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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
王立学校編

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同居人と魔物鹿

 王立学校は基本的に二人一部屋の全寮制。

 寮と言うよりホテルなんだけど。随分と立派な造りしてやがんな。まぁ、ここの卒業生が将来的に大陸を回していくわけだから当然か。

 王族、貴族、ド偉い身分の野郎もいるだろうし。

「部屋は……」

「私の部屋はこっちみたい。シノブちゃんは?」

「んー向こうだね。一緒の部屋だったら良かったのに」

「うん。シノブちゃんと一緒なら楽しいと思うけど残念だよね」

「まぁ、リアーナ。舐められないように一緒の部屋の奴にガツンと一発食らわせてやって!!」

「えっ、な、何を?」


 ここが俺の部屋か。

 確か、もう荷物は運び込まれているはず。

 ノックしてみるが返事は無い。与えられた鍵で中に入ると、まだ同居人は戻って来ていないらしい。

 部屋の中には机と椅子のセットが二台。共通で使うであろうクローゼット。そして二段ベッド。使われているのは下らしい。じゃあ、俺は上を使う事になるのか。

「ひゃっほう!!」

 二段ベッドの上ってテンション上がるね!!

 それにしても……使われている下のベッド。どデカい、もう抱き枕みたいな領域のヌイグルミが置かれていた。これはヴォルフラムに似た犬。ん、熊か? 分からん。

 使われている机の上にも、ヌイグルミが何体も並んでこっちを向いていた。よく部屋の中を観察して見れば、同居人のスペースはファンシーに溢れている。

 ……夢見る少女?

「シノブだったのね」

「ロザリンド?」

 戻った同居人はロザリンド・リンドバーグ。

「ちょうど一人だったから編入生が来ればここになると思ったわ」

「知ってるクラスメイトだから少し安心したよ」

「そう? なら良かった」

 お互い部屋着へと着替えるのだが、ロザリンドの服……可愛らしい動物がプリントされている。初めて見た時はクールな印象だったが……

「じゃあ、改めてよろしく、ロザリンド」

「ええ。こちらこそ」

 椅子に座るロザリンドは胸元に大きなヌイグルミを抱えていた。

「……好きなの? ヌイグルミ」

「やっぱり変かしら? 私の印象に合わない?」

「意外と言えば意外かも知れないけど、まぁ、リアーナも可愛いものは好きだし」

 リアーナもよく小さいアバンセやサンドンを抱えている。

「私の実家は厳しくてね。ヌイグルミなんて持たせてくれなかった。その反動かもね。大好きなのよ」

 よく分からん犬だか熊だかみたいなヌイグルミの頭をロザリンドは優しく撫でた。

 よっぽど好きなんだな。

「ねぇ、シノブ」

「何?」

「あなた、どうして私達のクラスに編入が出来たの?」

「まぁ、そう思うよね」

「他のクラスならまだしも、あなたの動きは到底ここで通用するものじゃない。もしかして魔法へ極端に特化しているの?」

「ああ~言いづらいんだけど、私は魔法も全く使えないんだ」

「使えない? 全く? だってそんな人って……」

「まぁ、普通は存在しないんだけど、現実にはここにいるんだよねぇ」

「待って。それじゃあなたはどうやって……まさか本当に裏金とかで……」

「いやいや、それは無いけど。何でだろうね。私も不思議だよ」

「……学部を変更した方が良いと思う。シノブにこのクラスは無理よ」


 王立学校。そこには様々な学部が存在する。戦闘に関係しない学部だっていっぱいある。例えば数学、歴史学、経済学、建築学、医学、魔法学等々。そういう学部は戦闘能力を重視しない。

 しかし俺がいるこのクラス、この特別学部は別。武芸、魔法、学業、全てに秀でた者だけが籍を置けるエリートクラスなのだ。


「前、この部屋に居た子も付いて行けなくて学部を変更したの」

「そうだね。後で学部変更を頼んでみるよ」

 学園長の意向っぽいから、絶対に無理なんだけどね。

「その方が良いと思う。シノブの為にも」

 そう、俺はこのエリートクラスに合ってない。


★★★


 勉強は全く問題無い。と言うか成績はトップ。

 しかしだ、勉強は出来ても実戦がね……


「さて今日はグループに分けて実戦形式で訓練をしてもらう。魔物の討伐だ」

 僅かに与えられた食料と水。武器は各々の得意な物を持ち、地図を片手に山の中へと放り出された。先生がここに戻る明日までに出来るだけ多くの魔物を討伐する。

 クラスを分けたのは、どのグループがより多くの魔物を討伐するか競わせる為。とりあえずリアーナと一緒なのは救いだぜ。

 1グループ15人。そんな俺達を取り仕切るリーダーは……

「俺達三人が前衛で行く」

 ディン・ロイドエイク。俺を嫌うクソ野郎。隊列を編成していく。

「……リアーナ。お前が最後尾だ」

「……うん」

「待ってよ。先頭はリアーナの方が良いと思う。エルフは森の種族だから気配に敏感だし、リアーナはこういう訓練受けているんだよ」

「変更は無しだ」

 俺の提案なんて全く聞く気無し。何言っても無駄か。

「分かった。それで私は?」

「ここに残れよ。お前じゃ俺達の足を引っ張るだけだろ。役立たずを守りながらなんて面倒なんだよ」

「シノブちゃんは私が守る。それで良いでしょう?」

「好きにしろ。少しでも遅れたら置いて行くからな」

 そうして俺達は道無き山の中に分け入るのだった。


 先頭の三人が手に持つ剣で目の前の草や枝を切断しながら進んで行く。

「ねぇ、シノブちゃん……どう思う?」

「魔物って人に害を成す獣の事だからね。先生がその討伐って言ってたから、近くに人の生活圏があるはず。前のバカは渡された地図を『山での自分の位置を把握する為』って思ってるだろうけど大間違い」

「うん。地図はその生活圏を見付け出す為だと思う」

「山際に生活圏があるなら、食料や燃料を求めて必ず山に入るはず」

「だったらそこに道が出来るし、より簡単に山奥へ入る事も出来るよね。そこなら魔物の発見率も上がるはずだよ。だから私達がする事はまず人の住んでいる所を探す事」

「まぁ、この辺だろうね。川が流れてるし。人は水源から離れられないから」

 俺は地図を指差し、リアーナも頷く。

「ディン君に意見してみる?」 

 そのリアーナは手に持った短剣で木々を傷付けながら歩いていた。これは歩いた場所の目印。

「無理。バカだもん。あっ、リアーナこれ」

「ありがとう」

 これ、疲労回復に効く薬草なのよね。

 二人して時たま草を毟って口の中に放り込む。この辺りのサバイバル術はサンドンにしっかりと叩き込まれている俺達。

 しかしそんな俺達を見てグループの面々は……

「おい、見ろよ。あの二人、草食べてるんだけど」

「大丈夫なの?」

「田舎の方では草まで食うのかよ?」

「信じられない。汚くない?」

「産まれが違うんだよ、産まれが」

 はいはい、無視無視。

「シノブちゃんは出てくる魔物は何だと思う?」

「事前に情報無しで連れて来られたんだからそんな特別なヤツじゃないでしょ」

 野犬みたいのとか、熊みたいのとか、蛇の大きいヤツとか。こっちはこの人数だし、落ち着いて対処すれば問題は無い。多分。


★★★


「陣形を乱すな!! 山火事の可能性がある火炎系の魔法は使うな!! 後衛は俺達が仕留められなかった魔物の始末、分かったな!!」

 前衛のディンは大声で指示を出しながら剣を振るう。

 木々の間から姿を現す魔物。栗色の体、細くもしなやかな四肢。頭部には巨大な幾つにも枝分かれした二つの角を持つ。その姿は前世で言う鹿。しかしこっちの鹿は農作物を荒らすだけではなく非常に好戦的でまさに魔物。

 そんな魔物鹿の集団と遭遇していた。

 後衛からの弓や魔法での攻撃。そこで魔物鹿の先制を防ぎ、前衛がその角での攻撃を受け止め完全に動きを封じる。その魔物鹿をディン達が剣で倒す。倒し切れなかった魔物鹿は後衛が止めを刺す。

 俺の目の前。横たわり荒い息をする魔物鹿。

 ……魔物とはいえ、生き物を自らの手で殺すのには抵抗がある。でも俺が生まれ変わったのはこういう世界。短剣を抜き、魔物鹿の首に突き立てた。

 それにしても……

「リアーナ凄ぇ~」

 複数人で対抗しているディン達に対して、リアーナは一人で魔物鹿の対処をしていた。

「たぁぁぁぁぁっ!!」

 リアーナの振るうハルバード。片手で魔物鹿の突進を打ち返す。もう片方の手には魔道書。すでに魔法の詠唱は終っていた。打ち返した魔物鹿に光の矢を撃ち込む。

 そして戦いながらも周囲の状況に視線を走らせる。

 魔法で魔物鹿を牽制し、押されている所へ助けに入る。前衛、後衛、二つの役割を一人で行う。


 魔物鹿は二十を越える集団であったが、リアーナもいるし余裕だな。

「リアーナさん、助かりました」

「ロザリンドと試合した時から分かってはいたが、実戦を目の前にすると改めて強いな」

「うん。本当、怪我も無く倒せたのはあなたのおかげ」

 何人かの生徒がリアーナの周りに集まっていたのだが……

「リアーナ」

 ディンが来るとみんな離れてしまう。

「お前の役割は後衛だと指示したぞ。確かに今回は運良く全てが上手くいったかも知れないけどな、指示を無視して行動されるとこっちは迷惑なんだよ」

「……そうだね。ごめんなさい」

「いいか、お前の勝手な行動でお前自身が死ぬのは構わない。けどその行動で周囲の人間が死ぬかも知れない、その事を考えろ。これからは俺の指示にちゃんと従え。それが出来ないなら、そっちの役立たずとここから引き返せ」

 そっちの役立たず……確かに。瀕死の魔物鹿に止めを刺すくらいしかしてないしね。

「うん。分かった」

「王立学校もこんな二人を編入させるなんてな。それとお前、何もしていないんだから魔物の角を切っとけよ。討伐数が分かるようにな」

 ディンは俺を睨みそう吐き捨てる。

「へいへい」


「前衛のあのバカ達が充分な仕事をしてれば、リアーナが出る事も無かったのに。力が足りないの自分で分からないもんかね」

 俺は溜息を吐いた。

「でもみんな無事で、危険が無ければ一番だよ」

 と、リアーナは笑うのだったが……その危険が俺達に迫っているとは、思いも寄らなかったぜ。

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