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リトライ!!─救国の小女神様、異世界でコーラを飲む─  作者: 山本桐生
鬼ごっこ編

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217/245

水門と心臓

 圧倒的な速さ。

 ヴォルフラムはハリエットと共に鬼達の包囲を抜け、その外側、さらに上流へと移動していた。

 その目の前。

 川から一部の水を引いて作った溜池。それはタックルベリーが魔法で土を掘り返した簡易的な溜池である。

「ハリエット。合図だ」

 そして今、空で魔弾が回転している。

「はい、では」

 堰き止めている土砂で作った水門の部分にはハリエットの糸と魔法陣が張り巡らされていた。それに魔力を通す。

 連続した爆発音。土砂は崩れ、溜池の水は流れ出した。そして大量の水が再び川へと合流する。


★★★


 上流部分。

 ユリアンは上空で回転する魔弾を確認する。それと同時に退避の命令を叫ぶ。

『上流、堰き止めていた溜池の水門を壊した。川が氾濫する。早く逃げろ』と。

 そして自身は何人かの鬼達を誘導するように川沿いへと移動していた。上流でハリエットが水門を破壊したのだろう、水量と水位はみるみると上がっていく。

 そこでユリアンは何人かの鬼を川の中へと突き落とした。もちろんこれも計画のうちである。


★★★


 意図的に川を氾濫させ、鬼達を一掃する。

「ありえない」

 ユッテは言う。

「何で?」

「短期間でそれ程の水を溜められるわけがない。ただの時間稼ぎ。鬼達だけに被害を与える事は不可能」

 俺は笑う。

「自分で言ってたじゃん。時間稼ぎは無駄だ、って。それに私ができないと本当に思う? だって私だよ?」

 もちろん無理だったんだよ。小さい溜池しか用意はできなかったさ。

 きちんと観察すれば川は少しだけ増水した程度だと分かったはずだった。しかし鬼の特殊能力、近親者同士のテレパシーでその情報は鬼達の中で一気に広まっている事だろう。『川が氾濫する』……ユリアンの言葉だ。

「もうユッテにもベレントからそんな報告が入ってきてるんじゃない?」

「……」

 ユッテも分かっている。川の氾濫で鬼達を一掃する事など不可能。そう分かりつつも、俺を相手にして疑念が生まれている。もし本当だったら……

 何人かの鬼が川に流された報告もあり、付近の鬼達も進行か撤退かで混乱しているはず。

「私達もここを離れる。ここは引き分けって事でどう?」

「ここは退くけど、引き分けにはならない」

 態勢を整える為にユッテは退く。

 そんな様子を見ていたシャーリーは呆れたように言うのだった。

「怖ぇーシノブ、超怖ぇー」


★★★


 それから間もなくである。リアーナとタカニャが到着。そしてシャーリーの合図でみんなが続々と戻る。その様子をユッテも遠目から確認して、ただの時間稼ぎである事を確信するだろ。川の氾濫があるなら、この都市に戻る事はできないからな。


「私達の目的は他の鬼達を排除しつつアビスコだけを都市内に誘導する事。ここにみんなで集まったら鬼達は四方八方から攻め込んでくるだろうね。つまり作戦は失敗」

 俺はハッキリそう口にした。

 そんな俺に対してシャーリーは言う。

「だから怖いって。作戦通りってのが」

「いやいや、作戦通りならアビスコだけちゃんと誘い込めてたよ」

「それでも予想の範囲内なのがシノブちゃんの凄い所だよね」

 と、リアーナ。

「でもここからが正念場。一日で決めないとこちらが持たないわ」

 と、ロザリンド。

 そう、アビスコだけを誘い込むなんてそんな都合良くいくかね?と思ったので、これも想定内なのである。

 ユッテ側は思うだろう……アビスコを誘い込む為の作戦は失敗した、今は次の作戦の為の時間稼ぎ、だからこそすぐにでも攻め込むべき……と。

 しかし、これも俺達が狙った誘い込みなのである。

「キオ、大丈夫?」

「だ、大丈夫です。た、大した怪我じゃなかったので」

 キオを殺さなかった辺りに、ユッテという人間性が見える。

「じゃあ、アビスコやユッテの様子をお願い」

「は、はい」

 キオの情報から、ここに集まった鬼達は全員が戦闘に参加し、後方に控えるような一団は無かった。つまり向こう側にも休息は必要なわけで、いますぐ攻め込んでくる様子は見えない。

 早くても明日早朝か。

 それとこれも確認しないと。

「……で、アルタイルえもん。どういう事なの?」

 全員の視線がアルタイルに集中する。

「……アルタイルえもんではない」

「……」

「……」

「……」

「……アビスコの能力は分かっていた。アイザックがアビスコの心臓を利用していたからだ」

「なっ、ちょっ、ど、どういう事なの!!?」

 ここでアイザックか!!?

 神々の手として金色のゴーレムを生み出す転生者。今度は全員の視線がドレミドとアリエリに集中する。

「わ、私達を見ても何も分からないぞ?」

「うん。アビスコの名前なんてね、聞いた事も無かったよ」

「三つ首竜はアビスコの心臓を利用していた。だから早く回収すべきと判断した」

 アルタイルは言う。

 ドレミドやアリエリに自我があるのは、人間をベースとして造られたゴーレムだったからだ。

 しかしゼロから作られた人形使いの三つ首竜が自我を持ち、強力な能力を有していたのは、アビスコの心臓を利用していたから。

「アルタイルはアイザックの記憶を見た時に、アビスコの事も知ったって事?」

「そうだ」

 アイザックも特別な存在だ。きっとどこかでアビスコを知り、その心臓を利用したのだろう。

「つまりどういう事ですの?」

 リコリスに答えるのはユリアン。

「つまり、アルタイルは心臓をアビスコに戻す事で弱体化したわけだろ」

「あたしの思った通り。やっぱりアルタイルえもんは裏切ってなかったよ」

「いや、シャーリーは『裏切り者』って言ってましたわ」

「ちょっとリコリス、バラすんじゃないよ」

「俺も聞いたけど」

「ユリアンも張っ倒すよ?」

「お前達。少し静かにしろ」

 ビスマルクの目がギラリと光る。

「はいですわ……」「あ、ああ……」「はい……」

 そのままアルタイルはアビスコと行動を共にして機をうかがっていたというわけだ。

 ちなみにではあるが人形使いの三つ首竜は、俺がアイザックを吹き飛ばした時に瓦礫に埋もれ機能を停止していた。アルタイルはわざわざそれを掘り起こしてアビスコと接触した。見た目はこんなだけど本当に面倒見が良いな、めっちゃ良い奴。


 さてさて。

 夜通しの警戒はベルベッティアを含めて、帝都兵が交代でしてくれるとの事で我ら主要メンバーはお休みよ。その中での俺とミラン。

「すまない。俺のミスだな」

「ああ、ユッテの事? 仕方ないでしょ。私だって途中まで騙されてたんだから。そもそも出発点が違うんだよ。向こうはこっちの事をある程度は知ってるんだろうけど、こっちには情報が全く無いんだから」

「それでもユッテと最初に会ったのがシノブだったら、きっと何かに気付いたはず」

「あははっ、買い被りだって」

 さすがに俺だって分からんて。

 ミランは言う。思い返せば違和感のある発言もあったらしい。ミランが鬼達の目的を聞いた時、ユッテは『私だってあれくらい戦える』『私は隠れるように生きている』『私は自分の力を外で試す事もできないの?』と言っていた。全て『私達』ではなく『私』なのである。それはユッテ自身が自分を一番上に置いているからではないか……

「まぁ、ミランも仕返ししたいだろうからさ、ユッテはミランに任せるよ」

 そうして俺は笑うのだった。


★★★


「シノブ様。これ以上は防御魔法が限界です」

 ホーリーの言葉にフレアも頷いた。

 四方八方から迫る鬼達。

「うん。もう解いて大丈夫だから」

 防御魔法を解くと同時、都市の中に鬼達が雪崩れ込む。

 相手が広い範囲に分散していたから対応ができていたけどさぁ……いや~持たんね。

 集中されると、何処も相手を押し止める事ができない。進行を遅らせるのがやっとだ。その中で進行を遅らせる事もできない相手が一人。

 アビスコ鬼王だ。

「グハッ」

 ビスマルクの大きな巨体が地面を転がる。

「てめぇ、この野郎が!!」

 ミツバの巨大な戦斧の一撃を、アビスコは右手一本の金棒で易々と受け止める。そのまま力で戦斧ごとミツバを叩き飛ばした。

「リアーナ、ベリー、魔法でとにかく近付けないようにして!! 正面からは戦わないで!!」

 ロザリンドの指示と同時、すでに二人は魔法の詠唱を終えていた。

 あらゆる種類の魔法攻撃がアビスコを撃つ。

「あのね、ちょっと無理」

 アリエリの見えない力で作られた壁を、アビスコは物ともせずに歩を進める。

「お前達、そろそろ降参したらどうだ? この状況で勝てる見込みはもう無いだろ?」

 左目、左腕の無いアビスコは、自傷でさらに強くなる余力を残している。

 そこでリアーナは叫ぶ。

「私達にはシノブちゃんがいるから!! シノブちゃんがいれば私達は絶対に負けないよ!!」

 その言葉を聞き、アビスコは言う。

「そうか。やはりシノブを先に叩き潰すべきだな」

 そして笑顔を浮かべるのだった。

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