するに見合うだけの戦力。特別学部に相応しい生徒、リアーナ。
休み時間。
リアーナは……人気者だなぁー
もう友達がいっぱい出来てるし、周りにいつも誰かいるし、男共がエロい目で胸を見てるし。まぁ、地竜を倒した有名人だしな。
それに対して俺は友達が出来ねぇなぁ。エルフの町では比較的に友達も多い方だったんだけど。エルフには俺の見た目に偏見が無い。それはエルフの町に住む人間もそうだ。
ただ王立学校は一般的な価値観を持つ人間の方が圧倒的に多い。つまり偏見を持つ者が圧倒的に多いという事だ。それを知っている数少ないエルフの生徒は、俺にあまり関わろうとしない。
「ねぇ、ロザリンド。ロザリンドは私の容姿に偏見が無いんだね」
その中、数少ない普通に接する事が出来るのが隣のロザリンドだった。
「裏切りの女神アリア。その容姿に似ている不吉な生徒。きっと災いを呼ぶから近付かない方が良い。あの美しい容姿は人々を騙す悪魔の姿なのだから。しかも実力が無いのに裏口編入……とか色々と言われてるみたいね」
「詳しいね」
「よく聞くから」
「否定しといてよ」
「否定した方が良かったの? あまり気にしていないみたいだから私も気にしていなかったの」
「まぁ、確かにどっちでも良いんだけどね。ちなみにロザリンドは気にならないの? そういう話」
「私の国はこの大陸より少し離れた島国だから。意味の無いただの迷信ね。ただどうして編入出来たのかは不思議だけれど」
「それは編入を許可した誰かさんに聞いてみて。しかし裏切りの女神って。調べた事が無かったけど、アリア様が何かした?」
「いいえ。何もしていない」
「だったら何で?」
「だから何もしていないから。この大陸にも戦乱期はあったし、飢饉や疫病が蔓延した事だってあった。でも、どんなに困難な時も女神は絶対に助けてくれなかった。人を裏切った、だから裏切りの女神」
「はえ~他力本願とはこの事だね」
「ふふっ、そうね」
「ロザリンドも笑うんだ?」
「当り前じゃない。私を何だと思っているの?」
「だって、普段あまり笑わないじゃん」
「そう……そうね。そのせいで友達も出来ないみたいだし」
「いないの?」
「残念ながら全く」
「友達欲しいんだ?」
「だから私を一体何だと……私だって友達は欲しいし、友達と、その……恋?の話とかしてみたいし……」
恥ずかしそうに言うロザリンド。
こりゃ可愛いわ~
最初の印象と大違い。こうやって普通に話せれば友達もすぐ出来るだろうに。ただ確かにあんまり馴れ合うような印象が無いもんな。
「せっかくの集団生活なのに友達が私とリアーナだけなのも確かに寂しいか」
「っ!!? 友達? 私に? シノブとリアーナが?」
「ちょっと、リアーナ~」
「うん? どうしたの?」
「ロザリンドとは友達だよね?」
「ロザリンドちゃんと? 私? そのつもりだけど」
「ね?」
「私に友達……ありがとう、二人とも」
ロザリンドは微笑むのだった。
★★★
どんなに苦手な授業でも出席しないといけないわけで。例えそれが戦闘訓練でもだ。
さて今日の相手は……うわっ、ディンのクソ野郎じゃん。
「相手を倒す事も必要だが、相手を無傷で制圧する事の方が遥かに難しい。自分の相手を見極めて適切に対処をしなさい」
先生の言葉に俺は……うん、悔しいが前準備無しで勝てる気が全くしねぇ。ここは防御を固めて大怪我をしない方向で行こう。見極めて適切にそう判断しました!!
俺もディンも長剣という一般的な武器を手に取る。
しかしまさに一瞬。
開始の合図と共に俺はディンに投げ飛ばされた。
ドカッ
「ぎゃふんっ」
石畳の床に背中から叩き付けられる。
制圧する方向で来たかぁ~
そしてその俺の体を、ディンは上から膝で押さえ付ける。胸に当てられた膝が沈み込んだその瞬間。
ベギギッ
今まで聞いた事の無い、それは骨の折れる音。声さえ出せない激痛、呼吸が出来ない。ろ、肋骨、肋骨とか逝ってしまったの!!?
「やめなさい!!」
ロザリンドがディンを引き剥がす。
そして即座にリアーナの回復魔法。
「シノブちゃん!! 大丈夫!!?」
「……ま、待って、まだ心臓バクバクしてる……」
もちろん先生に厳重注意をされるディンなのだが平然とこう言い切るのだった。
「特別学部に、それに値しない生徒が在籍するからこういう事故が起きる」
事故、って……完全に故意のくせに……
★★★
それは寮での話。
「産まれて初めて骨とか折られたよ。めっちゃ苦しいね」
「明らかに故意だわ」
ヌイグルミを抱えたロザリンドは言う。そして続ける。
「……でもディンが言う事にも一理あると思うの。力の差のある者同士が向き合うのは危険だわ」
「確かに。そうなんだよねぇ」
「友達だからあえて聞きたいの。地竜の事で自分が何て言われているのか、シノブ自身も知っているのでしょう?」
「もちろん。むしろ聞こえるように言われてるし」
リアーナが地竜と戦っていた時、シノブはリアーナに守られているだけだった。もしシノブがその場にいなければ、リアーナはもっと楽に地竜を倒せていたのではないか。役に立たない所か、リアーナの足を引っ張るお荷物がシノブなのである。
「本当なのか、間違っているのか。特別学部に相応しい生徒なのか、そうじゃないのか」
「特別学部に相応しいかどうか、それは私が決める事じゃないから。でもリアーナに守られていたのは本当だけど、私がいなければ地竜をもっと楽に倒せたってのは間違い。でもその場を見ていないロザリンドは私の話を単純に信じられる?」
「いいえ。信じたいとは思うけれど」
「だよね」
ロザリンド、正直で良い子だ。
「まぁ、良いよ。ロザリンドとは長い付き合いになりそうだし、長い目で見て判断してくれればね」
俺は笑った。
「……って、ロザリンドに言われた」
「ねぇ、シノブちゃん。ちゃんと話そうよ。罠を考えたのはシノブちゃんだし、地竜を誘導する為には攻撃方向の細かい調節が必要だった。でも誰もシノブちゃんの言う事を聞かないから、私が代わりに指示を出した。指示を出す為にお互いが近くにいる必要があった。地竜を倒すのにはシノブちゃんが絶対に必要だった。ロザリンドちゃんだけじゃない、きっとみんな分かってくれるよ」
寮での話をリアーナにしてみた。
「いや、別にしなくて良いって」
「どうして? 私はシノブちゃんが悪く言われているのは嫌だよ」
「だって……かっこいいじゃん」
「……えっ?」
「クラス中から最弱と思われ、虐げられる存在。しかしそんな存在が実は特別な力を持つ強者だったのだ。まるで物語の中の主人公。それが私」
「シノブちゃん?」
「そしてある時、私は隠されたその力を魅せ付ける。今まで私を下に見ていたクラスメイト達は驚愕と共に平伏すのだ……最高、私、カッコ良過ぎて震えちゃうよ」
「じゃ、じゃあ、シノブちゃんがそう言うなら私も黙ってるね……」
しかしそんな機会はすぐに訪れるのだった。
★★★
さてさて特別学部の特別な授業。
パーティーを組んでの模擬戦。それは個ではなく集団で戦う為の訓練。
「パーティーを組んで、事前に指定された場所で試合をしてもらいます。実戦だと想定して試合日の当日まで、勝つ為にあらゆる努力をして下さい」
「はい、先生」
「シノブさん。何でしょうか?」
「事前に対戦相手を闇討ちするのは許可されていますか?」
教室中から怪訝そうな視線が集まる。
きっと、何言ってんだ、コイツ、アホじゃね? とか思われているんだろうなー
しかし先生は表情を変えずに答える。
「試合前に対戦相手へ危害を加える行為は禁止しています。もちろん人質を取っての脅迫なども許しません。その辺りは先生達も厳しく目を光らせているので絶対にしないように」
「分かりました」
「全く。何を言っているの。駄目に決まっているじゃない」
着席した俺の隣でロザリンドが小さく言う。
「けど実戦を想定するなら、もしかしてアリかなって」
「対戦相手を闇討ちってアリなわけないでしょう」
「例えば戦争相手の国のトップを暗殺出来る機会があるなら暗殺するでしょ? 結果として勝てるなら」
「で、でも、そんな卑怯な方法……」
「正々堂々と戦って、仲間の死体の上で勝利宣言をしたいのなら、真正面から当たれば良いよ。私はゴメンだけど」
「それは……そうなの?……相手が魔物ならまだしも……でも、それは……」
「まぁまぁ、実はそんな難しい話じゃなくて、私は嫌われてるから自衛の為なんだよ」
「自衛?」
「そそ。闇討ちが駄目なのは最初から分かってる。でも先生から改めて言って貰えれば、事前にされる嫌がらせを防げるからね」
「それを見越して?」
「まぁね。それより確かパーティーって五人だっけ?」
「え? あ、そうね。シノブはどうするつもり? 不参加でも大丈夫だけれど」
「出るよ。とりあえずリアーナかな」
「……止めた方がいいわね」
「どうして?」
「リアーナの為に。私も友達としてのシノブは好きよ。けど命を預けるパーティーとしては信用出来ない。戦えない、魔法も使えない、シノブはきっとリアーナの足を引っ張る」
「うん。よく分かる」
「この授業の結果は成績に大きく影響するの。リアーナなら、きっと誰と組んでも良い成績が出るはずよ。その邪魔は友達だからこそしてはいけないと思う」
なんて話をしている所に。
「ねぇねぇ、シノブちゃん。私達は一緒のパーティーで良いよね」
リアーナだ。
いつの間にか授業は終わっていたらしい。
「うん。もちろん」
「ちょっと、シノブ!! 私の話を聞いていた!!?」
「ロザリンドちゃん? どうしたの?」
「リアーナ。この授業の勝敗は成績に大きく影響するの。なるべく強い人とパーティーを組むべきだわ。あなたとシノブの仲が良いのは知っているけど、今回は仲が良いなんて理由でパーティーを組むべきじゃない」
「ロザリンドはリアーナの事を心配しているんだよ。永遠のライバルみたいな所があるからね」
俺は軽く笑う。
「あのね、シノブ、笑っている場合じゃないでしょう? 私の言った事、分かるわよね? シノブが一緒だとリアーナの負担が多くなる。それだけ勝つのが難しくなるの」
「ああ、そういう事なんだ? 大丈夫だよ、ロザリンドちゃん」
「大丈夫って……」
「だってシノブちゃんは私よりも強いよ?」
「……え?」
「一対一、決めれらたルールの中での試合なら私の方が強いと思うけど、何でも有りの勝負なら、シノブちゃんは私より強い」
「でも……シノブは武器も魔法も使えないって……」
「それでもだよ。だから地竜の時だって本当はシノブちゃんがいたから」
「リアーナはそれ、寮でもよく言ってるけど、本当なの? 嘘でしょ?」
栗色をしたショートヘア、緑掛かった瞳の彼女。黙っていれば、どこぞのお嬢様にも見えるような整った顔立ちだが、その内面は実に活発な同級生。
マルカ・ヤンペグ。
リアーナの寮での同居人であり、その縁で出来た、俺には数少ない友人である。彼女も出身がこの王国ではないので、俺に対する偏見が無い。
「私もマルカと同じよ。信じられない」
俺との繋がりから、ロザリンドとマルカも今では友達である。
「どう? ロザリンドもマルカも、私達とパーティー組まない?」
その俺に、二人は首を横に振って答えるのであった。
クックックッ、二人とも……俺達と組まなかった事を後悔させてやるぜぇ……




